表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
174/373

(襲来)2

 探知と鑑定の連携網を広げた。

無理して広げたからか、あっ、頭が痛くなってきた。

流入する情報量が多過ぎて処理できない。

 そこへ幸いというべきか、寮監の声が聞こえた。

「ワイバーンが襲来した。

直ぐに討伐される。

それまで各自、慌てず騒がず、

部屋の窓とは反対側で静かにしているように」

 俺は情報をワイバーンに限定した。

直ぐに判明した。

群れが二つ。

すでに国都上空に侵入しているのが5翼。

西の外壁を襲撃しているのが8翼。

 んんっ・・・、それとは別に小さな点。

5翼が向かう先にそれがいた。

外郭東区画、例の公爵邸だ。

そこにワイバーン。

だとすると、あの卵が孵ったとしか考えられない。

たぶん、そうなんだろう。


 俺は光学迷彩を施し、寮の上空へ転移した。

ワイバーンの群れをズームアップした。

5翼は誰に遮られる事もなく公爵邸上空に達すると、一気に下降した。

ワイバーンの雛を助けるのだろう。

 8翼の方は外壁上で暴れていた。

国軍を完全に圧していた。

兵士達が術式が施された弓や槍、弩、連弩、

加えて攻撃魔法で撃退しようとするも、功を奏さない。

巧みに躱され、飛び跳ね回られて圧し潰され、

ウィンドスピアまで喰らわされて犠牲者を増やしていた。

このままでは西の外壁はワイバーンに墜とされてしまう。

 俺は西の外壁近くに転移した。

光学迷彩を纏っているので誰にも気付かれない。

それでも用心に越したことはない。

探知と鑑定を継続。

他の魔物や国軍魔導師、近衛魔導師の参戦を警戒し、

並行してワイバーンに対処する事にした。


 ワイバーンはドラゴンとは異種のAランクの飛ぶ魔物である。

四つ足と翼、ドラゴンに似てるが完全な異種なので交配はできない。

その成体の体長は5から10メートルほど。

翼を広げれば10から20メートルほど。

武器は体重と鋭い鉤爪、鈍重な尻尾、風魔法。

体重で圧し潰す、鉤爪で引き裂く、尻尾で弾き飛ばす、

風魔法のウィンドスピアで貫く。

全体攻撃としてのウィンドストームもあるので手強い。

それが群れで襲来した。

個体によってはSランクもいるが、群れともなると災害でしかない。


 ワイバーンへの攻撃は使い慣れた水魔法にした。

他に選択肢はない。

何故なら、俺が持つ魔法は魔女魔法のお陰で多彩過ぎて、

それら全てを磨こうにも時間が足りないのだ。

下手すれば一生でも足りないかも知れない。

そこで水魔法を土台にする事にした。

一芸を極め、それでもって他にも応用する。

そう決めた。

 選んだのは何時もの様に初級攻撃魔法と言われるウォータボール。

中級者や上級者になると選択しないだろうが、シンプル・イズ・ベスト。

一発のEP数値は通常2から4のところ、今回は特別に10。

それを圧縮に次ぐ圧縮、圧縮。

大きさより強度と弾力に拘った。

 イメージは迫撃砲。

8翼の背中をロックオン。

ホーミング誘導。

魔物の動体視力を警戒して軌道はカーブ。

8発を続け様、斜め上に放った。

打ち上げから落とす途次に曲げた。

 国軍に集中していたワイバーン8翼に着弾。

鈍い命中音。

厚い外皮に穴を開けて貫いた。

急所ではないが、貫通なので無事でいられる訳がない。

異様な悲鳴と盛大に噴出する鮮血、のたうち回り、倒れ伏す、

外壁から落下する等々様々。

 

 公爵邸に降下したワイバーンのリーダーはテントの前に来た。

今も雛の鳴き声が聞こえる。

前よりも弱々しい感じ。

そこでリーダーは大きな鳴き声で応じた。

途端、雛の声に力が籠った。

 鉤爪でテントを左右に引き裂いた。

雛は檻に囚われていた。

歩み寄り、面倒臭いとばかりに風魔法を放った。

檻の一方をウィンドスピア3発で断ち割った。

 雛が転げるように檻から出て来た。

それをリーダーは二本の前足で抱きかかえた。

雛が嬉しそうに鳴いた。

そうなると、ここにいる理由がない。

飛び立とうとして率いて来た仲間達を見遣った。

 4翼は人間達と遊んでいた。

邸内にいた者達に駆け寄って鉤爪で引き裂く、圧し潰す。

弄んで一人として逃さない。

仲間達の気持ちは分かるが、長居は無用。

リーダーは引き上げを指示した。

4翼が身動きを止めた。

リーダーが飛び立つや、それに一斉に従う。

向かうは北。


 リーダーは目的高度に達するや、

もう一つの群れが暴れている方向を見た。

8翼が注意を引き付ける筈であった。

その8翼の姿がない。

気配もない。

 慌ててコースを変更した。

西の外壁に向けた。

仲間の安否を確かめなければならない。


 俺は光学迷彩のまま、東区画に向けて飛行した。

そこで公爵邸から飛び立つワイバーンの群れに遭遇した。

先頭の奴が雛を大事そうに抱きかかえていた。

まるで無害な親子。

 それを目の当たりにすると、気が削がれた。

さっきまで熱かった血が冷めた。

見逃すのも一興・・・。

 それに、ここで攻撃すると下の街が被害を受ける。

高度から墜落するワイバーンで建物が圧し潰され、

住人に死人が出るかも知れないのだ。

人は何時かは死ぬものだが、俺はその元凶になりたくはない。

俺は群れを見送ることにした。


 リーダーは嫌な気配に遭遇した。

西に近づくに従い濃くなる死の臭い。

肝心の仲間の声が聞こえない。

 試しに声を上げてみた。

応答がない。

もう一度。

ない。

目に力を籠めた。

遠目に仲間の動かない遺骸を外壁上に見付けた。

1翼、2翼、3翼・・・。

 仲間の遺骸に兵士達が群がり解体していた。

見るに忍びない。

出来れば兵士達を追い払いたい。

だが、しかし、待て、何があったかは知らないが、

このまま突き進めば自分達も同じ目に遭う。

 即座に方向を転換した。

西から当初の北に戻した。

取り敢えず逃げるが、このままでは終わらせない。

たまごを奪い、仲間を皆殺しにした奴らは許さない。

滅ぼす。

営巣地のキングに報告しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 人殺しは忌避しつつ直接害のないモンスターは遠慮なく殺す かと思えば雛可愛さに見逃す 言動に芯が通ってないように見える 成長すれば変わるのかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ