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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(解放)9

 Bランクの火魔法、ファイアスピア・火槍が飛んで来た。

Cランクの風魔法、ウィンドカッター・風刃も飛んで来た。

更には、もう一人のBランクが俺に向けて鑑定を発動した。

流石は公爵家の家来、無駄がない。

面白い。

歴とした魔法使いや兵士、複数と戦える。

 まず鑑定は問題ない。

偽装に気付いて、より踏み込んで来れば自動的に撹乱が発動する。

相手の脳内を撹乱し、ついでに無用な大量のデータを送り付ける。

それでどうなるかは知らん。

攻撃して来る連中への対処で忙しいので、相手してる暇はない。

 俺は水魔法、ウオータシールド・水盾を周りに張り巡らした。

それに火槍や風刃が当たる。

しかし、一発や二発では破壊できない。

焦った二人が連続して攻撃して来る。

間合いを詰めて来た兵士達も水盾に阻まれる。

槍や剣を振り回して壊そうとするが、これまたビクともしない。

 見兼ねたAランクが駆けて来た。

得意の槍術一撃で水盾を破壊した。

それで持って部下達を叱咤した。

「腰を落として叩き壊せ」

 理解していないようだ。

俺が反撃していない事に。


 俺はAランク対策として水盾の弾力性をアップし、加えて厚目にした。

難しくはない。

瞬時で全ての水盾を新仕様に入れ替えた。

それに連中が気付いたかどうか、それは知らない。

 Aランクが前進して水盾に阻まれると、

お手本とばかりに槍で渾身の一撃。

今度は壊れない。

何度も挑むが壊れない。

怒り心頭で俺を睨む。

「卑怯者、後ろに隠れていないで前に出てこい」

 魔法使いの本質は後方からの攻撃。

前に出てこいと言われて、はいはいと前に出る奴はいない。

Aランクの顔が怒り一色に染まった。

「この臆病者、尋常に勝負しろ」

 児童の俺に挑むとは、なんて奴だ。

児童虐待で訴えたい。

訴える役所がないのが残念だ。

 口喧しいAランクと違い、その部下達は攻撃の手を緩めない。

阻む水盾を突き崩そうと何度も何度も挑む。

蟻の一穴の故事を知っているのだろうか。

知ってるわけないな。

もっとも、その程度で俺の水盾は攻略できない。


 歴とした連中の実力が計れた。

やはりランクや個々の数値がモノを言う世界だ。

さて連中をどうしよう。

 と、外が喧しい。

轟音も。

俺は風魔法を発動した。

テントの天井に開けられた穴から飛び出した。

何時の間にか夕暮れ。

 テントの骨組みの一つを足場にして辺りを見回した。

響き渡る悲鳴と怒号。

公爵邸本館から大勢が我先に逃げ出している。

付近は来客らしき連中と屋敷使用人達が入り混じり、大混乱。

 公爵邸本館そのものが無残な姿を晒していた。

見る限りの窓が破壊され、壁には無数の穴が開けられ、

屋根の一部が崩れ落ちていた。

アリス達の仕業だ。

 当のアリス達を探すと、彼女達は別館に取り掛かっていた。

風魔法で窓を粉々に破壊。

屋根や外壁にも絶え間なく攻撃を加えている。

人は狙ってないが、巻き込まれるのは承知の上とみた。

ああ、なんて容赦のない攻撃。

 俺はアリス達を止めようとは思わない。

囚われていた妖精達の気持ちが分かるからだ。

溜まっていた鬱憤はこうして晴らすしかないだろう。

足場に腰を下ろし、ジッと見守った。

下からAランクの挑発する声が届くが、相手にしない。

ただ、念の為、魔法攻撃に備え、周辺に水盾を張り巡らした。


 公爵邸表門付近が騒がしくなってきた。

脱出する馬車や徒歩の人々を押し退けるように、

新たな集団が入って来た。

奉行所の者達だ。

脱出しようとする連中を強制的に一角に押し留め、次々に入って来た。

 公爵邸周辺を見遣ると、全ての屋敷が窓を全開にし、

主従の関係なく物見高い者達が身を乗り出し、こちらを見ていた。

路上の野次馬はそれ以上だ。

貴族街に平民までが波の様に押し寄せていた。

その野次馬の遥か後方には国軍の一隊が見えた。

騎兵隊を先頭に、野次馬の波を断ち割って急行して来る。

 俺は念話でアリスに連絡した。

『奉行所や国軍の者達が現れた。

潮時だ、引き上げよう』

『ええっ、まだお酒を回収してないわよ』

『珍しいね、お酒が後回しなんて』

『この子達から目が離せないもの。

回収して来るから、ちょっと待ってて』

 アリスは皆を説得すると、一つの塊になって公爵邸本館に飛行。

壊れた窓から侵入して行く。

厨房か貯蔵庫を目指すのだろう。


 奉行所の者達の行動は理に適っていた。

公爵邸から出ようとする者は全て、身分に関係なく拘束。

手の空いている者達が状況を確認すべく、

何組かに分かれて敷地内を捜索する。

これに遅れて到着した国軍が加わる。

 俺の尻の下の方で叫んでいたAランクの声が、

何時の間にか消えていた。

下を見渡すと、当人も部下達も姿がない。

んっ、一人、鑑定スキルを持つ魔法使いだけが残されていた。

俯せになって倒れていて、その耳から血が流れていた。

・・・見なかった事にしよう。


 アリスから念話が届いた。

『回収した。

私達はダンジョンに向かうわ』

 アリスはワイバーンの卵を忘れている。

俺はそれを指摘しようとして・・・、止めた。

一緒に飲まされるのは嫌だ。

俺も忘れよう。

『了解、気を付けてね』


 奉行所と国軍の者達が一緒になって、下のテントに入って来た。

入るや否や、驚きの声。

「臭い」

「魔物の臭いだ」

「檻が並んでいます」

「うわー」足下が暗いので、倒れている者に気付かず、躓いて転ぶ。

「誰か携行灯を持ってこい」指示が飛ぶ。

 さっそく魔道具の携行灯が持ち込まれ、明かりが点けられた。

周囲を照らす。

あちこちに人が倒れ、手足も転がっていた。

「生存している者はいるか」

 それぞれが確認に当たった。

「出血多量で死んでいます」

「こちらでは二人が死んでいます」

「血を流し過ぎて危ういですが、まだ息が有ります」

 結局、三人が生存していた。

すると別の誰かが叫んだ。

「魔物の幼体だけでなく、人や獣人の幼児も囚われています」

「なにっ、・・・鍵は」

「掛かっているので開けられません」

 それを聞いて俺は安心した。

二つの公的機関が発見したのだ。

人の口に戸は立てられない。

無視する事も、揉み消す事もないだろう。

 俺は風魔法で空高く飛んだ。

途中で光学迷彩を再起動した。

こうなれば鑑定も探知も効かない。

そのまま寮の上へ転移した。

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