(解放)4
国都雀が、尾張と伊勢の争いが終焉に近いと口にし始めた。
俺が実家から聞かされている戦況情報の後追いなのだが、
これが割と精度が高い。
平民の情報網も馬鹿に出来ない。
そして、ついに具体的な数字が出て来た。
「子息二人の身代金に捕虜全員の身代金を足すと、
1000万ドロン金塊で20000本になるそうだ」
桁が違う。
分割するにしても何十年になるのだろう。
伊勢方の言い分が聞こえた。
「こちらの被害は領軍に加え、加勢してくれた寄子の貴族軍、
そして領民、だけでなく、領地も荒らされているのですぞ。
立て直すのに年数と金額、どれ位かかると思われる。
・・・。
身代金の内訳は三つ。
受けた被害に対する損害賠償金、いきなり侵攻して来た懲罰金、
手柄を立てた者達に支払う報奨金。
それらを合算したものです。
全額お支払い頂けなければ、
ご子息を含めた捕虜達を奴隷として売り払います。
いや、終身奴隷として伊勢地方の労役を課しますか。
ご理解頂けたかな」
脳筋妖精アリスが窓から飛び込んで来た。
ダンジョンスライムのハッピーも一緒だ。
二匹の子猫が目の前でホバリング。
白がアリス、黒がハッピー。
『パー、戻って来た』ご機嫌なハッピー。
アリスが収納庫から赤い布切れを取り出した。
『これが窓枠に挟まっていたわ』
サンチョとクラークからのメッセージ、
曰く付き商品の闇市に関する情報を入手したのだろう。
さっそく二人のアジトにお邪魔する事にした。
位置は把握済みなのでアジトの真上へ転移した。
そこで違和感・・・。
探知と鑑定で調べた。
屋根に術式が施されていた。
屋根に人が乗れば警報が鳴るようになっていた。
幸い、俺達はその一歩手前。
転移した空中でホバリング中。
施した犯人に心当たり、大いにあり。
クラークしか思い浮かばない。
Bランクで契約スキル持ち。
しかも俺達に恨み骨髄。
これは彼なりの精一杯の嫌がらせなのだろう。
俺は術式を解いて例のごとく、闇魔法で屋根と天井に穴を開け、
二人のボス部屋にお邪魔した。
クラークが侵入に気付くより早く、奴の背後に着地。
光学迷彩を解いて、声をかけた。
「やあ、元気かい」ドスを利かせた。
背筋をビクッとさせるクラーク。
その頭には黒い子猫姿のハッピーが乗っかり、
白い子猫姿のアリスはサンチョの背後に回り込む。
俺は悪党ファツション。
グレー一色で取り揃えたズボンにシャツ、フード付きローブ、
編み上げの長靴。
覆面は黒。
手には突いて良し、殴って良しの魔法使いの杖。
偽りの声音でサンチョに問う。
「儲かってるかい」
サンチョは肩を窄めた。
「大っぴらに商売できないから、ちょびちょびだな」
「街中じゃタグなんて確認しないから、大っぴらに出来るだろう」
「例の子爵邸焼き討ちの影響が今も残っていて、残党狩りというのかな、
時折だが、奉行所が【真偽の魔水晶】を持ち出して、
街中で検問を敷いている。
あれが厄介だ」
ポール殿に聞いていたアレだな。
俺が貴族になる原因にもなった一件で、成り行きで目撃もした。
エリオス佐藤子爵邸焼き討ち。
あの時、子爵邸は盛大に燃えていた。
証拠は残されていなかったが、関係各局は時間をかけて調べ上げ、
バイロン神崎家の家臣陪臣による犯行と断定、
子爵邸で発見された身元不明の焼死体が彼等だと噂を流した。
それを補強する為に今もタグの行方を探しているらしい。
なんとも執拗だが、王家の威信を守る為なら、やむなしか。
俺は二人の首元を見た。
共に鎖が見えた。
タグに違いない。
「そのタグは」
「このタグかい、これは他所から手に入れた」
奉行所に手配されてるから、二人は自分のタグは下げられない。
「他所から・・・、殺して奪ったのか」
サンチョの表情に変化はない。
「人聞きの悪い。
簡単に人は殺さない。
後処理に手間がかかるからな。
まあ、半殺しだな。
・・・。
このタグは闇取引で手に入れたもんだ。
その手の商売人がいるんだよ。
鍛冶で綺麗なタグを偽造する奴、それを仕入れる奴、
そして俺達のように欲しがる奴」言ってから含み笑い。
「【真偽の魔水晶】は誤魔化せるのか」
「それは無理。
国都からは出られない。
まあ、出る気もないけどな」
俺は本筋に戻った。
「闇市の情報を教えろ」
サンチョは引き出しを開けて、一枚の紙を取り出し、
デスクの上に置いた。
それをアリスが取り上げ、俺に手渡す。
分かり易い地図が描かれていた。
貴族名、商人名、日時。
国都外郭東区画の貴族街。
アラステ新田公爵、・・・王族だ。
新田氏は足利氏の支族名の一つで、王の兄弟姉妹のみに与えられる。
大方は前王か前々王の子息か子女だろう。
これは拙い、・・・でも、やるしかない。
力押しの一手あるのみ。
商人名も目を引いた。
大手商会だ。
とても闇市に関与するとは考えられない。
クラークが鼻を鳴らして俺を見た。
「新田と知って怖気付いたのか」嫌味な表情。
これだから老人は困る。
「問題はそこじゃない。
商人名だ。
大手の商会が闇市に関わるのか」
「ただの名義貸しだ。
闇市を仕切るのは東区画のスラムのデミアン・ファミリー。
それを公然と口に出来るか。
出来ないだろう」
「新田家はデミアン・ファミリーと親しいのか」
クラークはちょっと間を置いた。
「公爵様は賭博好きだそうだ」
裕福な身分の子弟が賭博に誘い込まれ、借金の山を拵える。
よくある話だ。
「なるほど、そういうことか。
それで妖精の売買は」
「奴隷の売買はあるが、妖精は分からない。
そこまで詳しく聞くと不審に思われるので、通り一遍にしか聞けなかった。
それで良いんだろう」
「当日の警備は・・・」
「そこまでは掴めなかった」
掴む気がなかったが正解だろう。
その位で怒る俺ではない。
虚空から金貨を入れた革の巾着を取り出した。
ダンジョン産の100枚入り。
それをクラークのデスクに放り投げた。
「褒美だ。
商売の足しにしてくれ」
趣味ではないが、金貨で殴ってみた。
デスクの音で、それなりに読んだのだろう。
顔を強張らせるクラーク。
こちらの意図が分からないのだろう。




