(解放)2
ウィリアム小隊長の説明がなくても見ただけで分かった。
戸倉村で製造された馬車だ。
ここまで見事な貴族用馬車に仕上げている、それも三両、
俺が叙爵を承諾してからでは、とても間に合わない。
確実にそれ以前に着手している。
王宮から叙爵が実家に伝えられるやいなや、俺の承諾を織り込み、
着手したに違いない。
車両の四面の左上隅にダンタルニャン佐藤家の紋章が描かれていた。
楕円形で、縁取りは黒、内側の地は青。
真ん中の絵柄は赤いユニコーン。
実家の円形紋章を楕円形にし、色が変更されていた。
実家のユニコーンは銀色。
それが赤。
青空を飛び回る赤いユニコーンの趣き。
シェリルが口笛を吹いて言う。
「銀色も良いけど、赤もなかなかのものね」
シンシア達、大人の視線は別の馬車に向けられていた。
一頭立て二輪のカブリオレ。
馭者席なしの完璧な二人乗り。
乗車スペースは木製ではなく、後部に折り畳める幌。
その幌前部が開けてあり、乗客席から馬を扱うようになっていた。
軽快に走りそうだ。
貴族用と言うより、遊び用だろう。
俺はこのタイプが走っているところ、まだ見たことがない。
斬新、実家の父の得意顔が目に浮かぶ。
シンシアが笑顔で感想を口にした。
「良いわね。
魔物が出る郊外では使えないけど、街中乗りなら有りね」
普段は無口なボニーが言う。
「ええ、国都は広いので便利に使えますね。
例えば王宮への通勤とか」
ルースが付け加えた。
「そうね、それにデート」
商人の娘達は内装に感心していた。
溜息ついてキャロルが言う。
「シートの革の手触りが良いわね」
マーリンが相槌を打った。
「皮を鞣す職人の腕が分かるわね」
モニカが別の点を指摘した。
「カーテンは絹よ」
女児とは言え、商家の生まれ。
視点が違う。
姦しい女性陣を馬車から引き剥がすのに手間取った。
「もっと見せてよ」
「そうよ、ケチケチしない」
「お願い、ダンタルニャン子爵様」
結果、約束させられた。
「明日は好きな馬車で冒険者ギルドに乗り付けて良いよ」
付き添っていたウィリアム小隊長が苦笑した。
「でも、ここまで喜ばれると嬉しいですね。
馭者はこちらで手配します」
約束は約束なのだが、全員がカブリオレを希望した。
困った。
二人乗りなのだ。
シンシアが不敵な笑みを浮かべた。
「私達三人は軍務で乗馬も馭者も経験済みよ。
任せて、順番を決めて乗せて上げる」
馬車は街中では人と同じ歩く速度と決められているから、
乗れない者は後ろに付いて、途中交替すれば済む話だ。
彼女達を本館の三階に案内した。
フロアは当主とその家族用なので空き部屋だらけ。
一人一部屋でも余る。
その一人一部屋を遠慮して彼女達は部屋割りした。
大人組と子供組の二つに分かれた。
和気あいあい、まるで合宿気分。
俺は自室に入った。
窓を開けて盛大に伸びをした。
学校の寮は寂しくないが、自分の屋敷は寂しい。
身内がいない。
それに分不相応、しみじみ思った。
彼女達が風呂をすませ、ドレスに着替えた頃合いを見計らい、
ディナーになった。
今夜は良い機会だったので、
彼女達を屋敷の主だった者達に紹介する事にした。
急遽、決めたのだが、料理の品数は充実していた。
俺の表情を読んだのか、カールが耳元で囁く。
「料理長のハミルトンは出来る奴ですよ。
何かあっても良い様に乾物を備蓄しています」
「乾物・・・」
「ええ、水で戻すだけですから、もっと人数が多くても対処できます」
「ここに並んでいるのは・・・」
「四分の一くらいは乾物混じりです。
今日仕入れた生物と見分けがつきますか」
「見た目じゃ分からない。
もしかして、細川家の厨房の遣り方なの」
料理長のハミルトンは細川子爵家の厨房で修業していた。
「そうです。
兄が言うには、乾物には乾物なりの味わいが有るそうです」
キャロル、マーリン、モニカ、シェリルの子供組。
シンシア、ルース、シビル、ボニーの大人組。
屋敷からは執事・ダンカン、メイド長・バーバラ、庭師長・モーリス。
屋敷警備の責任者・ウィリアム。
そして後見人代行のカール。
ディナーの料理を担当していた料理長のハミルトンが遅れて現れ、
全員が席についた。
俺は最初、ハミルトンに声をかけた。
「ハミルトン、無理をさせたね」
「いいえ、とんでもありません。
無理難題があった方が面白みが有るというものです。
これからも、なんでもご遠慮なく仰って下さい」
ハミルトンは良い表情で軽く会釈した。
「頼りにするよ」
全員を見知っているカールが場を仕切った。
「それでは食事しながら軽く自己紹介をお願いします」
自己紹介にそれぞれの人柄が現れた。
大人達は慣れたもの。
仕事の一つでもあるかのように簡潔に済ませた。
比べて子供達は違った。
慣れてないので、それぞれの性格が出た。
全員が終えると、屋敷の者達の質問がシンシア達に集中した。
魔法学園出身、元国軍士官、今は冒険者で未婚の野良貴族様。
そんな彼女達の生き方に興味津々なのだろう。
「交際している男性はいないの」
ルースが苦笑いして答えた。
「今は男性よりもお店ですね。
お店を開くために冒険者として稼いでいます」
「魔物相手は危険でしょう」バーバラが心配そうに問う。
「あまり外には出ません。
商店の帳簿整理とか受験生の家庭教師、それに貴族のお嬢様の護衛、
そんな街中の仕事を上手く回した方が稼げますね」
「へえー、そうなんだ」ウィリアムが感心した。
シンシアが付け足した。
「魔物を討伐しても報酬はバーティの人数で頭割りでしょう。
それから武器や防具、ボーション等々の必要経費を差し引くと、
残念としか言えません。
なにしろ冒険者は命と引き換えの仕事なんですよ。
それが雀の涙のような稼ぎなんて、有り得ません」
「冒険者は稼げると聞いていたんだけど、違ったのか」
みんなの視線がシンシアに集中した。
「高ランクになれば、指名依頼が来るので稼げます。
幸せな結婚も出来ますし、広い屋敷も建てられます。
その高ランクになるまでが、大変なんです。
まあ、中堅ランクでも、運が良ければ稼げますけどね。
ダンジョンの宝箱の中身次第ですが」
「それでも冒険者を希望する者が多いよね」
「街のお店に雇用されるには、最初は人脈です。
信用できる人の紹介がなければ雇用されません。
このお屋敷もそうでしょう。
雇用されても知識と努力、忍耐がなければ長続きしませんけどね。
ところが冒険者は違います。
最初に必要なのは体力と武器だけです。
面倒臭くなくて、手っ取り早いでしょう」




