(解放)1
冒険者パーティ再開の前日になった。
俺は授業が終わると下賜された屋敷に戻った。
執事のダンカン、メイド長のバーバラ、料理長のハミルトン、
この三人に懇願されたのだ。
「成人するまで公務には関わらない、その事は承知しています。
何も申しません。
ただ一つ、お願いがあります。
お休みの日はお屋敷に戻って来て、皆にお顔をお見せ願えませんか。
ついでにお食事もして頂くと、嬉しいのですが」
三人が揃って頭を下げた。
使用人とは言え、大の大人。
無下にはできない。
偶々、居合わせた屋敷警備の小隊長・ウィリアムも口添えした。
「ダンタルニャン様、村から来た私共は貴方様の人柄は分かっています。
少し我儘だけどお優しい方だと。
でも、こちらで雇われた方々は何も知らないのです。
少しでも貴方様を知ろうとしての、この様なお願い、
なにとぞ聞き届けて頂けませんか」
村での俺は評価は我儘、・・・ショック。
振り返ってみたら確かに、・・・守役を振り切って野山を駆け回っていた。
いつもいつも、守役を困らせていた。
救いは、お優しい方、えっ、どこにそんな要素が。
「分かった、休みの前夜に屋敷に戻るよ。
一泊二食付きでお願い、それで良いよね」
平民の性。
旅館気分の一泊二食付きと言ってしまった。
屋敷に戻る俺に三つの影が歩み寄って来た。
先に下校した筈のキャロル達だ。
「帰らなかったの」思わず尋ねた。
「用意は万全よ」とキャロルがローブをめくった。
マジックバッグがあった。
マーリンとモニカも同様であった。
バッグにお泊りから冒険までの必要な物一切を詰めていると言う。
俺は屋敷に一人で泊まるのも寂しいので、何のかのと理由付けをし、
バーティの仲間達を誘った。
そうしたら好感触。
シェリルやシンシア達までが乗り気。
そこで、それを執事のダンカンに伝えたところ、屋敷の方も否はなし。
パーティ仲間の皆様なら大歓迎ですとのこと。
とんとん拍子で話が進んだ。
キャロル達は食堂で飲み物を口にしながら、
俺が寮から出て来るのを待っていた。
「それを言ってくれたら、もっと早く寮から出たのに」
「いいのよ、気にしないで。
まだ暑いから私達もゆっくり飲みたかったしね」
マーリンがけろりと言う。
「ダンは気を遣い過ぎよ」モニカが含み笑い。
キャロルが〆た。
「ダンは子爵様なんだから、でんと構えてなさい」
彼女達に囲まれて門に向かっていると、
途中からシェリルとボニーも合流した。
「すみません、私達まで」低姿勢のボニー。
そんな様子の守役にシェリルは苦笑い。
「相手はダンなんだから、もっと気楽にしなさいよ」
「ですけど、子爵様になられたので」
「妙な気遣いは不要と当人が言ってるんだから」
俺が口を添えるしかない。
「そうですよ、ボニーさん。
パーティ仲間なんだから、兄弟のような関係でお願いします」
南区画の貴族街が見えたところで、
シンシア達三人が反対側から現れた。
丁度いいタイミングなんだが、偶然にしては・・・、
俺は思わず首を捻った。
それを見て取ったシビルが言う。
「貴方達の動きは読み易いのよ」
「そんなに」
「ダンは女の子達に甘い。
シェリルは後輩に甘い。
だからマーリン達の動きを考慮するだけで事足りるの」
それを聞いたシェリルが苦笑い。
俺は返す言葉がない。
ルースがモニカに問う。
「どう、後期の様子は」
「授業が厳しくなったの、付いて行けるかしら」モニカが愚痴る。
「その為に私がいるんだから、頼りにしなさい」
シンシア達三人はキャロル達三人の家庭教師である。
実際は魔法の教師として雇われたのだが、今や、何でも屋。
それぞれの親達からの依頼で、町道場に通っている武技は別にして、
座学全般から冒険者技能までをカバーしていた。
お陰で三人の懐具合は暖かいとか。
「この調子で卒業できるかしら」
何時もは明るいキャロルまでが愚痴った。
それにシンシアが応じた。
「何時も言ってるでしょう。
得意なものを一つだけでも良いから伸ばす。
可能なら二つにする。
無理なものは落第せぬ様に、スレスレでも構わないから足掻いて、
足掻いて、その努力を実らせるの。
分かった」
キャロルは上目遣いでシンシアを見た。
「信じて良いのね」
「学校の先生は落第させる為にいるんじゃないわ。
貴方達、出来の悪い子達を卒業させる為にいるの」含み笑い。
「えっ、出来の悪いには何だかモヤモヤするけど、
卒業させる為にいるという話は、嬉しいわね」俺に視線をくれ、
「ダン、見てなさいよ、必ず一緒に卒業するから」と言い切った。
シェリルが参戦した。
「そう言えばダン、貴男、実技も座学も学年トップと聞いたけど」
「そうなの前期の一位様なの。
貴族の子弟様方を押し退けての一位だったから、
後期の風当たりを心配していたの、私達」マーリンが応じた。
「なのにこれだものね。
夏休みの間に子爵様。
心配して損した」モニカが俺を睨む。
シェリルが笑うのを堪えながら俺に問う。
「飛び級する気はないの。
私達の学年に来なさいよ」
途端、キャロル達三人が一斉に反応した。
「駄目」
四人であれこれ論争、口喧嘩に発展した。
俺が入れる隙間はない。
途方に暮れているとボニーがこっそり言う。
「無視するに限るわよ、あの四人。
口喧嘩を楽しんでるんだから」
喧しい女の子達を引き連れて貴族街を歩いた。
たぶん、幼年学校に通っている生徒に目撃されてるに違いない。
なのに、何が楽しいのか、四人は口喧嘩を止めない。
ああ、耳が痛い。
前方にうちの屋敷が見えて来た。
表門に門衛が複数、規定よりも多い。
そのうちの一人が門内に駆け込んだ。
そういうことか。
俺達が入るのに合わせたかのように、門の内側に小隊が隊列を組み、
歓迎の出迎え。
小隊長のウィリアムは満面の笑み。
「お嬢様方、ようこそいらっしゃいませ。
総員、お嬢様方に敬礼」
一斉に敬礼した。
見事に背筋が伸びていた。
美しい。
俺は唸った。
そんな俺を見てウィリアムが言う。
「向こうを」見るように促した。
そちらには馬車が並べられていた。
四頭立ての箱馬車。
二頭立ての箱馬車。
そして初めて見る一頭立て二輪のカブリオレ。




