表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
161/373

(叙爵)19

 話が終わったのでクラリスは少佐を下がらせようとした。

ところが少佐は下がらない。

「質問してよろしいですか」

「何かしら」

「閣下は今回の件をどうやって収めるつもりですか」

 クラリスは思案した。

「そうね・・・。

相手のあることだから・・・。

私としては理由はどうあれ、バイロン神崎子爵が断頭台送り、

エリオス佐藤子爵は焼き討ち、言い方は悪いけど喧嘩両成敗、

ここが落とし所だと思っていたの。

このまま曖昧にして、誰もが口を噤む、それで終わり。

ところが神崎子爵家の旧臣の家族が複数、行方不明になるという事態。

お陰で、どこで収まるのか分からくなってきたわ」


 俺は約束通り、寮生活に戻ることになった。

ところが平民から子爵様になったので、周りの状況が様変わりしてした。

クラスメート達はパーティーに招待し、楽しく過ごしたので、

休み前と変わらなかったが、他のクラスや上級生達は違った。

平民の子達は素直に喜んでくれる者、嫉妬する者、半々。

貴族の子達には衝撃であったらしい。

これまで平民の子と蔑んでいたのに、それが今や現役の子爵様。

対応に苦慮している様子が手に取るように分かった。

お陰で妙な空気が学校全体に漂うことになった。


 学食で食事していると、何故だか視線が突き刺さって来る。

冒険者パーテイ仲間のキャロルが笑う。

「フッフッフ。

ダン、貴族のご令嬢様方が熱い視線を送って来てるわよ。

手を振って応えてあげたらどう」

 すると隣のモニカも笑う。

「アッハッハッハ、本当ね。

貴族のご令嬢だけでなく、富豪のご令嬢達もそうよ。

親から指示が出てるのでしょうね」

 貴族のご令嬢の一人、シェリルが言う。

「親の指示で色目を使わされるご令嬢方が可愛そうね。

全部、ダンのせいね」

 それまで黙っていたマーリンも言う。

「ダンが悪いわね」

 俺が悪いらしい。

皆が面白そうに笑う。


 シェリルが話題を変えた。

「ところでダン、尾張と伊勢の争いのその後を聞いている」

「尾張の軍勢が伊勢に侵攻したところまでは」

「尾張が優勢だったのは当初だけで、

このところ様相が変わったみたい。

川船は全て接収されて、じわじわ追い詰められているそうよ」

「やはり誘い込まれたのかな」

 俺は亀山宿場での宿場スタッフの話をした。

尾張の侵攻の噂が流れていたと。

聞いたシェリルが首を捻った。

「だとすると尾張方の動きは想定内、

伊勢方は準備万端で待ち受けていたという訳ね。

・・・。

ダンの実家は尾張軍に加わっていないのよね」

「運の良いことに逃れられた。

だからと言って喜んでもいられないよ。

実家と親しい土豪達が招集されているから」

「そうか・・・」

「こういう貴族同士の争いの落とし所は・・・」

「戦線が膠着したところで国王様が仲裁に乗り出す訳だけど、

今回は尾張側が膠着まで持って行けるかどうかよね」


 食堂の魔道具の予鈴がなった。

俺達はシェリルと別れ、教室に戻った。

夏休みまでは、授業は午前中だけだった。

それは生徒達のレベル差を考慮してのこと。

休みが明けてからは、お客様扱いから正規の生徒扱いになって、

午後の授業が増えた。

今日は座学。

 そのせいで戻りの遅くなった俺をアリスが問い詰める。

『遅い、何してたの』白い子猫姿なので可愛い。

『お勉強だよ』

『フン、どうだか。

さあ、急ぐわよ』

『急ぐよ~』ハッピーは黒い子猫姿。

 二匹が並んで宙に浮かぶ姿は、はあ~、癒される。

心ここに有らず、取り敢えず聞いてみた。

『どこに』

『街に。

馬鹿二人の居場所を特定して頂戴』

 思い当たるのは・・・。

あの二人を指すのだろう。

スラムのザッカリーファミリーの元構成員・サンチョ、そしてクラーク。

夏休み前から脳内モニターに、二人の魔波を追跡させていた。

ここ最近は確認してないが、記録は残っていた。

 調べて分かった。

二人は東のスラムに居る時間が長い。

それも同じ場所に。

たぶん、そこをアジトにしているのだろう。

「間違いありません、アジトです」脳内モニターに文字。


 俺は夕暮れを待って、制服の橙色のローブを羽織って街に出た。

アリスとハッピーは子猫姿のまま、屋根から屋根へと移動していく。

目指すは外郭東区画のスラム。

俺は途中、物陰で着替えた。

 前もって用意していた物を虚空から取り出した。

細目のズボンにシャツ、フード付きのローブ。

編み上げの長靴。

何れもグレー系で取り揃えた。

 忘れてならないのは魔法使いの杖。

錬金で造り上げた逸品。

頭部にソフトボールサイズの魔水晶を嵌め込み、

先端を槍の穂先のように尖らしたもの。

長さは俺の身長と同じ、色は黒。

素材が竜の鱗とミスリルなので、これも突いて良し、殴っても良しの逸品。

 もう一つ、忘れてはならない物。

それは仮面。

前世の覆面レスラーを真似て、これまた錬金で造ってみた。

黒一色で、目鼻口の三か所に小さな穴を開けた。

素材はミカワサイの革。

汗をかかぬように風魔法の術式を施した、これまた逸品である。

これらを纏め合わせて悪党ファッションとした。


 この格好では人目を惹きすぎるし、怪しすぎる。 

アリスとハッピーを呼び寄せ、纏めて光体で覆い、

光学迷彩を起動して透明化。

低空飛行してスラムに入った。

 直ぐにアジトに辿り着いた。

密集具合からすると小さな倉庫群。

さっそく探知と鑑定を連携させ、具体的に3D表示。

人が多い。

何やら作業している動き。

 魔波で二人の居場所を特定した。

幸い部屋には二人。

そこの屋根に着地した。

脅威がない状況なので転移で容易に侵入できるが、

スキルを起動した足跡を誰に見破られるか分からないので控えた。

 何時もの様に闇魔法を起動。

ダークボールで屋根と天井に穴を開けた。

闇魔法なので無音にして、塵一つ残らない。

そこから真下の部屋に風魔法で舞い降りた。

 空気の微かな乱れに老人が首を傾げた。

流石はBランクのクラーク。

キョロキョロと室内を見渡し、天井に開けられた穴に気付いた。

絶句・・・。

 クラークが立ち直るよりも先にアリスとハッビーが光体から飛び出した。

白と黒の子猫が宙に並んで浮かぶ。

アリスが人の言葉で呼び掛けた。

「やあー、来てやったよ」

 飛び上がらんばかりに驚く二人。

それを見てアリスの自尊心が擽られたらしい。

「驚き過ぎだよ」子猫姿でニコニコ。

 隣でハッピーもニコニコ、ニャー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ