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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(叙爵)18

 書類を提出したのは侯爵家軍の士官であった。

斥候からの叩き上げで現在は参謀部所属。

少佐は呼び出されると即座に現れた。

クラリスは少佐に書類を掲げて問う。

「これは貴男が纏めた物ね」

「はい、そうです。

配下の兵や信頼の置ける冒険者を動かして調べました」

 クラリスは書類をデスクに戻した。

「三日前に佐藤子爵家主催のパーティーがあったそうだけど、

旗下に入る筈の佐藤家諸家は全て不参加ね。

理由は揃いも揃って、先約がある、実に不自然ね。

お子様子爵側は納得しているの」

「子爵は成人前なので表向きの発言はありません。

代わりに後見している細川兄弟が不愉快だと発言しています」

「発言だけなのかしら」

「裏で動きがあるようです。

・・・。

諸家の多くが宮廷貴族です。

そんな彼等に関する噂が流れています」

「どういうこと・・・」

「宮廷から干されると専らの噂です」

 お子様子爵の誕生には国王自らが関わり合っていたので、

国王の肝入り人事とも言えた。

「宮廷雀が囁いているのね」

「噂でパーティー不参加の佐藤諸家が動揺しています」

「他人事ながら大変ね」

「彼等は旗下に入る前にお子様子爵を試したかったのでしょう。

大人を甘く見るなとか。

ところが後見の細川兄弟からの接触が一切ない。

そこにこの噂。

細川兄が国王の最側近だけに真実味があります」

「貴男はどう思うの」

 少佐が間を置いて言う。

「謳い文句は白銀のジョナサン佐藤家の再興ですが、

その裏に何かがありそうです」


 クラリスはデスクに身を乗り出した。

「憶測でいいから話しなさい」

「木曽谷の大樹海から魔物が溢れ、

それを駆逐した美濃の伯爵様が侯爵に陞爵された、

尾張の男爵様は子爵に陞爵された、

その陰で五つの貴族家の事が忘れられています。

それまで木曽一帯を治めていた貴族です。

彼等は不手際として転封されました。

責任から逃れられた家は一つとしてありません。

寄親からも、縁戚の有力者からも見捨てられたと言われています。

そんな彼等の領地を受け継いだのがお子様子爵です。

五つの貴族家が治めていた土地を、悪い言い方ですが独り占めです。

普通であればお子様子爵は有り得ません」一旦、言葉を切った。

 焦れた様にクラリスが先を促した。

「もったいぶらないで話なさい」

「少し話を変えます。

今の国王の懸案事項は三好侯爵派閥と我が毛利侯爵派閥です。

どういう訳か、二つの派閥が国王の権威に挑んでいると、

曲解されているようです」

「その点は私も同意よ。

重職の役目として意見しているだけなのにね」

「今の国王はこれまでの国王と違い、

王権を強化しようとする傾向が見られます。

国の成り立ちを忘れて、頭がお花畑になっているのかも知れません。

その観点から木曽の処理を見ると、色々と見えて来るものが有ります。

お子様子爵の陰に隠れていますが、

美濃地方の国軍駐屯地の移転がその最たるものです。

木曽復興に協力するとして、

お子様子爵の隣接地に巨大な砦を築き始めました。

完成すれば師団規模の砦になるそうです」


 クラリスは表情を強張らせた。

居合わせた秘書達も似たようなもの。

仕事の手を止めて顔を上げた。

 師団規模の砦となると、それは完全な城。

そうなると常駐する指揮官は将軍になる。

だがクラリスは何一つ耳にしていない。

国軍佐官以上の人事権は国王に有るが、

事前に評定衆にも諮る必要が有る、のだが、噂すら聞いていない。

これは他の評定衆も同様であろう。

 それにもう一つ問題が。

国軍の地方駐屯地の兵員には制限がかけられていた。

経費がかさむので、連隊規模で上限は二千人までと定められていた。

それは今まで一度として破られていない。

 築城の経費と増加する兵員の経費、そして将軍の人事権。

ここまで隠し通しても、それらは何れ評定衆の議題に上るだろう。

上がらない訳がない。

膨れ上がる経費と人事なのだ。

「いずれ評定衆に諮るわね。

その時に、とっちめてやろうかしら」

「それは、たぶん、ありません」

「どうして」

「あの国王は評定衆に諮らずに済む方法を考えている筈です。

そうは思いませんか。

私にはあの国王が評定衆に頭を下げる姿が想像できません」


 クラリスは少佐の言葉に頷きかけた。

確かに無駄に誇り高い国王だが、公金の他に手立てがあるのか・・・。

国王個人の私財は多少はあるだろう。

だが、それで築城費用を賄えるだろうか。

否だ。

賄えない。

クラリスは頭を捻りながら少佐を見た。

「教えなさい」

「答えはお子様子爵です。

白銀のジョナサン様を祭った神社の数をご存じですか」

 白銀のジョナサンは弓馬の神として信仰の対象に祭り上げられていた。

それぞれが所属する本庁は違っても、

ジョナサン様だけは共通して二柱目として、

もしくは三柱目として祭られていた。

「播磨以外の神社全てで祭られているわね」

 播磨地方は藤氏王朝時代にジョナサン佐藤家が治めていた領地だ。

寄親が佐藤家で、寄子は佐藤家から輩出の貴族達。

この関係は連綿として続いた。

その長きに渡った関係も、ついに崩れる時を迎えた。

源氏と平家の反乱が切っ掛けだ。

佐藤家が東奔西走で反乱軍を鎮圧して回って、

その持てうる郎党の多くを失ったと見るや、

寄子の貴族達が連合して、寄親の佐藤家に牙を剥いた。

結果、佐藤家は播磨を失い、流浪せざるを得なくなった。

この因縁から播磨地方の神社はジョナサン佐藤様とは無縁になった。

今もジョナサン佐藤様は禁句扱いだ。


「ジョナサン佐藤様を主神とする神社を建立するという噂があります。

耳にされたことは」

 クラリスは困惑した。

「初耳ね」

「宗教関係の動きは掴み難いので、無理もありません。

王妃様が発起人となり、各神社本庁から、

津々浦々の神社にまで建立資金を募る手紙を送られています。

拒否する神社はないようで、すでに一部が現金化されています」

 クラリスは情報を精査し、クリアにした。

「築城資金は募る神社建立資金。

弓馬の神だから神社の形が城でも問題なし。

だからジョナサン佐藤家の再興になる訳か。

面白い。

それもこれもお子様子爵があっての事ね。

美濃の国軍増員強化とお子様子爵様。

美濃全体を味方につけて何を企んでいるのかしら。

・・・。

細川子爵の動きには要注意ね」

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