(叙爵)17
俺はスライムを鑑定した。
予想通りダンジョン限定の無双なので、何の参考にもならなかった。
眷属するのに不安はあるが、当のスライムは俺に期待している目色。
アリスも分かり易い目色。
期待は裏切れない。
一つの名前が思い浮かんだ。
『ハッピー』
途端、アリスを名付けした時と同じ痛みが脳内を走った。
そして、立ち眩み。
「ステータス欄に変更がありました」脳内モニターに文字
「名前、ダンタルニャン。
種別、人間。
年齢、十才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村生まれ、国都在住。
職業、冒険者、幼年学校生徒、アリスの名付け親、ハッピーの名付け親、
山城ダンジョンのマスター。
ランク、B。
HP(333)残量、301。
EP(333)残量、213。
スキル、弓士☆☆。
ユニークスキル、ダンジョンマスター☆☆、虚空☆☆、魔女魔法☆☆、
無双☆☆☆☆☆(ダンジョン内限定)。
加護、神竜の加護」
アリスの時に比べてEPの数値が増えたせいか、
受けるダメージは少ない。
ハッピーに目を遣った。
何故か、スライムは固まっていた。
個性と言うか、特有のプルプル感が皆無なのだ。
奇妙な事が始まった。
解凍された氷の様に溶け出した。
水ならぬゼリー状になって床に薄く広がって行く。
実に不気味。
ある程度の広がりで止まると、新たな動き。
ゼリー状態のまま宙に浮き上がって行く。
俺の目の高さまで来て止まった。
そして丸まり始めた。
完全な球体になった。
直径40センチほど。
喜びの念話が届いた。
『ハッピー、ハッピー、ハッピー』
気に入ったのだろうか。
『その名前で良かったの』
『とっても。
幸せな気分だよ僕』
俺は両手を差し出した。
『ここに飛び込んで来てよ』
『は~い』
飛び込んで来たハッピーを胸元で受け止めた。
軽い。
温かい。
プルプル感が消え、ゴムの塊のような弾力がある。
アリスも嬉しそうに飛んで来た。
ハッピーに手を伸ばして撫で回す。
『プルプルじゃなくてブルブルね』
俺はハッピーを鑑定した。
「名前、ハッピー。
種別、ダンタルニャンの眷属スライム。
年齢、1才。
性別、女。
住所、山城ダンジョン。
職業、なし。
ランク、C。
HP、125。
MP、125。
スキル、ダンジョンスライム魔法☆☆☆。
ユニークスキル、異種言語理解☆☆☆、収納庫☆☆☆、変身☆、
飛行☆」
色々と突っ込みたい。
性別が女・・・。
それよりも何よりもユニークスキル、変身って。
俺寄りじゃなくて、アリス寄りなの、どうして・・・。
俺はハッピーに提案した。
『アリスのような姿形になれるかい』
『は~い』拒否しない。
俺の胸元から飛び出すと、
床をポーンポーンと跳ね、高く跳んで宙返り。
完璧なコピー。
同じサイズの白い子猫姿になって宙に浮かぶ。
『どう』
『そっくりだね』
『でしょう、僕って出来るんだよ』
俺は気になった点を尋ねた。
飛行☆スキルだ。
『宙に浮かんでるけど、どうしてかな』
『どうしてって、・・・出来るからだよ』
『どの位の高さまで浮かんでられるの』
『そこまでは試してないよ。
でも、たぶん、高く高くかな』
『もしかして飛べるのかな』
『うん、飛べるみたい』俺の頭上を周回してみせた。
飛ぶスライムを初めて見た。
どうして・・・。
もしかして俺の重力☆絡みで飛行☆を得たのか。
考えるのは止めて、別の注文を出した。
『アリスと区別したいから、体毛を黒にしてくれないか』
『い~よ』再度の宙返りで黒い子猫姿になった。
アリスが悲鳴のような声を上げて、ハッピーに突進、抱き着いた。
『キャー、可愛いわねえ』
ダンジョンスライム魔法のランクが落ちているのが気にかかった。
一度、当人が劣化具合を確認して、鍛え直すのが最善だろう。
でも俺は時間が限られている。
昼間は忙しい。
夜は成長期なので眠い。
となるとアリスを頼るしかない。
『ハッピーを鍛えて欲しいんだけど』
『任された』即、了承。
一顧だにしないのが怖い。
俺は注文を付けた。
『噂になると拙いから人目に触れぬようにね』
『分かってるわよ』
『できれば国都内じゃなくて、山や森で魔物狩りをしてね』
『分かってるって』
『アリスが狩るんじゃなくてハッピーが狩るんだからね』
『しつっこいわね、任せなさい』
アリスはハッピーに声をかけた。
『行くわよ』
『はいさー』
仲良くコアフロアに消えて行く。
クラリス吉川侯爵は自邸の執務室にいた。
上番の日ではないので朝から書類の山に取り組んでいた。
早々に一件の書類で手が止まった。
異例の叙爵・陞爵されたお子様子爵の一件だ。
ダンタルニャン佐藤子爵。
焼き討ちに遭って亡くなったエリオス佐藤子爵の後継者だ。
ダンタルニャンはエリオスの嫡男ではない。
養子でもない。
面識すらないそうだ。
表向きは共に、白銀のジョナサン様を始祖としていた。
ダンタルニャンはジョナサン佐藤家の本家で生まれているのだが、
一方のエリオスは怪しいもの。
遥か昔に分家したとする家系図を王宮に提出していたが、
肝心の本家の家系図には載っていない。
そこを国王が突いた。
エリオス系の門閥を黙らせ、強引にお子様子爵を誕生させた。
そのダンタルニャン佐藤子爵家の行動を記した一件書類だ。
クラリスは書類仕事を補佐していた秘書の一人に命じた。
「この書類を提出した者を呼びなさい。
詳しく聞きたいわ」
 




