(叙爵)16
アリスに一任したものの俺はジッとしていられなかった。
直ぐに光学迷彩・転移・飛行、三つのスキルを活用した。
まず一番に光学迷彩で姿を隠すと同時に生存環境の安全を確保、
次に屋根の真上に移転、最後に墜落したくないので飛行。
当然、アリスも強制同伴出勤だ。
『どうしたの』
『ダンジョンを確認する』
そこからダンジョンコアに同調、コアフロアに転移した。
意外と簡単だった。
アリスの様子がおかしい。
『私に任せてくれるんじゃなかったの』ちょっと怒っていた。
『任せるよ、でも見たくなった』
『私を信用してるのよね』
『当然だろう』
アリスはフムフムと頷きながら、岩壁の一方を指示した。
『あそこからダンジョンボスのフロアに入れるわよ』
俺の心配を察しているのか、いないのか。
ダンジョンボスフロアは殺風景だった。
六面全ての岩肌が剥き出しで、誰もいなかった。
アリスが至極当然のように言う。
『階層は造り終えたけど、内装等の細かい事はまだよ』
『もしかして一階から造って、下に降りてくるかい』
『そうよ。
今は三階に取り掛かっている筈よ。
魔物召喚は全フロアを造り終えてからになるわね』
アリスが俺の心配を読んだかのような笑みを浮かべた。
脳筋の筈なんだけど。
俺は曖昧な笑みで胡麻化した。
『なんだか順調みたいだね』
『安心なさい。
私が大監督なんだからね』
全フロアを回りたかったが、それをすればアリスの機嫌を損ねる。
私を信用しないのって。
だからと言って、直ぐに戻るのもアレだし・・・。
そこでスライムフロアの様子を見ることにした。
スライムフロアは相変わらずだった。
何列にもわたって整然と並べられた大小様々な宝箱。
そのほとんどの蓋が開けられていた。
空箱もあれば、スライムが入ってる箱も。
通路をポヨ~ンポヨ~ンと跳ね歩く群青色のスライムが俺に気付いた。
『ピーー、マスター』念話で話しかけられた。
すると、宝箱の陰で寝ていたスライム達も目を覚ました。
疲れているだろうに、緩慢にプ~ルプル。
ズ~リズリと這いずりながら俺の方に近づいて来た。
無碍には出来ない。
俺のと言うか、ダンマスの大事な配下・ダンジョンスライムなのだ。
元気な奴は俺の腹部や背中にボ~ンボンと体当たり。
体力を消耗している奴は俺の足元にズ~リズリと頬ずり。
ただ、頬かどうかは判然としないが・・・。
彼等がてんでに念話で話しかけてきた。
『ポー、どこに行ってたの』
『何してたの』
『ピー、お外は楽しいの』
『欲しい物はな~い』
皆が皆、青系のスライムばかり。
その理由は知らない。
知らなくても仕事はしてくれる。
可愛い奴等だ。
だから、できるだけ応えた。
ここでもアリスは白い子猫姿。
宙を遊泳しながら、俺の鼻先に来た。
『スライムを甘やかしちゃ駄目よ』
妖精フロアに入った。
これは、・・・。
手前は雑草と疎らな低木に囲まれた泉。
置きっぱなしにした悪党の荷馬車。
泉から溢れた水が小川になり、奥の岩場へと流れ込む。
その先は岩壁だった筈が、広がっていた。
スライムフロアと同じくらいのスペースだったのが、より広がっていた。
砂浜があり、海らしきものが。
アリスを見ると、何やら得意満面の笑顔。
『どうよ、海を造ってみたの』
確かに磯臭い。
ここまで再現するとは、いや、させるとは。
スライム達の苦労が偲ばれる。
さらに奥行きは工事中のよう。
スライム達の姿が見え隠れ。
『どこまで広げるの』
『あそこに島を造ったら終わりよ』
『スライムを酷使し過ぎだろう。
反乱を起こさないかい』
『その点は心配ない。
話したら分かってくれたの。
・・・。
島にダンマスの好きな温泉を造るの、
完成したら貴方達もダンマスと一緒に入れるわって言ったら、喜んだわ』
スライム達はアリスの口車に乗せられている。
それを指摘しても純朴なスライム達は理解しないだろう。
はあー。
見渡すと、居候の妖精二人の姿がない。
ということは、五階層ダンジョンの監督をしているのだろう。
同種まで酷使するアリス。
はあー。
取り敢えず造成中の島とやらに飛んで、中央の小山に降り立った。
一面が芝生で覆われ、木々が適度な間隔で植えられていた。
と、足元から異な気配。
モコモコと土が盛り上がり、穴から一匹のスライムが姿を現した。
『パー、ダンマス、お帰りなさい』
『ご苦労さん。
何してたの』
『温泉を引いたの』
『引く・・・』
アリスが説明した。
『外の天然温泉とリンクさせて、下に温泉溜りを造らせたの。
島より先に温泉が引けたみたいね。
・・・。
よくやったわね』アリスがスライムの頭を撫で回した。
頭であればだけど・・・。
肝心のスライムが飛び上がらんばかりの喜びようだから、正解なんだろう。
そのスライムは興奮が収まると、俺とアリスを交互に見た。
『プー、いいのかな』
『なんなの』アリス。
『パー、お願いがあるの』
『言ってみなさい』偉そうなアリス。
『お外を見てみたい。
だから眷属になりたい』
『眷属・・・』アリスは首を捻って俺を見た。
俺はスライムに尋ねた。
『ダンジョンスライムから簡単に眷属になれるのかい』
スライムは身体全体を大きく曲げた。
『どうかな、できるのかな、できないのかな。
でもお外に出るには眷属になるしかないみたい』
『誰かに教えてもらったのかい』
『ううん、お外に出たいと考えたら、眷属という言葉が思い浮かんだの』
俺はアリスに尋ねた。
『どう思う』
『うーん。
ダンジョンスライムはダンジョン限定の無双だから、
眷属として外に出たら、たぶん、ランクが落ちるわね』
『今より弱くなるってことかい』
『たぶんね』
スライムが言う。
『弱くなっても良いよ。
修業して強くなるよ僕』
アリスが目色を輝かせて俺を見た。
『だそうよ』
『アリスはスライムの眷属化に賛成かい』
『面白そうだから当然でしょう』




