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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
155/373

(叙爵)13

 予定していた貴族訪問は終わった。

残すは披露パーティーのみ。

子爵様となった俺のお披露目だ。

通常は夜会なのだが、お子様なので昼間のパーティーになった。

 そういう訳で俺は本館の馬車寄せの前に立った。

お客様のお出迎えだ。

俺と肩を並べているのは執事のダンカン、後見人のポール殿。

俺付メイドのドリスとジューン、執事見習いのコリンとスチュワート。

後ろの第二列目には来場者の馬車を誘導する兵士達。

ここにいないカールとメイド長のバーバラは他の使用人達を率いて、

一階ホールにて来客を待っていた。


 全ての貴族を招待した訳ではない。

訪問した貴族は当然だが、他はポール殿の人脈に頼った。

偏りはあるだろうが、現在の俺の人脈は皆無なので致し方ない。

 最初のお客様は徒歩の集団だった。

持つべきものは仲間、幼年学校のクラスメート達が来てくれた。

平民ばかりなので、学校の制服・橙色のローブ姿。

今日は夏休みの最終日前日なので、一人の漏れもない。

先頭のキャロルが代表した。

「ダンタルニャン佐藤子爵様、本日はお招き頂き有難うございます」

 それに合わせて皆も一斉に挨拶した。

男児と女児の混声が辺りに響き渡った。

俺は得も言われぬ心持ち。

「ありがとう。

みんなが来てくれて嬉しいよ。

夏休みの間に、こんな事になってしまった。

お子様子爵様の出来上がりだ。

でも学校では身分は関係ないから、これまで同様にね」

「ダン呼びでいいの」キャロルは分かってくれた。

「当然だよ。

学校と冒険者パーティはそれで。

でないと気持ちが悪い」

「分かったわ」

 キャロルの合図でマーリンとモニカから祝い品を手渡された。

気持ちが重い。

「これは」

「みんなから」マーリンが言う。

 お金を出し合ったのだろう。

「負担にはなってないよね」

 モニカが明け透けに言う。

「なに言ってるの、ダンタルニャン佐藤子爵様が成人した折には、

私達の役に立ってもらうつもりなんだから、気にすることないわよ」

「はっはっは、分かった。

成人したら、みんなの役に立つよ」

 案内は齢も近いスチュワートに任せた。


 彼等彼女らが玄関を入ると同時に音楽が始まった。

一階奥のホールからだ。

雇った楽団が待ち兼ねたかのように弦を掻き鳴らした。

ベースが先頭でリズムを刻み、ちょっ遅れてギターが合流し、

頃合いよしと見た吹奏隊が大音量で加わった。


 次に現れたのは小型の箱馬車。

シンシア、ルース、シビルの三人が馬車を借りて現れた。

流石に大人。

 コリンが馬車のドアを開け、ダンカンが下りる三人のエスコートを行う。それぞれが良い笑顔で馬車から下りてきた。

初めて見るドレス姿。

三人とも元国軍士官で冒険者。

鍛えられた体躯は当然として、背筋が気持ちいいくらい伸びていた。

屋敷を持たない野良の貴族ではあるが、雰囲気は正しく貴族の淑女。

シンシアが代表して一歩前に出た。

「ダンタルニャン佐藤子爵様、本日はお招き頂き有難うございます」

 後ろの二人も声を合わせた。

大人の女性三人の声は格別なもの。

思わず照れてしまった。

「ありがとう。

これからもダンとして宜しく」

「はい」

「私達三人から心ばかりの物よ」

 これは、これは。

ずっしりしている。

三人は独身なので金銭に余裕がある。

かなりの物だろう。

開けるのが怖い。

 ルースが敷地を見回して言う。

「流石に子爵様。

良いお屋敷ね」

「ありがとう。

下賜する前に新築同様に手入れしてくれたみたい」


 示し合わせたかのように、間を置かずに三組目が現れた。

シェリルの実家・京極侯爵家の馬車だ。

事前に聞かされていたので、打ち合わせ通りにコリンがドアを開け、

メイドのドリスが一人目をエスコートした。

アーリン京極が下りて来た。

 壮年の男は礼儀正しくドリスに礼を述べ、ポール殿に目礼し、

俺をまじまじと見詰めた。

まるで虫か何かを観察するかのよう。

彼にとって俺は悪い虫扱いなのかも知れない。

俺からすると、ただの学友にして、ただの冒険者仲間。

二人ともまだ子供なんだけどね。

でも親からすると無理からぬこと。

「君がダンタルニャン君だね」

「はい、侯爵様」

「娘が世話になっている」

「いいえ、こちらこそお世話になっています」

 侯爵は目色をきつくした。

「うちの娘はどうかね」

 どうかねと言われても、色々な意味が含まれてるようで・・・。

「はい、学校でも冒険者としても、大いに助けられています」

 たぶん、これが正解だろう。

執事らしき男性が下りて来て、侯爵の背後に控えた。

エスコート役がダンカンに代わり、シェリルとボニーが下りて来た。

そのシェリルが侯爵の背中をポンと叩いた。

「お父様、後ろがつかえてますわよ」

 侯爵が顔色を改めてシェリルを振り返った。

「そうかそうか、すまん。

私は先に入るとするか」執事を連れて、ドリスの案内で先に行く。

 シェリルが俺に挨拶した。

「おめでとう。

これで貴族の仲間入りね」

「ありがとう。

でも正直に言うと、喜んで良いのかどうか分からない」

「その辺りの噂は色々と聞いているわ。

でも、取り敢えず喜んでなさいよ。

困った事があったら京極家が助けるわ」

「それは助かる。

その際は宜しく」

「任せなさい」

 脇からボニーが俺に祝い品を二つ、手渡した。

「大きいのは侯爵家から。

小さいのはお嬢様と私から」


 時刻が迫ると次々に馬車が来た。

多くはポール殿の伝手の貴族だった。

皆が皆、祝い品持参で俺に挨拶した。

その挨拶の際に察したのだが、彼らの関心は俺ではなくポール殿。

あからさまにポール殿には丁寧な挨拶をした。

その様子からポール殿の権力が窺い知れた。

文字通り、王の最側近にして懐刀なのかも知れない。


 残念な事に旗下とすべき佐藤家諸家が姿を見せない。

ただの一家もだ。

これは彼等の意思表示なのだろう。

 そろそろパーティーを始める刻限になった。

ホールに向かおうとする所に、猛スピードで馬車が入って来た。

そして馬車寄せで止まった。

馬車の前後左右の四面、

その左上隅に描かれている家紋は・・・。

 ポール殿が首を傾げた。

「尾張のレオン織田子爵だ。

招待していない筈だが」とダンカンを振り返った。

「ええ、招待していません」ダンカンも同意した。

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