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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(叙爵)11

 アリスが収納庫から陶器の酒樽を三つ取り出した。

『データを取ってね』

 何時もの事だから驚かない。

俺の魔女魔法で複製させるつもりなのだろう。

『王宮の厨房から盗んできたのかい』

『人聞きが悪いわね。

拾ったのよ、盗んじゃいないわ』

 俺は樽の封に鼻を当て、それぞれの匂いを嗅いだ。

鼻の強化も、鑑定もしていないので、違いが分からない。

それを見ていたアリスが笑う。

『お子様にお酒が分かるのかしら』

『まだ無理みたい』

『ダン、早く大人になりなさい。

そうすれば否が応でも分かるようになるわよ』

『急には大人になれないよ』

 俺は魔女魔法を起動した。

この程度の物であれば鑑定から始める必要はない。

分析はするが分解も必要ない。

熟れた作業、三樽を一気にコピーした。

そして拾った三樽の隣に複製した三樽を並べた。

肝心のデーター収集にも怠りなし。

俺の表情を見たアリスに注意された。

『天狗になっちゃ駄目よ』とは言うものの、アリスも満更でもない様子。

 鼻を大きく広げて六樽を一つ一つ嗅ぎ回る。

そして最後に大きく頷いた。

妖精がこれで良いのか。

俺は思わず嫌味を言った。

『お子様にお酒を造らせるって、どうなんだろう』

『はあ、ただのコピーでしょうが。

私に意見なんて百年早い。

自分で酒造りが出来るようになってから言いなさいよ』手強い。

『俺は百年も生きられないよ』だって人間だもの。

『何事も修業よ、修業』言いながら六樽を収納していく。


 口では敵わないので話題を変えた。

『エビスを出して』

 激しく反応するアリス。

『エビス・・・、もしかして、もしかするの』

『そうだよ』

 アリスが収納庫からエビスを取り出した。

俺はそれを宙に浮かべて、錬金魔法を起動した。

今回のは先に搭載した魔卵ではなく、

後で搭載した魔卵の術式のアップデートで済ますことにした。

時空スキル、転移の付与追加だ。

難しくはない、たぶん。

これまでの経験を元に書き加えていく。

すんなり書き込めたので問題はない筈だ。

『アリス、二つ書き加えたよ。

一つはカーゴドアではなく、転移の術式で出入りできるようにした。

これで水中でも自由に出入りできる筈だよ』

『ほんとう、やったね』嬉しい表現なのか、俺の鼻先を飛び回る。

『二つ目はエビス本体での転移。

目視出来る範囲なら、安全を確認次第で転移できるようにした。

ただし、安全確認はエビスがやるからね』

 アリスがいきなり俺に頬擦りした。

涎を流してるのか、頬が濡れた。

『えっへっへへへ』

『魔力を通してみて』

『分かった』何ら問題なし。

 俺は安堵しながら術式をコーティングした。

見届けたアリスの挙動がおかしい。

頬がピクピク、全身もピクピク、羽根もピクピク。

俺が何か言うより先に、そんなアリスが動いた。

奇声を上げてエビスの外郭に抱きつき、

中に転移するやコクピットに収まり、

開けた窓から遥か先の空中に転移してしまった。

一気にテスト飛行を終えて言う。

『ダン、これいい。

凄くいい。

ちょっと飛んでくる』

 ちょっとで済む筈がない。

諦めた。

ただ一言。

『ドラゴンに喧嘩を売るのは禁止だよ』


 俺はズームアップと魔波の追跡で監視した。

アリスは魔導師を警戒しての高度飛行。

そして転移に次ぐ転移。

暴走に近い飛行にエビスは耐えていた。

 飽きるのも早い。

コースを一路、北にとった。

『アリス、ダンジョンに向かうのかい』

『そうよ、皆の顔を見てくるわね』

 俺も向かいたいが、立場が俺を自由にしてくれない。

今日も予定が入っているのだ。

今日だけではない。

明日も明後日も。

学校が始まるまでスケジュールが目白押し。

売れっ子のスターか、それともドサ回りの芸人か・・・。

どちらなんだろう。


 今朝もポール細川子爵が馬車に乗ってやって来た。

俺を馬車に乗せると説明があった。

「まずは寄親に紹介する。

相手も爵位を継いだばかりで友人も知人も少ない。

かなり年上だが、良い関係が築けると思う」

 俺が領地を下賜された美濃地方の寄親はアレックス斎藤伯爵。

先代のバート斎藤伯爵が魔物の群れ撃退の功で侯爵に陞爵されると、

伯爵家を継いだのが嫡男の彼であった。

「とかくの噂を聞いています」

 平民雀による貴族評価だ。

それは宮廷雀にも似て辛辣だ。

「街中で流れているアレかな」

「ええ。

噂を纏めると、良い人」

「それは、どうでもいい人という事だね。

まあ、そんな人柄だ。

先代様がアクが強い方だったから、そういう育ち方になるのも仕方ない。

でも仲良くしておいて損はない」

「はい」


 アレックス斎藤伯爵家は北区画の貴族街にあった。

表門を入ると広い庭園。

真ん中を走る広い通路を進むと、でんと本館。

左右に別館。

奥に放牧場と厩舎、倉庫等。

最奥に使用人達が住まう長屋。


 伯爵自身が使用人達を従えて出迎えてくれた。

「ようこそ、ダンタルニャン佐藤子爵殿」

 本来であれば、伯爵自ら下の者を出迎える事は有り得ない事態。

加えて、この愛想良さ。

俺は先制パンチを受けた気分。

深く深く頭を下げた。

「これはこれは伯爵様。

自らお出迎えとは思いもしませんでした。

驚きで一杯です」

「はっはっは、気にされるな。

噂の人物を早く見たかったのだ」

「急遽の面会に応じて頂いて有難うございます」

「そう畏まらないでくれ。

我らは寄親と寄子、文字通りに親子だ。

気楽に、気楽にな」

 アレックス伯爵の視線が俺の隣のポール殿に向けられた。

「ポール細川子爵殿、今日はお手柔らかにな」

「今日はダンタルニャン殿の後見人として出向いただけです。

ご懸念は無用です」

 二人の間で何かあったらしい。

聞いてみたいが、聞かぬのが貴族の礼儀。

素知らぬ顔をした。

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