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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
145/373

(叙爵)3

 俺は困った。

戦い終えて疲れている家来達に、

クランクリン百匹余を埋める穴を掘れとは言いにくい。

まあ、それを言うのが上に立つ者の責任なんだろうけど。

 傍でカールが俺の言葉を待っていた。

彼の期待を裏切る訳には行かない。

何とかしないと・・・。


 困っていると、アリスの声が届いた。

『ダンダンダン、ダン、困ったわ』

『どうしたの』

『倒した魔物の魔卵が取れないの』

『えっ』

『取るにはカーゴドアから出なければならないでしょう。

そうすると水中だから、水が入って来てエビスが水浸になるのよ』

 そうだった。

エビスは潜水可能ではあるが、

水中でアリスが出入りする事は想定していない。

討伐しても魔卵は取れない。

『ゴメン、そこまで考えてなかった。

もう水浸しかい』

『まだよ。出ようとして気付いたのよ。

私、偉いでしょう』

『偉い偉い。

後でチューンナップするから、今日のところは我慢して』

『分かった、約束よ』


 アリスのお陰でクランクリンの処分法を思い付いた。

湖畔を見渡した。

近場にあった。

 俺はカールにそこを指し示した。

「死骸はあの崖から投げ落とそうよ。

そうすれば琵琶湖に棲む魔物が始末してくれると思うよ」

 カールも崖を見た。

それから湖面を見た。

「分かりました。

直ちにやらせます」

 クランクリンを解体する必要はない。

魔素の保有量が少ないので溜まることがなく、

魔卵を持っていること事態が珍しい。

そんなお陰で、採取目的で狩られることもない。


 俺達は琵琶湖で日程調整し、

予定通りの日時に王都の東門前に着いた。

すると先方も約束通り、待っていた。

王家から遣わされた騎士が二騎。

 彼等が王家の印が押された命令書を門衛に差し出し、

俺達一行に便宜を計るように申し伝えた。

お陰で入門の列に並ぶ必要がなかった。

優先で手続きが為された。

 真っ先に通された俺とカールは二人で細川子爵家へ向かった。

騎士二騎は案内には就かない。

それはそうだろう。

細川子爵家はカールの実家。

迷う訳がない。

 騎士二騎は俺の家来達の案内をする。

王家が用意してくれた屋敷、正確には俺に下賜される予定の屋敷、

そこへだ。


 細川子爵家は西区画の貴族街にあった。

王の最側近とは聞いていたが、それらしい屋敷ではなかった。

隣近所の貴族屋敷と大差ない規模。

それが顔に出たのをカールに読まれた。

「実家は宮廷貴族だから、こんなもんだよ。

領地持ちとは違って、実入りが少ないからね」

「ですよね」

「ダンには領地も下賜されるから養う家来も多くなる。

それに相応しいように大きめの屋敷が用意されてる」

「なんだか期待が大きすぎません。

僕はまだ子供ですよ」

「気にする必要はない。大人達の都合だから」

「それはそれで恐いですね」

「大丈夫、大丈夫。

ダンが成人するまでは大人達が頑張る。

この先、一年もあれば全てにケリが付く筈だ」

「どんなケリですか」

「大人達の事情、ダンは成人するまで学校の寮に避難していれば良い。

その間に片をつける」

 何がどうなっているのか分からないが、

カール達大人が片をつけてくれるらしい。

詳しくは聞かない方が良いのだろう。


 表門の軽武装の門番がカールを見ると、内側の詰め所に告げた。

「カール様がいらっしゃいました」

 すると詰め所から二人、飛び出して来た。

これも軽武装。

一人目が屋敷の方へ駆けて行く。

二人目が門をゆっくり開ける。

軽そうな門を重そうに押し広げた。

そしてカールと俺に頭を下げて言う。

「私が案内します」

 迷うことはないと思うが、もしかして、これが貴族家の作法。


 執事のような恰好の男二人とメイド三人、

そして兵士一人が玄関前に待ち構えて居た。

片側に居並び、代表して年長の執事らしいのが言う。

「ようこそダンタルニャン佐藤様」

 みんなが俺に頭を下げた。

俺はカールに倣って下馬し、兵士に手綱を渡した。

みんなに向き直って言う。

「ダンタルニャン佐藤です」

 これで正解・・・、だよね。

成人に達してないから家名を名乗っても間違いじゃないよね。

 笑顔でカールが俺とみんなを引き合わせた。

細川家執事のブライアン。

ブライアンの息子で執事見習いのダンカン。

年長のメイドがバーバラ。

花が咲き誇ったようなドリス。

成人には達しているであろうジューン。


 ブライアンがカールに尋ねた。

「玄関前でご説明してもよろしいでしょうか」

「問題ない。

早い方が良いだろう。

ダンも安心ができる」

「それでは」ブライアンが俺を振り向き、

「息子のダンカンがダンタルニャン佐藤子爵家の執事になります。

メイド長にはバーバラ。

メイドにドリスとジューンの二人です。

何かご質問がありますか」と簡潔に言う。

 いきなりだった。

サプライズだが、ここまで準備していてくれたとは有り難い。

「感謝します。

でも、一つ、懸念があります」

「なんでしょう」

「息子さんは将来、細川子爵家の執事ではないのですか」

 ブライアンが嬉しそうに応じた。

「ご懸念はごもっともです。ありがとうございます。

ただ、ダンカンは次男です。

長男が私の後を継ぎますので、いずれ外に出す予定でいました。

ご懸念は無用です。

執事の口を探しているところに舞い込んだのが、今回のお話です。

もっとも、これ幸いと押し込んだつもりではありません。

当家の主人と共に幾人かを面接し、最終的に残ったのがこれです。

まだ若いですが、しっかりと鍛えています。

執事としては申し分なし、親馬鹿ですが、そう思っています。

使えないとお思いでしたら、いつでも解雇してもらっても結構です」

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