表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
143/373

(叙爵)1

 大人達の時間が動き出した。

叙爵と陞爵の一件だ。

受諾の使者を王都へ派遣して十日目。

七月一日、返書が来た。

王家と直接の遣り取りが出来る身分ではないので、

取り次ぎの細川子爵家を介してである。

カールの実家の軽騎兵三騎が届けに来た。

 関係者は王都に上り、仮の屋敷に入れ。

吉日を選んでダンタルニャンを男爵に叙爵し、

その日のうちに子爵に陞爵、新しい佐藤子爵家を立ち上げる。

そう確約されていた。

 それまで内々に進められていた準備が、

返書によって公然と出来るようになった。

馬車の用意から、佐藤家親族への連絡、王都へ持参する手土産、

子爵家の人員確保等々。

 一切が公表された事により、村中がお祭り騒ぎ。

大方の者達が浮かれ騒いだ。

それはそうだろう。

選んで田舎に引き籠もっていた佐藤家が、

五百年ぶりに表舞台に出るのだ。

それも子爵家として。

家来筋の村人達がジッとしていられる訳がない。

何のかのと集まっては飲み騒ぐ。


 俺はと言うと、返書を受け取った翌日には王都に戻る事になった。

父の言葉通り、随行するのは佐藤家の兵士五十。

内訳は軽騎兵十騎、槍足軽二十、弓足軽二十。

これに各武芸指南役や文官も合わせると七十人ほど。

名古屋の屋敷の小隊が丸ごと俺の家来になった。

彼等を率いて国都に向かった。

 俺は冒険者ギルドから借りている馬に乗った。

隣にはカールが轡を並べた。

彼が当分の間の細川子爵家の代人だ。

運良くと言うか、村とカールの契約は六月で切れた。

そこに今回の話。

これ幸いと細川子爵家がカールを任じたのだ。


 昨夜、俺はカールに謝った。

「ゴメンネ、予定していた事があったのに」

「気にしないでくれ、実家の兄には逆らえない。

それに人生ってものは波乱があるから面白い」

「でもカールの嫌いな貴族生活だよ」

「それはダンもだろう。

あっ、ダン呼ばわりは拙いな」

「二人の時はそれで。

気楽が一番だよ」

「いやいや、これからはダンタルニャン佐藤様。

様付けに慣れる必要があるな」

「様付けは、こそばゆいんだけど。

ねえ、カール細川男爵様」

「男爵様と来ましたか、確かに」

 二人で苦笑いした。


 復路は東海道ではない。

俺は当然、往路が東海道だったので、復路は中山道の予定でいた。

そんな俺の都合に加えて、尾張地方と伊勢地方の関係悪化で、

尚更、中山道しか選択肢がない状況になった。

 脇海道で尾張から美濃へ向かった。

途中、何度も貴族や土豪の小軍勢に出会した。

何れもが名古屋に向かっていた。

名古屋に集合し、再編成して伊勢に攻め込むのだろう。

「伊勢の間者が尾張に入っている筈だよね」俺は呆れた。

「途中で怪しいのを何人か見かけましたよ」カールが言う。

「だよね。拙速は巧遅に勝るとか、兵は詭道なりとか知らないのかな」

「ほほう、士官候補生が習う言葉ですね。

軍事に興味があるのですか」

「ないよ、本で読んだだけ」


 俺達は歩兵の一行を馬車に乗せているので、

傍目には大規模なキャラバンに見えるかも知れない。

そのお陰で進みは割り方、早い。

のだが、大方が尾張から出るのが初めての者なので、

観光を兼ねての旅になった。

煩いこと、煩いこと、まるで小学生の修学旅行。

「あれが岐阜か」

「大垣だ」

「関ヶ原だ」

「ここからが近江、へえー」

「あっ、あれが琵琶湖か」


 兵士達の為に宿場ではなく、琵琶湖の傍に宿営した。

「よかったのですか」カールが魔物の出没を心配した。

「問題ないと思う」

 俺は尾張からここまで探知をフル稼働、何度も魔物を見つけた。

幸い、大抵はこちらの人数を怖れて、向こうが避けた。

でも、偶に出会い頭的な遭遇もあり、その度に戦闘というか、

狩りに発展した。

それでも問題はなかった。

武芸指南役達が指揮を執り、的確に兵士達に仕留めさせたからだ。

「ここで野営の仕上げにするつもりですか」鋭いカール。

「分かったの」

「ダンタルニャン様は昔から変ですよね」

「変っ、何が、どこが」

「んー、考え方ですかね。

妙に大人っぽいというか、子供らしくない」


 そんな俺達を無視してアリスが琵琶湖に飛んで行く。

勿論、妖精姿なので誰にも気付かれない。

湖の真ん中辺りでエビスを取り出した。

新生エビスだ。

ある夜、拾い集めた竜の鱗を俺に差し出して、アリスが言ったのだ。

「これでエビスを強化して」命令口調。

 ムカッと来たが、俺に否はない。

竜の鱗なら試してみたい。

さっそく錬金した。

鱗を溶解してミスリルを混ぜると、より強度が増すことが分かった。

ついでに完全耐水で、錆びない事も判明した。

検討を重ねた上でエビスを造り替えた。

施した術式もアップデート。

MPも上げて150にした。

陸海空仕様のエビスの出来上がり。

 さっそく尾張の海で試したが問題なし。

遠出はしなかったが、たぶん、深海も問題ないだろう。

元が竜の鱗だからね。

 エビスが湖面から跳ね上がるようにして、垂直に上昇した。

そして、急反転、湖面に一直線に突入した。

激しい水飛沫が上がったが、一瞬の事なので誰も気にしない。

『キャハッハッ・・・』アリスの喜びが俺に届いた。

『水漏れはないかい』

『えっ、こんな深い所まで念話が届くの』怪訝な声。

『たぶんだけど、竜の鱗が材料だからじゃないかな。

筐体全体に張り巡らした経絡を流れる魔素が、

より活発化していると思うんだ』

『待って、・・・育ってると言うか・・・、

確かに前のエビスよりも良い感じがするわね』

『気のせいじゃなくて、その通りだと思うよ』


 アリスは最後に、深い所に水棲の魔物がいたら狩って来ると言う。

俺はそれを素直に喜べなかった。

俺達が危機に晒されていたからだ。

正確には俺ではなく、野営地の皆がだ。

 探知で魔物の群が野営地周辺に接近していると分かった。

鑑定で相手の正体も分かった。

クランクリン。

水辺を好む魔物だがFランク、個々の力は弱い。

だが群れなすと侮れない。

軽い身体で飛ぶようにして寄せて来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ