(ギター)4
ダンマスは慎重であった。
相手が光学迷彩を無視して手を伸ばして来る奴だからだ。
対して己のHPやMPの残量が残り僅か。
ただ相手とのランク差に希望を見出していた。
人間の子供にしては異常だが、それでもDランク。
己はBランク。
鎧袖一触、一撃で決めようと思った。
子供が伸ばして来た手が己に触れた瞬間、光体を膨らませた。
攻撃開始。
子供の全身を己の光体で囲い、逃さぬようにして、
頭部の毛穴から侵入して行く。
そのまま一気に脳髄を蚕食し、支配するつもりでいた。
HP・MPの残量が50以上であれば、余裕で全身の毛穴から侵入し、
脳髄だけでなく全身を支配するのだが・・・。
俺は脳内モニターが指し示す岩肌に、
半信半疑で両手を差し伸べた。
指先に何やら感触。
途端にだった。
青白い光体が真正面に姿を現し、俺の全身を包んだ。
熱さは感じない。
頭髪が・・・ザワザワ。
頭部全体に・・・圧らしき不穏な気配。
俺は五感を解放していた。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。
その五感全てがチリチリとざわめく。
すると脳内モニターに初めての文字が現れた。
「危険、危険、浸透、浸透されています」驚かされた。
光体が何らかの方法で俺に浸透行為・・・。
浸透の意味が分からない。
侵略か。
第六感も悲鳴を上げた。
俺は光体から逃れようとした。
二歩、三歩、四歩、五歩と後退った。
しかし不可能だった。
光体は纏わり付いて俺から離れようとはしない。
光体が相手となると・・・。
殴る蹴る投げるは意味がない。
・・・。
俺に残された武器は念力。
俺は開き直った。
相手の正体は不明のままだが、全力で迎え撃つしかない。
脳内モニターに、「押さば引け、引かば押せ」の文字。
巴投げ。
浸透して来るのなら、その力を利用して丹田に引き込む。
そして丹田で溶解する。
丹田でのイメージはマグマ。
火口から高く噴出し、麓に延々と流れ出るマグマ。
マグマの海に深く引き込んで溶解する。
他に手はなし。
地面に腰を下ろし、緩い胡座をかき、緩く両目を閉じ、呼吸を整えた。
・・・、・・・、・・・。
慣れた手順で心を落ち着け、両手を左右に大きく開き、
掌を開いたまま左右の膝の上に置き、光体を迎え入れるイメージ。
絶対に逃さない。
押し入ったダンマスは憑依を開始した。
が、意外な抵抗を受けた。
人間に本来備わっている防御壁なのだろうか。
それで弾かれる、弾かれる、弾かれる。
思いの外、堅いではないか。
HP・MPを逐次投入する余裕はない。
ここぞとばかり残量を全力投入した。
と、異な力。
異な力がダンマスの一部を掴み、グイッと引く。
訳が分からないまま下へ引かれた。
慌てて抵抗を試みるが・・・、無駄だった。
異な力が無数の触手として現れ、ダンマスを掴み逃さない。
そのまま一気呵成に下へ引き摺られた。
引かれて行くに従い感じるのは熱さ。
焼けるように熱い、溶けるように熱い、熱い。
信じられぬ灼熱地獄が待ち受けていた。
人間の身体の中にこの熱さ、灼熱地獄を超えていた。
俺は手応えを感じ取った。
ぐいぐい引き込む、引き込む、引き込む。
全てを引き込んだ、と感じた瞬間、閉じた。
両の掌で丹田を軽く押さえ、蓋をして逃さぬイメージ。
断末魔・・・。
恐怖に駆られたと覚しき悲鳴が聞こえた。
ダンマスとダンタルニャンの戦いは激しいものであったが、
音は一切なかった。
傍目には、森の中で子供が一人、胡座をかいているだけ。
子供は額から幾筋もの汗を流していた。
その子供が胡座をかいたまま、後方へ静かに倒れた。
両目を閉じたまま、両手両足を投げ出し、大の字になった。
スー、スー、と寝息。