(帰省)16
ドラゴンはミカワオロチの巨体に驚いた。
これほどの蛇を見るのは初めて。
その力を測ることにした。
即座にブレスファイアを放った。
ミカワオロチは瞬時にとぐろを解き、右に跳んで躱した。
ドラゴンは慌てるでもなく、淡々とブレスファイア二撃目。
これまた右に跳んで躱した。
三撃目のブレスファイア。
またも躱した。
ドラゴンは四撃目を断念した。
それを見たミカワオロチは再びとぐろを巻き、鎌首をもたげ、
真っ赤な舌をチロチロ、挑発した。
ドラゴンは眼前の敵に集中していた。
どうやって仕留めようかと。
周りにいる他の種は小さいので侮っていた。
そこを突かれた。
新手のミカワオロチが音も立てず、背後に忍び寄っていた。
それが胴体に巻き付き、ドラゴンの喉に噛み付こうとした。
ドラゴンは反射的にブレスファイア。
ミカワオロチの顔面を狙った。
しっかりと巻き付いているのだ、躱そうにも躱しようがない。
ミカワオロチは寸前で顔面直撃だけは避けたが、
ブレスそのものからは逃れられない。
首筋を直撃された。
鱗が焼け焦げ、十数枚が剥がれた。
その一瞬、ミカワオロチの締め付けが緩んだ。
そこをドラゴンは逃さない。
強引に引き剥がし、投げ飛ばした。
もう一方のミカワオロチも機を逃さない。
ドラゴンの視線が逸れたのを幸い、一気に弾けるように跳んだ。
斜めからドラゴンの首に巻き付いた。
全力で締め付けた。
ジャングルに隠れていたミカワゴリラの群が動いた。
一斉にドラゴンに駆け寄り、尻尾や後脚に取り付く。
俺は胸騒ぎで目覚めた。
途端、脳内モニターに文字が走った。
「三河大湿原で一騒ぎ起きています。
MPの大きさから判断するに、ドラゴンです。
ブレスを連発している模様です。
その近くにアリスもいます」
しっかり目が覚めた。
ドラゴンがいる理由は分からない。
でもアリスがいる理由は分かっている。
エビスで遊んでいるのだ。
俺は着替えると、探知スキルと鑑定スキルを起動し、連携させた。
続けて身体強化スキル、光学迷彩スキル。
公然と外出できないので窓から飛び出した。
風魔法を弄り、ゆっくり着地。
深夜なので人目はない。
急いで錬金魔法を起動した。
時間がないので椅子を一脚、造った。
当然、木製。
太めの頑丈な椅子にした。
これに風魔法の術式を施した。
必要とするMPは50。
椅子のサイズに比べて数値が大目だが、先を急ぐのだ。
椅子に腰掛け術式に魔力を通し、所有者と認識させ、コーティング。
俺のEPは上位互換なので何ら問題なし。
さっそく始動させた。
ぐいぐい魔素を取り込んでいく。
空飛ぶ椅子。
試運転している場合ではない。
椅子諸共、光体で覆った。
これなら空気以外なにも通さない。
さっそく離陸。
フワリと浮いた。
徐々に高度を上げ、合わせて速度も上げていく。
アリスの魔波を頼りに三河大湿原に向かった。
夜間飛行中の鳥に遭遇するが、衝突せぬようにコントロールしながら、
最短距離を飛んだ。
アリスはどうやら騒ぎには巻き込まれていない様子。
安心した。
でも念話での連絡はしない。
ドラゴンがいるのだ。
どう考えても高ランク、俺よりも上。
であれば念話はたぶん、気付かれる。
それでもアリスの元に駆け付ける。
なにせドラゴンがいるのだ。
アリスも心配だが、初のドラゴン。
見るしかない。
やはり空の旅は早い。
三河大湿原上空に到着した。
探知で詳しく調べなくても騒ぎの現場は気配で分かった。
カオスなのだ。
咆える、威嚇する、ぶつかる、そして血の臭い。
焼け焦げた匂いもした。
近付くに従い獣の数が増えていく。
なにやら沸き立っているかのような雰囲気。
外周部には野次馬じゃなく、獣達が詰め掛けていた。
その多くは巻き込まれぬように適切な距離を保ち、見物していた。
ジャングルの中の広い更地が震源地だった。
そこでドラゴンが暴れ回っていた。
バトルロイヤルでもあるかのように、
三河大湿原所属の獣達を向こうに回し、ただ一頭で奮戦していた。
自分に取り付いた奴を優先して前脚で掴み、引き剥がし、遠くへ投げる。
しかし、投げても投げても数は減らない。
大小はあるが、遊び感覚で猿の種がジャングルから、
ひっきりなしに現れ、ドラゴンに挑む。
これにミカワオロチが加わっているものだから始末に負えない。
油断すると噛まれる、引っかかれる、鱗を剥がされる。
俺はアリスを見つけた。
いつもの子猫の姿。
真上から、ソッと念話した。
『アリス、隙だらけだよ』
ビクッと反応するアリス。
左右を見回し、それから上を見上げた。
『そこなの、飛んでるの。
風魔法・・・。
それに光学迷彩』
『当然。
魔波で分かるだろう、上においで』
アリスが俺の光体に入って来た。
椅子に触れる。
『なに、これ。
椅子じゃないの。
風魔法の術式よね』
『そうだよ。
空飛ぶ椅子』
『スキルの無駄遣い。
目茶苦茶ね』
『褒め言葉だよね。
ところで、あのドラゴン、どうしたの』
実はねとアリスが経緯を説明した。
聞いた俺は驚いた。
『すると、ちょっかい出したのはアリスなんだ』
『そうなの』
『小さなアリスというか、エビスを追ってドラゴンがここにやって来た。
そして、今は退っ引きならぬ事態か』
奮戦しているドラゴンだが、よくよく観察すると旗色が悪い。
このままだと数の暴力の前に屈する。
当事者は頭に血が上っているのか、そこに気付いていない様子。




