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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(帰省)15

 アリスはそれが何であるのかが分かった。

覚悟はしていたが最悪の事態。

ドラゴンの口内が赤くなるより先に行動した。

エビスを駆ってジャングルの内を縫うように逃げた。

 最悪ではあるが、今がチャンス。

ドラゴンがアリスを追跡しているのは、

エビスの魔波を把握しているからに違いない。

でもブレスで場が大きく乱れる。

となれば、一時的に魔波も有耶無耶になるはず。

それにアリスは期待した。

 姿を視認されぬように地表スレスレで飛ばした。

太い木々を、大きな獣を、的確に避けていく。


 アリスがいた辺りで空気を揺るがす凄まじい轟音と衝撃波。

ブレスヘルフレイムの先端が地表に到達したのだ。

その破裂音。

それで終わりではない。

そこから真っ赤な炎が波紋のように、一円に押し広がっていく。

まるで炎の津波。

長い舌で絡め取るように、ありとあらゆる物を襲い、平等に焼き尽くす。


 アリスは背に熱さを、死を感じながらも諦めない。

今見るのは前方のみ。

エビスと一体となり、必死で逃走した。

 直線なら、もっと早く逃げられるのだが、それは贅沢というもの。

今はこれしかない。

完璧に足跡を消し、ドラゴンと綺麗に別れる。


 アリスは必死ながらも背後の熱を気配察知で確認していた。

それで熱さが薄れたのを感じ取った。

ブレスヘルフレイムの範囲を脱したのだ。

 即座に次の行動に移った。

豊かな枝葉の蔭にエビスを止めた。

カーゴドアを開けて外に出ると、エビスをオフして収納した。

ついでに変身。

白い子猫姿となり、枝に腰を下ろした。

収納したエビスの魔波をドラゴンに捉えられる筈がない。

取り敢えず一安心。

自分の魔波を意識して自制しながら、枝葉の蔭からドラゴンを見上げた。


 ドラゴンはジャングルを見下ろして満足した。

広い更地が出来上がった。

全てを焼き尽くして一面、灰が積もっていた。

 ドラゴンは追っていた奴の魔波を探した。

捉えられない。

逃がした筈がない。

あのブレスの速度から逃れられる訳がない。

 思わず勝ち鬨を上げた。

口を大きく開けて、今の喜びを発した。

それは怒号に似て非なるもの。

空気を震わせ、辺りを圧した。

二度三度と上げて気が済むと、ゆっくりと地上に降り立った。

 積もった灰から足の裏に熱が伝わって来た。

人だと死に至る火傷をするだろうが、ドラゴンは熱さを感じるだけ。

無造作に周囲を見回し、ブレスヘルフレイムが及ぼす範囲を確認した。


 ジャングルの一部が突如として更地になった。

鬱蒼とした密林に棲まう物達はドラゴンの事情は知らないが、

更地にしたのはドラゴンだと認識した。

自分達の平穏を脅かす敵だとも認識した。

普段は敵対し、割拠している住民達が、

その怒りの矛先をドラゴンに振り向けた。

一頭が激しく咆えた。

それに他の種も次々に連動した。

会話は成立しなくても、立ち所に雰囲気が醸成された。


 ドラゴンは周囲から発される殺意に応えた。

背中の大きな翼を軽く動かし、

威嚇と連携させて暴風を発生させ、

更地につり積もった灰を全て、周辺に撒き散らした。

 それはそれは幻想的な光景。

雪が降るかのように大量の白い灰がジャングルに降り注いだ。


 ジャングルの木々が揺れ動いた。

怒りの表明、甲高い咆哮が上がった。

同時に一頭が駆け出す足音。

それが端緒となった。

他も遅れじと続いた。

重なる咆哮と足音。

 真っ先に飛び出して来たのはミカワゴリラ。

6メートル近い体長。

全身が筋肉の塊。

群から追い出されたが、

それでも剛力を活かしてソロで生き延びている個体。

それが、まっしぐらに突進して行く。


 ドラゴンにすればブレスファイアを一発浴びせれば済む話。

でも、やらない。

やれば自分より小さな奴から逃げるようなもので誇りが傷付く。

それに他の獣が多数、ここを目指している。

其奴等に自分の力を見せ付けたい。

後脚を踏ん張り、前脚を構えて迎えた。

 ガツンとぶつかる衝撃音。

ミカワゴリラが肩から当たって来た。

ドラゴンは前脚で受け止めた。

思いもかけない圧力。

見誤ったかなと反省しながら、じっくり相手を見定めた。


 ドラゴンの計算違いは獣達の習性。

一対一を想定していたが、獣達はそれを無視した。

立ち止まらない。

駆け付けた勢いのまま、突っ込んで来た。

目の前のミカワゴリラを超える個体はいないが、

何れもそれに近い個体ばかり。

言わば腕自慢ばかり。

其奴等がてんでに四方から挑んで来た。

 ドラゴンは焦った。

このままでは拙い。

小さな奴等だが、数の圧力で潰される。

組んでいたミカワゴリラを頭突きで突き放し、

太くて長い尻尾を振り回した。

身体を捻りながら左から来る獣達を尻尾で一掃し、

右から来る物達にはブレスブリザードを浴びせた。


 尻尾で一掃された獣達が後方に飛ばされ、後続の物達を巻き込む。

ブレスブリザードを浴びた物達は一瞬で凍りつく。

それを見た獣達は脚を止めた。

前に出るか、下がるか迷う。

 ドラゴンが雄叫びを上げた。

勝利の宣言ではない。

挑発だ。

不完全燃焼なので更なる勇者の挑戦を求めた。


 応えるかのように正面の密林の木々が不自然に揺れ動いた。

バキッ、メリメリッ、ズルズルッ、これまた不自然な音が響いた。

途端、獣達が硬直した。

種は違うが、意を通じさせるかのように顔を見合わせた。

 正面の一頭が道を譲るかのように左に下がった。

慌てて他の獣達も同様な行動をした。

左右に別れた。

来る物を憚っていた。

 それが現れるのに時間はかからなかった。

スルリと密林から這いだして来た。

ミカワオロチ。

10メートル超の太くて長い蛇がとぐろを巻き、鎌首をもたげた。

真っ赤な舌をチロチロと見せ、ドラゴンを見据えた。

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