表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
130/373

(帰省)7

 俺はアリスに注意した。

『最初は慣らし飛行だ。

ゆっくり飛んで動作を確かめてね』

『それじゃ面白くない』

『今のエビスは生まれたての赤ん坊。

赤ん坊はゆっくり大事に育てるものだよ』

『赤ん坊か、・・・そうね』

『その赤ん坊を本気で飛ばしたら壊れると思わないかい』

『分かった、気をつける』

『育てるのを任せたよ』

『任された』

 アリスが珍しく俺の指示に従った。

第一段階は縦回転、横回転の繰り返し。

単純な動作だがアリスもエビスも問題なし。

第二段階は上昇と下降の繰り返し。

これも問題なし。

第三段階はナビゲーションの練習。

これに時間を喰った。

呑み込みが悪いのだ。

それでも何とか慣れてくれた。

よくぞここまで、短時間だが、文句一つ言わずに従ってくれたものだ。

そこでご褒美代わりに速度そのままの縛りで、自由に飛ばさせた。

『やったー』

『目が届かないからといって飛ばすなよ』

『エビスを壊す訳がないでしょう。

私に任せなさい、立派に育て上げるわ』


「エビスに疑似生命体の兆しがあります。

ただ不安定ではあります」脳内モニターに文字。

 やったね。

駄目元で試した。

エビスの筐体の隅々にまで血管を真似た物を配管し、

魔卵の魔素が流れるようにした。

その影響しか考えられない。

 一般的なゴーレムも疑似生命体と言われているが、

それとは明らかに違う仕様にした。

ゴーレムが術式にのみ従って動くのに対し、

エビスは術式に加えて経絡を魔素が流れている。

大気中の魔素濃度が一定でないのに対し、

魔卵に詰まってる魔素は高濃度。

これがどう作用し、どのように成長するのか楽しみだ。


 アリスがご機嫌で戻って来た。

エビスを中空でホバリングさせ、飛び降りて、俺の額に空手チョップ。

『これ凄く良い』

 初めて目にした時は不満で一杯だったが、すっかりの様変わり。

『ありがとう。

どこが良いんだい』

『何もかも。

コールビーよりも動きがスムーズよ。

ダン、良い仕事をしたわね』

『それじゃ最後の確認だけど、エビスを収納できるかい。

きちんと停止させてから収納するんだよ』

 アリスはエビスの外殻に触れて停止させ、

妖精魔法で宙に浮かせたまま、亜空間の収納庫に入れた。

『私の持ち物にしていいのね』

『所有者に登録してるからね』

『そうか、ありがとう。

そうそう、攻撃機能は後付けなの』

『エビスには攻撃機能はつけない。

仮に後付けすると、術式が複雑になってメンテナンス回数も増える。

それよりはエビスで周囲を飛んで意識させ、適当な所で隠れて収納し、

アリスが攻撃すれば面白いと思わない。

相手の意表も突けるしね』

 アリスは思案顔。

『・・・、それもありかもね。

当面はそれで行こう』


 鳴海宿場は寂れていた。

東海道を下る者達は熱田から方向を転じ、

名古屋を経て脇街道から関東へ向かうので、

鳴海は閑古鳥が鳴いていた。

だからと言って部屋代は安くなかった。

過疎って宿屋が減ったせいで選択肢がなかったのだ。

なにしろたった一軒の宿屋。

厩舎有りで5000ドロン。

ここだけは混んでいた。

 記帳していると宿屋の者に言われた。

「お客さん、このまま街道を下ると三河大湿原ですよ」

 俺を心配してくれた。

「大丈夫ですよ。僕は手前の戸倉村に用事があるんです」

「ああ、戸倉村ですか、良かった」

 東海道は三河大湿原の出現で途絶えていた。

陸路だけではない。

海路も途絶えていた。

大湿原出現時に渥美半島も巻き込まれて各所が断裂し、

大小様々な島々や岩礁に分かれた。

その影響で潮の流れも変わった。

それも悪い方へ。

暴れ動く大渦潮が無数に発生するようになり、

遠州灘の海路を難しいものにした。

木造船では大渦潮を乗り越えられないのだ。

そのせいで何百年も経たのに、

遠州灘を無事に抜けたという話は聞かない。


 俺が夕食入浴を終えると、見計らったかのようにアリスが呟く。

『夜間飛行、夜間飛行』聞こえるように。

『んっ、・・・試す必要があるよね』

『いいの』

『夜目が利くまでは慎重にやるんだよ』

『分かった』喜び勇んで窓から飛び出した。


 結局、アリスは朝帰りした。

『ごめん、面白くて時が経つのを忘れていたの』

 初手から謝られた。

これでは怒れない。

もっとも、俺も放置して早々に寝た。

無責任ではない。

ナビに任せたのだ。

『エビスの調子は』

『絶好調、そろそろ本気で飛行したいな』

『生まれたてだよ、もう少し我慢しようよ』

『そう、そうだよね』


 意外と朝立ちの者達が多かった。

特に目を惹いたのはキャラバン隊。

幌馬車四両、前後に騎乗の冒険者八騎。

彼等が東海道を下る者達の先頭になった。

たぶん彼等は三河大湿原には向かわない。

途中から知多半島へ南下する筈だ。


 予想通り、途中からキャラバン隊は知多半島に向かった。

が、それは先頭の二両と四騎だけ。

残りは下り続けた。

他の旅人達も同様だった。

半数近くがこのまま東海道を下り続けた。

この先には戸倉村と三河大湿原しかない。

彼等がどこに向かうのか、気になってしょうがない。


 昼も近いので、小川の側に馬を寄せた。

水辺で馬を遊ばせ、俺は昼飯にした。

昼飯と言っても、一から作る分けではない。

国都で買って置いた物を収納スペースから取り出すだけだ。

 最初は馬用の飼い葉。

小さな梱包を取り出し、川原の雑草の上に中身をぶちまけた。

それに気付いた馬が目の色を変え、遊びを切り上げて走り寄って来た。

嬉しそうに頬張る。

 俺用はそれよりは少ない。

お握り三個、干し肉少々、お茶、蜜柑二個と質素な物。

お握りを頬張る俺を見ながらアリスが言う。

『この辺りから魔素が薄いわね』

『そうだよ。

俺の村がある辺りは魔素が薄いんだ。

お陰で魔物が生まれ難い。

他から流れて来る魔物を退治するだけで事足りる』

『へぇー、良いところに生まれたわね。

・・・。

そろそろエビスで遊ぼうかな』

 徹夜で遊んで飽きたかなと思っていたが、

逆に退屈な道中の方に飽きてきたらしい。

『迷子にならなければ構わないよ。

ただし優しく扱うこと、良いね』

 と、黒い影。

斜め上から急降下して俺の昼飯を奪い、そして素早く急上昇した。

カラス。

太い嘴で蜜柑を銜えたまま、去って行く。

「きゃっはっはっは」

 カラスを見送りながら、人の言葉で腹を抱えて笑うアリス。

子猫姿でころころ転げ回る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ