(ギター)3
俺は脳内モニターを再稼働させた。
警戒を必要とするサイズの獣や魔物を探した。
幾つかの茶色いと黄色の点滅を確認した。
七体。
何れもがこちらから逃げるように遠ざかって行く。
勘働きでパイアの惨敗に気付き、
巻き込まれぬように回避しているのだろう。
あらためて自分の能力に感心した。
赤ん坊の頃から丹田に気を集め、精練した結果なのだが、
普通のお子様には考えられないこと。
でも実際に魔法使いも存在することだし、まぁ良いか、と思うことにした。
俺は紫色の点滅のする場所へ急いだ。
そこは生い茂る木々の陰になった岩場であった。
場所が特定できたのに、肝心の姿は視認できない。
岩陰にでも隠れているのだろうか。
脳内モニターを頼りに足音を忍ばせて、ソッと歩み寄った。
ソレは探知スキルで周辺を見張っていた。
ソレは魔物三匹が近辺に現れたことを喜んだ。
名前、パイア。
種別、魔物。
性別、雄。
住所、無し。
職業、無し。
ランク、E。
HP(65)残量、55。
MP、無し。
スキル、無し。
ユニークスキル、無し。
他の二匹も性別とHPが違うだけでランクは同じ。
明らかに自分よりも格下。
恰好の捧げ物。
ソレは今現在の己のステータスを確認した。
名前、無し。
種別、ダンジョンマスター。
性別、無し。
住所、無し。
職業、ダンジョンマスター。
ランク、B。
HP(222)残量、10。
MP(222)残量、8。
スキル、探知☆、鑑定☆、憑依☆、光学迷彩☆。
ユニークスキル、無双☆☆☆☆☆(ダンジョン内限定)、虚空☆。
ダンマスはHP・MP満タンで生まれる訳ではない。
何れも残量15の状態で中空に生まれ、何の悪戯か、
そのまま即座に地上に落とされて最初の運が試される。
魔素が普通にある場所であれば、一晩で満タンになるのだが、
生憎ここは少なすぎた。
魔素を吸収しても消費量の方が多いので減って行く一方。
このままでは死んでしまう。
ダンマスは三匹の魔物がさらに接近するように、
自らが持つMPの一部を吐き出した。
MP残量、7。
餌とする為であった。
疑似餌。
弱い魔物の存在をアピールして誘った。
今のダンマスは弱い存在、
外で戦える為のスキルは持っていない。
ただ幸いなことに、憑依というスキルがある。
別の生き物に憑依して身体ごと乗っ取る。
完璧に憑依すれば、乗っ取った身体で戦うということも可能になる。
憑依した身体で戦って魔卵を喰らう。
あるいは魔素の多い場所に移動する。
何れも出来た。
喜んでいたところ、邪魔する存在が現れた。
簡単に三匹を追い払った。
そしてこちらに向かって来た。
目的は分からないが、何やら探している様子。
ダンマスは探知、鑑定を行った。
名前、ダンタルニャン佐藤。
種別、人間。
年齢、九才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村住人。
職業、なし。
ランク(人間)、D。
HP(99)残量、90。
EP(99)残量、90。
スキル、不明。
ユニークスキル、不明。
明らかに異常だ。
小さな身体でDランクはないだろう。
普通ならF。
それにHPの次のEP。
なんだそれ。
MPではなくEP、知らない。
スキルもユニークスキルも不明ときた。
無い場合は無し、それが不明となると油断できない。
・・・。
もしかして滅多に現れない新種なのか。
ダンタルニャンがこちらに手を伸ばして来た。
光学迷彩で岩陰に姿を隠しているのに、的確に手を伸ばして来た。
スキルの効果が薄れているのか、と思ってMPを確かめた。
残量に変化なし。
相手の行為は分からないが、HPもMPも残り少ないなかでの、
己の行動は限られていた。
生き残るか死ぬか。
ここは先手必勝。
全力で憑依するしかない。
この子供を乗っ取ろう。