表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
128/373

(帰省)5

 俺は答えを得た。

前世の上陸用舟艇とホバークラフトだ。

馬を乗せる前提で考えた。

これしかないと言うか、他は思い浮かばない。

動力は風魔法を転用すれば良い。

 さっそく砂浜に出て、錬金魔法を起動した。

材質はミスリルを混ぜたセラミック。

船底に重心を置いた全長8メートル、高さ3メートル、

船幅4メートルの上陸用舟艇をイメージした。

 バランスを考慮しつつ軽量化を図った。

思ったよりもEP消費量は少なかった。

これに風魔法の術式を施した。

周囲の魔素を取り込み、魔力に変換して前後上下に動かす。

単純にした。

 不格好な上陸用舟艇が砂浜に出来上がった。

平らな船首をこちらに向けて鎮座。

俺は近付いて触れた。

術式に魔力を通し、所有者として認識させ、コーティング。

術式が必要とするMPは50。

さっそく始動させた。

ぐいぐい魔素を取り込んで行く。


 船首の渡し板を下ろした。

馬を休ませるには充分な広さだが、床が固すぎる。

そこでチューンナップ。

錬金魔法で乾燥した藁を造りだして敷き詰めた。

 指笛で馬を呼び、手綱を引いて舟艇に乗せた。

首筋を撫で、「少しの辛抱だからな」と言うと納得したように足を崩した。


 術式を単純にしたのが功を奏した。

短時間でMPが満タンになった。

さっそく乗り込んで舟艇を動かすことにした。

低速発進。

砂浜から1メートルほど浮き上がった。

風魔法の利点は砂塵が舞い上がらないこと。

痕跡なし。

 バランスも良し、そのまま海に乗り出した。

静かに、海面の上を滑るように沖へ向かった。

波の影響を受けないので揺れがない。

加えて風魔法のお陰で無音。

念の為、探知スキルと鑑定スキルにも目を配り、

空や海の魔物を警戒した。

 脳内モニターを分割し、それでアリスを再追跡した。

まだなんの反応もないが、必ず見つけ出す。


 アリスは焦りから周辺を広く旋回した。

何度も、何度も。

でも陸地が見つからない。

見えるのは西に傾こうとする太陽だけ。

もうじき日が暮れる。

飛んでいるのは問題ないが、このままでは、・・・帰れない。

 太陽で思い出した。

来る時、太陽は右側にあった。

だとすると逆に太陽を左側にすれば、・・・たぶん戻れる。

 アリスは太陽を左に見ながら飛んだ。

心が急いた。

全速力で飛翔した。

しばらく飛ぶが、なかなか陸地が見えてこない。

それでも諦めない。

一か八かの賭けだ。

 かなり飛んでから水平線の向こうに黒い物を見つけた。

分からないが、何かがあるのは確か。

方向を維持した。

徐々に黒が緑に変じ、形を成してきた。

陸地だ。

 アリスはホッとしてスピードを緩めた。

間違いはなかった。

安堵した。

陸地を見て、さて、どこに向かう・・・。

新たな疑問。

どこから飛び立ったのだろう。

近くに宿場町があったのは確かだが、名前は覚えていない。

暗くなれば宿場町に灯りが点る。

それを待つか。

 不意に魔力の塊に気付いた。

かなり大きい。

それが向かって来ていた。

海中からではなく、陸地方向からこちらに向かって来た。

海面すれすれの低空飛行。


 俺は前方にアリスの魔波を感じ取った。

『アリス、アリス、届いているか』

 アリスが怒りで応じた。

『おっそい、どうしてこんなに遅いの』

 怒られるのは想定していなかった。

『ごめん』思わず謝った。

『もしかして飛んでるの。

何か変な物で飛んでいない』

『船を飛ばしてる』

『船は飛ぶ物なの』

『最近の船は飛ぶみたいだね』

『・・・良いわ、分かった、直ぐに行くわ』


 接近して来るアリスをズームアップした。

妖精よりランク下の者では姿を見ることは適わないが、俺は別枠。

なにしろアリスの名付け親、眷属にする者。

その気になれば何時でも見られる。

 アリスは初めて見る表情をしていた。

整った顔をグッチャグチャにし、大粒の涙をボタボタ零していた。

これでは言葉をどうかけて良いのか分からない。

正視するのを止めた。

 アリスが勢いを殺さず、胸元に飛び込んで来た。

痛いっ。

シャツを掴み、ワーワーギャーギャー、誰憚ることなく泣いた。

俺には出来ない感情表現に感心してしまった。

これだけ泣けるなんて羨ましい。

脳筋だなんて馬鹿にして、ごめん。

そっとアリスを両の掌で優しく包んだ。

 

 どのくらい泣かれていたのかは分からない。

不意に名前を呼ばれた。

『ダン、ねえダン』

 アリスが俺を見上げていた。

さっきまでの泣き顔ではない。

涙の痕跡もない。

いつものアリスだ。

『なんだいアリス』

『この船は錬金魔法で造ったの』

『そうだよ』

『もっと高く飛べないの』

『これは馬専用だから、どうなんだろう。

もっと軽くすれば飛べるかな』

 アリスがパッと明るい顔になった。

『こんど造ってよ』

『アリス用かい』

『そうよ』

『俺が造った物よりアリスの方が速く、高く飛べるんじゃないのか』

 アリスがさも当然のように言う。

『それはそれ、これはこれ。

特に雨の日とか、雪の日は便利でしょう』

『分かった、工夫がついたら造るよ』


 俺は舟艇を浜に向けた。

それを見てアリスが疑問を呈した。

『どうしたの、これで尾張に向かわないの』

『急ぐ旅じゃないから、街道を見物しながら進むよ』

『まあ、いいか、好きにしなさい』

 浜や周辺に人気がないのを確認して、砂浜に乗り上げた。

船首の渡し板を下ろし、馬の手綱を取った。

馬も状況を読んだのか、素直に立ち上がった。

肌も鼻息も、挙動も異常なし。

馬を砂浜に下ろし、錬金魔法で舟艇を魔素に変換した。


 四日市宿場には暗くなる前に着いた。

着いたのは良いが、

泊まる予定ではなかったので厩舎有りの宿屋の当てがない。

そこで門衛にお勧めの宿屋を聞いて、そこに向かった。

 厩舎有りで5000ドロンだった。

記帳していると宿屋の者に尋ねられた。

「もしかして桑名宿場から船で熱田宿場へ渡られるのですか」

「はい」

「よければここの港から熱田へ渡りませんか」

 思いもかけぬ提案だ。

「えっ、渡れるんですか」

「この夏から熱田向けの廻船が始まりました。

始まったばかりなので知名度は有りませんが、歴とした問屋の船です。

船旅が長い分、景色も楽しめますよ」

「料金は」

「馬込みで4000ドロンです」

 桑名までの旅程が短縮できるから安い料金だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ