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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(帰省)4

 馬は今日も快調だ。

四つの蹄をパカパカと響かせて進んで行く。

反してアリスは不機嫌。

『面白くな~い』

『我慢我慢、もう少し行くと良いものが見られるからね』

『何が見られるの』

『驚くものだよ』

『教えてくれないの』

『それは見てからのお楽しみ』

 フ~ンとばかりにアリスは飛翔した。

『どうするんだ』俺は尋ねた。

『暇潰し』

 思い切り急上昇した。

姿は見えないが馬も気配で分かったらしい。

顔を斜め上に向け、「ブルルン」鼻を鳴らした。

 俺は探知スキルと鑑定スキルでアリスを追いかけた。

脳内モニターを分割してアリス追跡用を立ち上げ、マークした。

この甲斐甲斐しいばかりの世話焼き、俺はおかんか。

 アリスの暇潰しは魔物狩り。

ザコ魔物には飽きたのか、ほどよい手応えの魔物を探しては狩って行く。


 空気に漂う香りが変化した。

四日市宿場が近いからだろう。

高台から右手を望むと、それが見えた。

俺はアリスを呼び戻した。

『アリス、こっちに来いよ』

『ようやく呼んでくれたわね。

もしかして、お楽しみのもの。

直ぐに行くからね』

 アリスが猛スピードで駆け付けた。

その途中で言葉を失ったらしい。

俺の肩に乗ったはいいものの、耳を掴む手が震えていた。

 高台の向こうには青い海が広がっていた。

遙か先まで続く大海原。

水平線には白い入道雲。

海と空の青に、白い雲、サンサンと輝く太陽。

 風が運んで来た潮の香りがアリスの鼻を擽った。

『クシュン』

『これが海だよ。

湖の水とは違って、しょっぱいよ』

『広い、広い、広い』譫言のように言いながら、海へ飛んで行った。


 俺も高台から浜に下る道を見つけた。

外壁に囲われた宿場の外なので途中に人家はない。

それでも畑が点在するので、道は整備されていた。

砂浜までは下りない。

馬を帯同しているので手前の木陰で足を止めた。

魔物の襲撃も想定して馬は繋がないでおいた。

 改めてアリスを探した。

姿は見えなくても魔波を追えば位置は分かる。

性格か、真一直線に水平線に向かっていた。

まったくもう、妖精まっしぐら。

このままでは追跡を振り切ってしまう。

俺は慌てた。

『止まれ、止まれ、アリス』

 返事が返ってこない。

直ぐにモニターから消えてしまった。

どうしよう。

空を飛べれば直ぐに追いかけたい。

でも飛べない。

他に手はない。

帰りを待つしかない。


 アリスは水平線を目指して飛んでいた。

でもいつまで経っても辿り着かない。

雲ですら遠い。

分かったのは空の青と、海の青の違いだけ。

 海面スレスレでホバリングし、波の味見をした。

ダンタルニャンが言っていたように、しょっぱい。

でも味に深みがあった。

 感心していると、何かが勘に触れた。

嫌な魔力の塊。

気配察知で探した。

急接近してきた。

真下から一直線に向かって来た。

海中に黒い影。

波の揺れで、あやふやな形状だが、生き物であるのは確か。

湖の魚とは明らかに違う大きさ。

 それが姿を現した。

垂直に飛び出して来た。

口を大きく開けて、アリスを丸ごと飲み込もうとした。

 不意を突かれたアリスではあるが、

脳筋だけに何の考えもなしに反射神経が働いた。

空中で後退って躱した。

 飛び出して来た物は魚に似ていたが、大きさが尋常ではなかった。

開けている口も嘴のよう形状。

ぐいぐい上に伸びて行く。

途中、片目がアリスを捉えた。

濁った目色。

それは勢いのまま海面から空中に身を躍らせた。

 全身が鱗で覆われていて体長はおおよそ5メートルほど。

嘴を持つ細長い魚だ。

空中で身を捻り、尾びれでアリスを叩き落とそうとした。

これも躱されると、体勢を立て直しつ、嘴から海中に戻ろうとした。


 アリスはようやく自我を取り戻した。

妖精魔法を放った。

尾びれを掴み、空中で固定した。

逆さになった奴が激しく抵抗し、

身体を左右に揺らして力で逃れようとした。

 海の魔物だ。

それなりに対処しなければならない。

が、が、初見、海の魔物への対処は知らない。

そこで思い付いたのが、魚の活け締め。

 まず奴の頭部にウィンドスピア、風槍を放った。

外皮が頑丈なのか、仕留めるには至らない。

でも刺さっただけで充分だった。

奴の動きが鈍った。

念を入れて風槍を二本追加した。

ついに動きが止まった。

それでも仕留めきれてはいない。

しぶとい。

 次は〆だ。

近付いてエラに触れ、手を差し込んでウィンドカッターを放った。

手応えあり。

血がドバドバと流れてきた。

今度は反対側のエラだ。


 空中で固定したまま血を抜いた。

海面が赤く染まる様は不気味。

そこへ血の臭いに誘われたのか、海中に群れなす魚影。

魚か、海の魔物かの区別がつかない。

 奴がようやく息絶えた。

そうなれば次はご褒美の魔卵だ。

気配察知と勘働きで念入りに探した。

魔力が色濃く残っている箇所にウィンドカッターを放った。

縦横斜めに切り分けると、それがあった。

でかい。

海の魔物の魔卵を手に入れた。

 油断していた訳ではないが、再び海の魔物に襲撃された。

離れた海面から飛び出して来たのだ。

白くて大きな塊。

鱗はない。

手か足かは知らないが、長い触手のような物を何本も伸ばしながら、

勢いに任せて向かって来た。

 アリスは魔卵を収納し、上に逃げた。

そこまでは追って来られないようだ。

というか、目的はアリスではなくて活け締めた奴だった。

触手で抱くように掴み、九割方を引き裂いて海中に消えた。

残してくれたのは妖精魔法で固定していた尾びれのみ。

 安心したのも束の間、アリスは自分の置かれた状況に気付いた。

周囲は海のみで陸地は影も形もない。

焦って右往左往した。

『ダンタルニャン、ダンタルニャン』叫んでも答えはない。

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