表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
124/373

(帰省)1

 俺は東門を出て、少しした所で騎乗した。

華麗に騎乗したつもりが振り落とされてしまった。

転がる俺を見た馬がフンとばかりに、そっぽを向いた。

ケタケタと笑い声。

念話での笑いが脳内に響き渡った。

アリスしかいない。

 探知スキルと鑑定スキルを連携させて起動した。

アリスの姿は視認できなくても、魔波で特定できる。

そちらを向いて念話を送った。

『お見送り、ありがとう』

 アリスはダンジョンの妖精フロアをさらに拡張する為、

留守番をすると言っていた。

『はあ、なに言ってくれてんの。

それは昨日までの話。

今日は違うわよ。

一緒に行くわよ』

『えっ、なんでそうなる』

『天気は毎日違うでしょう。

それと同じ。

今日は一緒に行きたい気分なの。

文句あるの』

『ありません』

『よしよし。

ついでに教えてあげる。

アンタ、バリーの話を忘れてない』

 そうだった。

甘く考えていた。

バリーに、この馬に乗る際は角砂糖を与えてくれと言われていた。

 マジックバックから大きめの角砂糖を三つ取り出した。

すると気付いたのか、馬が俺を振り向いた。

口を大きく開けて催促する。

頬を撫でながら、三つ放り込む。

満足そうに口に含む馬。

噛み砕かない。

口内で溶けるのを楽しむようだ。


 気を良くしたのか、馬は俺を拒否しなかった。

手綱にも素直に従ってくれた。

急ぐ必要もないので、ゆっくりのんびり旅。

お茶休憩やトイレ休憩を挟んで大津宿場に来た。 

『ひゃー、広い湖』アリスが喜んでくれた。

『琵琶湖だよ。

ここで待ってるから、見てきてごらん』

『分かった。

待ってるのよ』

 アリスが全速力で湖面を北上して行く。

姿は見えないが、湖面に立つ不自然な波でそれと分かる。

俺は念の為、探知スキルと鑑定スキルでアリスの魔波を追跡した。

これがあれば迷子になっても、俺の魔波を逆探知すれば戻れる筈だ。

 流石はBランクのスピード。

あっと言う間に加速して湖の中間点に達した。

そこでホバリング。

『広いだけ、まあ、いいか』独り言が聞こえた。

 引き返して来るのも速い。

力尽くの減速で、俺の肩に腰を下ろした。

『さあ、次行こう』


 何の騒ぎもなく東海道を草津宿場から石部宿場へと進んだ。

途中で途絶える街道とは言え、行き交う人やキャラバンで賑やかだ。

巡回している領軍もよく見かけた。

魔物との不幸な遭遇がないのは彼等のお陰なのかも知れない。

 夕方も近い。

俺はこの宿場に泊まることにした。

ここからが本当の一人旅の始まりだ。

全ての宿場町に冒険者ギルドがある訳ではないので、

事前に調べておいた宿屋に入った。

 カウンターにスタッフの姿がない。

「すみません」呼び出した。

 奥から大人の男が顔を出した。

宿屋の屋号の入った半纏を羽織っていた。

「はい、いらっしゃいませ」

「泊まりたいのですが、人間は僕一人で、乗って来た馬がいます」

「お子様お一人ですか」不審顔。

「国都の学校が夏休みに入ったので帰省します」

 学校と帰省で表情が緩んだ。

「そういうことですか、安心しました。

大部屋はありません。四人部屋、二人部屋の二種類だけですよ」

 大部屋は他人との雑魚寝になるので安い。

「一人なので二人部屋でお願いします」

「夕食と朝食、それにお風呂は」

「お願いします」

「厩舎込みで5000ドロン前払いになります」

 たぶん、半分は馬だろう。

俺は中銀貨で支払った。


 宿場町の朝は早い。

日の出と競争するように働き始める。

なによりも先に朝食の準備に取り掛かる。

早立ちのキャラバンが多いからだ。

 慌ただしいので俺は彼等の後にした。

それでも早めに宿場を立つことが出来た。

馬も快調。

アリスも快調。

『田舎って落ち着くわねえ、空気がとっても美味しい』

 ここから街道を下る者達が少なくなってきた。

その少ない中でも目に付くのは行商人達。

荷物を背負わずに小型の荷馬車の馭者席にいた。

荷物重視ではなく、機動性重視と思える。

おそらく魔物対策なのだろう。

 俺のようなソロの旅人も多くはない。

どうやら、この辺りからは少なくなる傾向のようだ。

それはそうだろう。

日程的に鈴鹿峠があり、その峠の名物が盗賊に魔物なのだ。


 幾つかのキャラバン隊が先行した。

その後に荷馬車の行商人達。

続けてその他の旅人達。

俺はその他。

騎乗なので行商人の荷馬車の後ろに付けた。

 途中、行商人が一両、一両、荷馬車で枝道に逸れて行く。

枝道と言っても、道は平され、両側は見通しの良いように刈られていた。

防風林もあるが、ここも下の方は枝葉が完全に刈り取られていた。

これだと盗賊や魔物が隠れる場所がないので、行商人は当然、

先の村や集落の者達も安心して生活が出来る。


 水口宿場から土山宿場へは何の問題もなく進めた。

時折、遠くに魔物の群を見つけたが、

彼等がこちらに向かって来ることはなかった。

まるでテリトリーが決まっているかのようだった。

 難関の鈴鹿峠が迫って来た。

アレが遠目にも見えてきた。

噂のように辺りの嶺々には巨木が何本も、そそり立っていた。

その姿は前世のバオバブに似ていた。

違うのは大きさだけ。

一番大きいのは、遠目にだが、100メートルを超えてそう。

いや、超えてるだろう。

壮観の一言。

これ見たさに東海道を下ったのだ。

昨年暮れの国都入りが中山道からだったので、目にする事がなかった。

念願の巨木を一目見て満たされた。

機会があれば登山して幹の太さを測ってみたい。

まあ、それはいずれ、今回は拝むだけにしよう。


 予想通り、アリスが食い付いてきた。

『あのお化けのような木はなんなのよ。

幹が太いだけのあれは』

 返事も待たずに飛んで行く。

『幹の中には水が詰まってるみたいだよ』

 バオバブと同じで、たぶん、水だろう。

できれば、酒が詰まっているとジョークで返したかった。

でも、それを聞いたアリスは確実に幹を叩き割る。

『へー、水膨れなのね』

 自由な奴が羨ましい。

俺は脳内モニターの分割が可能な事から、アリス追跡用を立ち上げた。

アリスをマークしてEPを調整しながら、ゆるく広げていく。

この網の中に入れておけば迷子にはならないだろう。


 少ないが、上り下りの旅人達がある程度の間隔で行き交っていた。

街道を上って来る者達に異常が見られないのは、

途中で盗賊や魔物に遭遇していないからだろう。

 俺は拍子抜けしながらも街道を下ることにした。

実は期待していた。

出来れば魔物との遭遇を。

ここは国都ではないので存分に戦えると。

 俺は馬を進めた。

緩やかな上り下りの連続だったので騎乗の旅を味わった。

山間部特有の風が吹き、前髪を揺らし、目鼻を擽る。

平地なら馬を本能のまま、駆けさせたい気分。

 この上り下り、大人の体重だと馬にとっては酷使なのだろうが、

俺は子供なので軽い。

この程度なら問題ないだろう。

 幾つ目かの坂を上がったところで、

反対側から上って来る騎馬に目を奪われた。

上り坂なのに騎乗のまま馬を急がせていた。

この調子でここまで来たのだろうか。

馬を潰すことを厭わないのだろうか。

近付くに従い、男の表情が窺えた。

下卑ていた。

生まれつきなのだろう。

嫌な感じしかしない。

 上りきった男は馬を休ませようとはしない。

人目も気にせず鞭を入れ、先を急がせた。


 俺は気になったので、探知スキルで追尾した。

男は手前にあった開拓地に飛び込んだ。

すると複数の緑の点滅が男の元にわらわらと集まって来た。

 あそこは、ちらりと横目にした程度だが覚えていた。

魔物対策と思われる騎乗の兵複数に守られて、

二十数人ほどの農夫が鎌や鍬で雑草を刈り払っていた。

どう見ても、開拓している様子だった。



★★★☆☆☆★★★


 お知らせです。

明日から入院手術に入ります。

性格が悪いので脳味噌を交換してきます。

退院は来週の予定です。

なので更新を一時停止します。

明日からお休みです。

申し訳ありませんが、退院まで少々お待ち下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ