(ダンジョンマスター)8
別れ際にアリスと侯爵の間で約束がなされた。
アリスは自由にティナを訪れても構わない。
その代わりにティナに危機が訪れた際はアリスが保護する。
侯爵は快く応じ、ついでに俺に誘いを掛けた。
「よかったら当家に仕えないか」
俺は即答した。
「仕官には興味がない」
侯爵は苦笑い。
そこで俺達はティナを残して帰途に就いた。
侯爵のデューク武田はCランクで鑑定スキル☆持ち。
俺より年上の気持ちの良い若者であった。
そんな彼に見送られて俺達は表門から外に出た。
歩いていると不穏な空気を感じた。
油断していた。
探知スキルと鑑定スキルで原因を探った。
大掛かりに侯爵邸を包囲している連中がいた。
辻々に人員を配置しているのだが、穴もある。
勘付かれぬように、わざと空けているのだろう。
合図一つあれば直ぐに塞がれるに違いない。
連中は俺達には目もくれない。
全神経を侯爵邸に向けていた。
どうやら侯爵邸の妖精を奪還しに来る者を待ち構えている気配。
アリスも低レベルの気配察知機能で感知したらしい。
『何か変よね、肌がヒリヒリするわ』
『原因が分からないのか』
『ちょっとね・・・。
えっ、もしかして分かるの。
教えなさいよ』
連中との距離が近いので鑑定スキルも仕事がし易い。
『奉行所の連中だ。
中に覚えている魔波がある』
『誰よ』
『アリスが倉庫で半殺しに二人だ。
ザッカリーのところの奴だよ。
【奴隷の首輪】を付けられてる反応がする』
『ここで後腐れのないように殺そうかしら』
俺は軽い考えで、とある悪戯を思い付いた。
『試してみたい事がある。
このまま気付かぬ振りをして進もう』
『大丈夫なの』腕を疑われた。
『少しは信用しようよ』
あの二人、サンチョとクラークは一緒にはいない。
【奴隷の首輪】が嵌められているとはいえ警戒対象のようで、
侯爵邸を挟んで表と裏に分かれて配置されていた。
俺は連中の目が逸れたのを機に横丁に入った。
誰の注意も引かなかった。
手頃な物陰に潜み、手近にいるサンチョを攻略する事にした。
【奴隷の首輪】を綿密に鑑定して分析。
正規の物だけにコーティングまで施されていた。
それらを理解した上で、さあ、チャレンジ、チャレンジ。
術式洗浄スキルの出番。
まず【奴隷の首輪】全体に施してあるコーティングを消去。
続いて主人の欄の使役している者の名前を消去。
そして間を置かず、新たな名前を記入。
妖精アリス。
アリスの魔波をコピーして名入れ。
さらにアリスの魔波のコピーで【奴隷の首輪】全体をコーティングした。
「契約スキルを獲得しました。
術式洗浄スキルと統合して契約魔法とします。
契約魔法を魔女魔法に組み込みます」
一連の事を告げるとアリスは呆れ返った。
『何て事を・・・。
それで成功したの』
『たぶん、成功だな。
試しに念話で命令してみたら』
アリスは躊躇いながらも念話した。
『サンチョ、聞こえる、聞こえたら頭の中で返事して』
『はい、聞こえます、御主人様』即答だった。
『ステータスまで分かるのね、便利だわ』アリスが悪い笑顔で俺に言い、
『それで命令だけど、取り敢えず逃げなさい。
奉行所の連中から逃げて、どこかのスラムに隠れるのよ。
私が迎えに行くまで隠れているの、いいわね。
その際、捕まりそうになったら反撃を許可します、遠慮は無用です』
最後は如何にも脳筋らしい一言。
途端、騒ぎが起きた。
ドタバタと足音、怒鳴り声、制止する声、魔法の破裂音、悲鳴。
サンチョは元冒険者でCランク。
スキルは水魔法☆☆、気配察知☆☆。
魔物との戦いだけでなくスラムの修羅場も潜り抜けた猛者。
体調さえ万全なら逃げ切れるだろう。
続けて俺はクラークを探した。
こちらの騒ぎに気付いたのか、
反対側にいた者達が急ぎ駆け付けて来た。
その中にクラークがいた。
どうやら俺には気付いていない様子。
クラークを尾行し、その足が止まったところで攻略を開始した。
二人目だから迷いはない。
これも妖精アリスの奴隷にした。
クラークは老人ながらも力は衰えておらず、今もってBランク。
スキルは闇魔法☆☆、契約☆☆の二つ。
獣化☆☆なるユニークスキルも持つ出来物。
アリスが確認した。
『クラーク、聞こえたら返事して』
『はい、クラークです。御主人様』
『奉行所の連中から逃げなさい。
サンチョと合流して私が呼ぶまで隠れていなさい。
その際、捕まりそうになったら反撃を許可します、遠慮は無用です』
こちらでも騒ぎになった。
こうなると辺りは、てんやわんや。
収拾がつかない。
アリスが疑問を口にした。
『どうして私の奴隷にしたの』
『なんとなく』
『それは・・・。
考えもなしなの』
『ごめん』
サンチョとクラークの魔波を追跡した。
途中、倒されてる奉行所の者が散見された。
殺してまではいない。
サンチョとクラークは逃走が第一と考え、
追っ手への止めは控えているようだ。
西区画のスラムが騒然としていた。
原因は追われる者と追う者。
スラムの荒っぽい連中を巻き込み、各所で諍いが生じていた。
俺達は静かな場所に移動した。
アリスが念話で二人に呼びかけた。
『サンチョ、クラーク、生きてたら返事して』酷い言様で、
この辺りの目印になりそうな建物を教えた。
アリスが真剣な眼差しで俺に尋ねた。
『これからどうするの』
『んー』
『本当に考えなしね、呆れた』
なので俺は考えた。
俺は何がしたいのか。
はて・・・、冒険者しか思いつかない。
アリスをどうしたいのか。
押し掛けて来た眷属に何を求める。
なにも・・・、思いつかない。
サンチョとクラークを奴隷にしたのは・・・。
ただ単に自分の力量を試したかっただけ。
その目的は達した。
これからは・・・。
アリスが素っ頓狂な声を上げた。
『そうよそうよ、そうだよね』
『なにが・・・』
『二人には立派な悪党になってもらおう。
良い考えだと思わない』
★★☆☆★★☆☆
おはようさん、サンサン。
で・・・。
すみませぬ。
すみませぬ。
整理整頓済みの在庫が尽きました。
なので、申し訳ねえっす。
これよりは週一の更新になります。
お暇な方は拙者の別の作品にお立ち寄り下さいませんか。
ねえ、下さいますよね。
ほとんど過疎ってるんです。
えっ、寄って下さる。
ありがとうさん、サンサン。
歴史ジャンルです。
「彼方に飛ばされて」でございます。
今朝も更新したばかりです。




