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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
113/373

(ダンジョンマスター)2

 困っていた俺の横でアリスが変身を解き、コアに飛び付いた。

恐いくらいの笑顔で小さな掌を当てた。

次席だから権限に制限はあるだろうが、

それなりの情報は得られる筈だ。

でも脳筋妖精に理解できるだろうか。

 やっぱり。

接続した姿のまま固まっていた。

どうするんだろう。

 ようやくアリスが俺の視線に気付いた。

『な~に、私、忙しいんだけど。

・・・。

やっぱりこのコア、おかしいわ。』開き直った。

『俺に言われても困るよ』

『用があるなら早く言って』

『ここから出るには、どうしたら良いんだ』

『知らなかったの。

良いわ、私は親切だから教えてあげる。

天井から穴を掘って出るのよ』

 アリスの頬がプルプル、今にも噴き出しそう。

『顔に嘘だって書いてるよ』

 アリスは大笑い。

『キャッハッハッハッ・・・。

転移はコアの仕事よ。

外の風景、覚えてる。

覚えてたら、それを思い出してご覧なさい』

 転移・・・、ワープ・・・。

でも出先に障害物があったとしたら・・・。

小心者の俺は先に結界で自分自身を包み込んだ姿をイメージ、

それから外の景色を思い出し、転移と念じてみた。


 一瞬だった。

直径2メートルほどの球体の結界が俺を包み込んだと思いきや転移。

山と山に挟まれた空中の高所に居た。

ダメージは全くなし。

『話は最後まで聞きなさいよ』アリスの声が届いた。

『ゴメン。

言われた通りに外に出たけど』

『出たのは良いけど、ここに入る方法を聞いてないでしょう』

『ガ~ン。

ゴメンゴメン、教えて』

『まったく、このお子様は・・・。

近くまで来たら、真上でなくても構わないけど、

ダンジョンコアをイメージすれば良いわ。

もしダンジョンコアが攻略されていたら、入ることは出来ないけどね』

 脳筋妖精だけど頼りになった。

俺を小馬鹿にしながら、その他の細々した事を説明してくれた。


 アリスから開放された俺は下を見た。

真下ではないが周辺に魔物の群を見つけた。

狐の種から枝分かれしたDランクのガゼミゼルだ。

二足歩行すると2メートルを越える奴等が四つ足で移動していた。

武器はブレススノーストーム、吹雪。

数は五頭。

俺の気配に気付かず、真下に接近して来ようとしていた。

 俺は自分のステータスを確認した。

HP(222)残量、105。

EP(222)残量、73。

 ダンジョンマスタースキルを始動した際の、ごっそり感からすると、

意外に残っていた。

HPは100以上だから問題なし。

心配なのはEP。

73では心許ない。

そこで手持ちのMP回復ポーションを虚空から取り出した。

不格好で分厚い茶色の陶器の小瓶だ。

片手で持てるサイズで、コルク栓、紙の封がしてある。

 HPと同じで下級が30回復、中級が60回復、上級が90回復する。

手にしたのは中級。

俺の場合はEPだが、問題なく40ほどは回復する。

 値段は瓶込みで4500ドロン。

日雇い日当の1000ドロンに比べると高めだが、

これは調剤スキル持ちの多い国都ギルド独自の価格で、

スキル持ちの少ない地方に比べれば圧倒的に安い価格なのだ、

それに空になった小瓶は500ドロンで引き取ってくれる。


 何故か、この場面で悪戯心が涌いてきた。

いや好奇心、いやいや研究心。

 鑑定スキルでポーションの分析開始。

連携して鍛冶スキルでポーションを分解した。

魔素に変換。

得られたデータを脳内モニターに収集、蓄積。

終えたら即座にポーションの復元をイメージした。

 都合の良い話だけど、出来た。

簡単にデータを得た上に復元も出来た。

EPを消費しただけで、それ以上の収穫だ。

 ポーションは粉末にした薬草を組み合わせ、魔水で煮沸攪拌し、

冷ましたものを小瓶に封入した物。

これはHPやEPだけでなく病気や怪我の治癒ポーションも同じだ。

でも全てが同等の効果を生み出す訳ではない。

薬草の組み合わせと同時に、

調剤スキル持ちの力量によっても出来に差が生じる。

 俺はデータを見直した。

小瓶、コルク栓、封を除外し、薬草と魔水を事細かく調べた。

不純物が多いのだ。

薬草だけでなく、魔水も含めてだが、スキル持ちの腕が悪いのだろう。

そこで不純物を除外し、ポーションを容器込みで造ることにした。

調剤スキルはないが、イメージで挑戦。

再び削られるEP。


 目の前に何かが浮かんだ。

次第に形を成して行く。

茶色の小瓶、コルク栓、紙の封。

鑑定スキルで調べてみたら、中身は有り難いことにMP回復ポーション。

しかも、超級のMP回復ポーション、全回復。

まさか、だった。

予想外の出来だった。

「調剤スキルを得ました」脳内モニターに文字。

 これも予想外だった。

「鍛冶スキルと調剤スキルを結合します。

・・・。

錬金魔法スキルになりました。

・・・。

錬金魔法スキルを得たことにより、全ての魔法が統合されます。

・・・。

魔女魔法スキルに一体化されました。

・・・。

魔女魔法スキルをユニークスキルに移行しました。

・・・。

レベルが上がりました」

 驚きしかない。

魔女って・・・。

レベルって・・・。

慌ててステータスを確認した。


「名前、ダンタルニャン。

種別、人間。

年齢、十才。

性別、雄。

住所、足利国尾張地方戸倉村生まれ、国都在住。

職業、冒険者、幼年学校生徒、アリスの名付け親、

山城ダンジョンのマスター。

ランク、B。

HP(333)残量、333。

EP(333)残量、333。

スキル、弓士☆☆。

ユニークスキル、ダンジョンマスター☆☆、虚空☆☆、魔女魔法☆☆、

無双☆☆☆☆☆(ダンジョン内限定)」


 綺麗に整理されていた。

だけではない。

ランクの変更がないだけで、HPとMP、☆も、レベルアップした。

整理整頓は良いけど、取りこぼしが心配になった。

そこで魔女魔法スキルのプロパティを読んでみた。


「光学迷彩☆☆☆、探知☆☆、鑑定☆☆、水魔法☆☆、火魔法☆☆、

光魔法☆☆、土魔法☆☆、風魔法☆☆、闇魔法☆☆、錬金魔法☆☆、

身体強化☆☆、透視☆☆、術式洗浄☆☆」


 ここでも・・・。

上がったのは嬉しいけど、魔女って、誰か教えて。

思わず股間に手を伸ばした。

あった。

小っちゃいけど雄の徴はあった。


 魔女魔法への疑問はさておき、今は現状確認だ。

俺は超級のMP回復ポーションを虚空に収納した。

身体強化スキルを始動した。

問題なし、というかパワーアップしているのを感じ取った。

そこで結界を地上に降ろし、解いた。

五頭のガゼミゼルの方を向き、ゆっくり歩を進めた。

 突然の事に驚き足を止めた群。

直ぐに立ち直るや、餌と認識したのだろう。

咆えながら我先に駆け寄って来た。

 俺はパワーアップの具合を確かめる事にした。

こちらからも駆けた。

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