(ダンジョンマスター)2
困っていた俺の横でアリスが変身を解き、コアに飛び付いた。
恐いくらいの笑顔で小さな掌を当てた。
次席だから権限に制限はあるだろうが、
それなりの情報は得られる筈だ。
でも脳筋妖精に理解できるだろうか。
やっぱり。
接続した姿のまま固まっていた。
どうするんだろう。
ようやくアリスが俺の視線に気付いた。
『な~に、私、忙しいんだけど。
・・・。
やっぱりこのコア、おかしいわ。』開き直った。
『俺に言われても困るよ』
『用があるなら早く言って』
『ここから出るには、どうしたら良いんだ』
『知らなかったの。
良いわ、私は親切だから教えてあげる。
天井から穴を掘って出るのよ』
アリスの頬がプルプル、今にも噴き出しそう。
『顔に嘘だって書いてるよ』
アリスは大笑い。
『キャッハッハッハッ・・・。
転移はコアの仕事よ。
外の風景、覚えてる。
覚えてたら、それを思い出してご覧なさい』
転移・・・、ワープ・・・。
でも出先に障害物があったとしたら・・・。
小心者の俺は先に結界で自分自身を包み込んだ姿をイメージ、
それから外の景色を思い出し、転移と念じてみた。
一瞬だった。
直径2メートルほどの球体の結界が俺を包み込んだと思いきや転移。
山と山に挟まれた空中の高所に居た。
ダメージは全くなし。
『話は最後まで聞きなさいよ』アリスの声が届いた。
『ゴメン。
言われた通りに外に出たけど』
『出たのは良いけど、ここに入る方法を聞いてないでしょう』
『ガ~ン。
ゴメンゴメン、教えて』
『まったく、このお子様は・・・。
近くまで来たら、真上でなくても構わないけど、
ダンジョンコアをイメージすれば良いわ。
もしダンジョンコアが攻略されていたら、入ることは出来ないけどね』
脳筋妖精だけど頼りになった。
俺を小馬鹿にしながら、その他の細々した事を説明してくれた。
アリスから開放された俺は下を見た。
真下ではないが周辺に魔物の群を見つけた。
狐の種から枝分かれしたDランクのガゼミゼルだ。
二足歩行すると2メートルを越える奴等が四つ足で移動していた。
武器はブレススノーストーム、吹雪。
数は五頭。
俺の気配に気付かず、真下に接近して来ようとしていた。
俺は自分のステータスを確認した。
HP(222)残量、105。
EP(222)残量、73。
ダンジョンマスタースキルを始動した際の、ごっそり感からすると、
意外に残っていた。
HPは100以上だから問題なし。
心配なのはEP。
73では心許ない。
そこで手持ちのMP回復ポーションを虚空から取り出した。
不格好で分厚い茶色の陶器の小瓶だ。
片手で持てるサイズで、コルク栓、紙の封がしてある。
HPと同じで下級が30回復、中級が60回復、上級が90回復する。
手にしたのは中級。
俺の場合はEPだが、問題なく40ほどは回復する。
値段は瓶込みで4500ドロン。
日雇い日当の1000ドロンに比べると高めだが、
これは調剤スキル持ちの多い国都ギルド独自の価格で、
スキル持ちの少ない地方に比べれば圧倒的に安い価格なのだ、
それに空になった小瓶は500ドロンで引き取ってくれる。
何故か、この場面で悪戯心が涌いてきた。
いや好奇心、いやいや研究心。
鑑定スキルでポーションの分析開始。
連携して鍛冶スキルでポーションを分解した。
魔素に変換。
得られたデータを脳内モニターに収集、蓄積。
終えたら即座にポーションの復元をイメージした。
都合の良い話だけど、出来た。
簡単にデータを得た上に復元も出来た。
EPを消費しただけで、それ以上の収穫だ。
ポーションは粉末にした薬草を組み合わせ、魔水で煮沸攪拌し、
冷ましたものを小瓶に封入した物。
これはHPやEPだけでなく病気や怪我の治癒ポーションも同じだ。
でも全てが同等の効果を生み出す訳ではない。
薬草の組み合わせと同時に、
調剤スキル持ちの力量によっても出来に差が生じる。
俺はデータを見直した。
小瓶、コルク栓、封を除外し、薬草と魔水を事細かく調べた。
不純物が多いのだ。
薬草だけでなく、魔水も含めてだが、スキル持ちの腕が悪いのだろう。
そこで不純物を除外し、ポーションを容器込みで造ることにした。
調剤スキルはないが、イメージで挑戦。
再び削られるEP。
目の前に何かが浮かんだ。
次第に形を成して行く。
茶色の小瓶、コルク栓、紙の封。
鑑定スキルで調べてみたら、中身は有り難いことにMP回復ポーション。
しかも、超級のMP回復ポーション、全回復。
まさか、だった。
予想外の出来だった。
「調剤スキルを得ました」脳内モニターに文字。
これも予想外だった。
「鍛冶スキルと調剤スキルを結合します。
・・・。
錬金魔法スキルになりました。
・・・。
錬金魔法スキルを得たことにより、全ての魔法が統合されます。
・・・。
魔女魔法スキルに一体化されました。
・・・。
魔女魔法スキルをユニークスキルに移行しました。
・・・。
レベルが上がりました」
驚きしかない。
魔女って・・・。
レベルって・・・。
慌ててステータスを確認した。
「名前、ダンタルニャン。
種別、人間。
年齢、十才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村生まれ、国都在住。
職業、冒険者、幼年学校生徒、アリスの名付け親、
山城ダンジョンのマスター。
ランク、B。
HP(333)残量、333。
EP(333)残量、333。
スキル、弓士☆☆。
ユニークスキル、ダンジョンマスター☆☆、虚空☆☆、魔女魔法☆☆、
無双☆☆☆☆☆(ダンジョン内限定)」
綺麗に整理されていた。
だけではない。
ランクの変更がないだけで、HPとMP、☆も、レベルアップした。
整理整頓は良いけど、取りこぼしが心配になった。
そこで魔女魔法スキルのプロパティを読んでみた。
「光学迷彩☆☆☆、探知☆☆、鑑定☆☆、水魔法☆☆、火魔法☆☆、
光魔法☆☆、土魔法☆☆、風魔法☆☆、闇魔法☆☆、錬金魔法☆☆、
身体強化☆☆、透視☆☆、術式洗浄☆☆」
ここでも・・・。
上がったのは嬉しいけど、魔女って、誰か教えて。
思わず股間に手を伸ばした。
あった。
小っちゃいけど雄の徴はあった。
魔女魔法への疑問はさておき、今は現状確認だ。
俺は超級のMP回復ポーションを虚空に収納した。
身体強化スキルを始動した。
問題なし、というかパワーアップしているのを感じ取った。
そこで結界を地上に降ろし、解いた。
五頭のガゼミゼルの方を向き、ゆっくり歩を進めた。
突然の事に驚き足を止めた群。
直ぐに立ち直るや、餌と認識したのだろう。
咆えながら我先に駆け寄って来た。
俺はパワーアップの具合を確かめる事にした。
こちらからも駆けた。




