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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(アリス)28

 奉行所に正式配備されてる携行灯だが、価格ゆえに数は少ない。

今回は同僚や番所の者達が駆け付けて来たので幸いにも三つ。

その三つの携行灯が床の二人に集中した。

捕り手も殺到した。

先頭の同心が叫んだ。

「怪我してるぞ」

 先任の同心が問う。

「怪我の程度は」

「重傷だ」

 番所から来た同心が二人の傍に寄った。

「これは酷いな。

・・・。

こいつらの顔に見覚えがある。

一人はザッカリーファミリーの金庫番で、もう一人は客人待遇の老人だ。

この様子からするとリンチに遭ったようだな」

 ザッカリーファミリーの金庫番とは大物だ。

理由は分からないが、それが客人と共にリンチに遭った。

居合わせた者達が大事件の予感に身震いした。


 二人は口が利けないほどに怪我していた。

尋問よりも治療が優先されるが、ここにスキル持ちはいない。

そこで番所から治癒ポーションを取り寄せ、二人の傷口にかけた。

公用のポーションなので効能は保証付き。

ただ二人とも重傷なので何本も空にした。

目に見える範囲の傷口は塞がり、出血だけは止んだ。

が、骨折だけは、どうにもならない。

これ以上は現場では無理。

これから先はスキル持ちに頼るしかないだろう。

 二人は担架で奉行所に搬送された。

それでも問題は残っていた。

加害者はどこに。

 奉行所側が突入するまで、倉庫内は明かりが点いていた。

あれは光魔法のライト。

消されるまで加害者が現場に居合わせた筈だ。

捕り手が包囲し、倉庫全体は監視下にあった。

その目から逃れるは不可能。

さっそく倉庫内部の捜索が開始された。

空き箱も次々に改められた。

携行灯で丹念に調べられた。

ところが陰も形も。


 捕り手の一人が天井を指し示した。

「あれは」

 みんなが上を見上げた。

屋根の丸い穴から三日月が顔を覗かせていた。

老朽化で壊れたというよりも、そこだけを切り抜いた感。

 真下には残骸一つ落ちていない。

それを確かめて先任の同心が同僚に言う。

「闇魔法なら可能だな」

「この高さを飛んで、屋根に逃げたと」

「身体強化スキルのレベルが高ければ出来る筈だ」

「それじぁ今頃は」

「屋根伝いになら誰の目に触れずに逃れられる」

 番所から来た同心が感心したように言う。

「リンチされた二人も魔法使いだ。

噂では、なかなかの使い手だったようだ。

そんな悪党の魔法使い二人を同時にリンチするからには、

犯人は高位の使い手だろうな」


 担架で奉行所に運ばれた二人は重傷で口は利けないが、

悪党とは思われぬような歓待をされた。

当番の治癒スキル持ちだけでなく非番の者達も招集され、

治癒ポーションと重ね掛けで入念に治療された。

 帰宅直前であった奉行は足を止めて吉報に心を躍らせた。

担当区のスラムの悪党が重傷で運び込まれて来たのだ。

一人はザッカリーファミリーの金庫番。

指名手配されてはいないが悪党には違いない。

其奴の身柄を手に入れた。

 治療室から当番の与力が報告に来た。

「治療の経過は順調です」

「HPとMPは」

「血を失ったので低いままです。

完全回復するには五日ほどかかるそうです

そこで回復する前に【魔法封じの首輪】を付けることを、お勧めします」


 魔法使いを捕らえた際は、魔法での抵抗を封じる為に、

【魔法封じの首輪】を着用させるのが一般的であった。

 奉行は悪い笑みを浮かべた。

「二人は犯罪者として捕らえた訳じゃない。

そこのところはどうする」

「現行犯としては、ちょっと弱いですな。

しかし世間では悪党と言われている奴です。

このまま野放しには出来ません。

治療の傍ら、話を聞いてみるのも一興かと。

治療代の代わりにですが」

「回復が長引けば良いな」

「はい、たぶん長引きます。

ついでに箝口令も敷きましょうか」

「理由は」

「リンチした側が逃げています。

このままだと、また狙う恐れがあります。

一般人に被害が及ばぬようにするのが我等の役目かと」

 与力が太々しい笑みで頭を下げた。


 俺は次の日の夕刻、南区のスラムに出掛けた。

ソロ用のフード付きのローブで正体を隠し、何気なさそうに歩き回った。

予想通りだった。

奉行所の手の者と覚しき連中が目に付いた。

当人達は偽装しているつもりなんだろうが、仕草からして怪しかった。

人の物をくすねる目付きではなく、誰かを探す目付き。

役人臭プンプン。

スラムの住人達が敬遠しているのには気付かぬ様子。

 俺は辻の陰に身を寄せた。

奉行所のせいで求める獲物が姿を現さない。

穴倉にジッと身を潜めているようだ。

 アリスが言う。

『これじゃね、困ったわね。

面倒だからファミリーのアジトに殴り込む』

『殴り込みか。

甘い誘惑だな』

『もたもたしていると、夜になるわよ』

 サンチョやクラークの上のボスしか思い付かない。

ファミリーのボス、ザッカリーなら把握してる可能性がある。

アジトの近辺に網を張っていれば、

そのうちに出掛けるだろうと安易に考えていた。

が、姿を現さない。

引き籠もりか。

 殴り込むのは容易い。

アリスと二人なら制圧する自信はある。

口を割らせるのは別だが。

 問題は奉行所の目。

連中の関心が何処に有るのかは知らないが、

騒ぎが持ち上がれば役目柄、駆け付けるだろう

今回も夜に紛れて逃走すれば済むが、

奉行所まで巻き込むつもりはない。

彼等に恨みは一切ないのだ。

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