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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(戸倉村)10

 みんなの関心は荷馬車で運んだヘルハウンドの首にあった。

腐敗を避ける為に塩漬けして置いたが、嫌なのか当然なのか、

顔を顰めるだけで誰も直に触れようとはしない。

細い棒先で突っつきながら特徴を確認し、隣の者と小声で話し合う。

 中心になって念入りに調べていたのは冒険者風の男。

奉行と視線を交わしつ、一つの結論に達した。

主立った者達に目配せをした。

それに皆も気付いた。

動きを止めて言葉を待った。

冒険者風の男は皆を見回し、やおら口を開いた。

「まず最初にヘルハウンドである、と申し上げます。

首だけですが、特徴を詳細に調べました。

結論は、木曾谷の大樹海を縄張りとするヘルハウンドに酷似。

木曽種のヘルハウンドと見てもまず差し支えないでしょう」

 皆が隣の者と二言三言、言葉を交わした。

「木曾種か」

「だとすると、容易ならぬな」

「斥候を送るか」

 奉行が口を開いた。

「ここでは何だ、部屋に戻って話し合おう」

 皆に否はない。

足早に建物に向かった。

アンソニーは武士であるものの役職には付いてなかった。

高位にある者達と並ぶ立場ではない、と自覚して、

荷馬車の傍から離れようとしなかった。

それに気付いた奉行がアンソニーに声をかけた。

「せっかく来たんだ、付いて参れ」

 奉行はアンソニーを待つと、並んで足を進めた。

「こういう場合は厚顔でも構わんぞ」

「はい」

「あれはな」と奉行が、先を行く冒険者風の男の背中を手で示し、

「領都の冒険者ギルドのマスターだ。

若い頃はこの尾張から美濃、飛騨、信濃は当然、

安芸から武蔵あたりまで足を伸ばし、幾つもの大樹海に潜ったそうだ。

だから大樹海の魔物には詳しい。

ランクはBだ」と説明した。

 冒険者はランク付けされる職業だ。

ランクはABCDEFの六等級。

それとは別に、別格の者には別枠が用意されていた。

最高位はAであるが、特例としてSが贈られた。

そのSランクの者は希少。

Aランクも少ない。

Bランクにして、ようやく多いと言った程度。


 部屋に入ると、そのBランクのマスターが会議を主導した。

同行していたギルドの職員から渡された地図を、

皆に見えるように長テーブルの上に広げた。

「美濃のギルドは大樹海に異常なし、と申しております」

 彼は奉行所の依頼を受けて美濃のギルドに使いを走らせ、

木曽の大樹海のヘルハウンドの動向を調べさせた。

同時並行して尾張から美濃にかけての、

ヘルハウンド出没の情報も拾い集めさせていた。


 木曽地域は内に大樹海を持つため、

隣領と領境の線引きを巡って揉めても、軍を進めることはない。

それには訳があった。

領境での争いで大兵力を展開して、

大樹海の魔物達を刺激した過去が原因になっていた。

戦場独特の戦気と大量に流される血の臭いに誘い出された魔物達が、

第三勢力として勝手に暴れ回って双方に甚大な被害を与えたのだ。

それが教訓となり、今のところ木曽は美濃地方の一部として、

平穏に扱われていた。


「地図をご覧下さい。

尾張から美濃にかけての地図です。

ヘルハウンドを狩った地点に数字を書き込みました。

狩った数です。

赤い数字が木曽種のヘルハウンドと確認されています。

青は似ている。

黒は詳しい者がおらず不明、となっております」

 黒い数字が多い。

次いで青。

それでも赤い数字も、けっして少なくはない。

それをマスターが指摘した。

「ここ百年以上ですが、

木曽種は大樹海以外では見られていません。

ところが最近、一ヶ月ほどの間に、赤い数字で分かるように、

木曽種と確認されたヘルハウンドが狩られています。

これが何を意味するか、皆さんでしたら、お分かりでしょう」

「美濃のギルドが木曽に支部を置いているはずだ。

その支部は何と言ってる」

「そちらも異常なし、と。

それに実際に大樹海に入るのはギルド職員ではなく、冒険者です。

情報は彼等の報告に頼っています。

そんな彼等でも、たぶんですが、

普段から見慣れているので、感覚が麻痺しているのではないかと・・・」

「見慣れている、それもあるか。

しかし、赤い数字は無視できない。

どうしたものか」

 奉行が口を開いた。

「魔物の大移動が開始されるのも間近、と仮定しよう。

問題は魔物がどちらに向かうかだ。

それが分かる手掛かりは・・・、おのおの方、如何かな」

 木曽が美濃であるからと言って、木曽から西に向かうとは限らない。

美濃に接する飛騨、信濃、三河、あるいは越前に向かうかも知れない。

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