レッサムの手紙 2,561字
エレディス ガリトムル城 大広間
「なぜ奴をほっておいたんだ」
「そんなことを言っても仕方ないだろ」
「奴は各国に”ネズミ”を飼っている」
「お前じゃないのか」
集まった貴族達の不安を含んだ怒号が広間を飛び交う。だが、突然広間にいる貴族達が静まり返った。王族直属護衛の代表であり、ホーダン家当主シカフ・ホーダンが入って来たからだ。白髪交じりの長髪、鼻下の整えられた髭、そして全てを見透かしているかのような目が、彼の持つ荘厳さを一層引き立てる。
「始めようか」
低く重い声でシカフが言う。先ほどまでの怒号を叫ぼうとするものは誰もいなかった。ホーダン家は伝統ある貴族ではあるが、長年続く種族間での争いでは、功績は無いに等しかった。しかし、シカフは瞬く間に功績を挙げていき、ホーダン家の当主になってからもそれは変わらず、ついにはホーダン家を王族直属護衛の4貴族にまでした。そのことが認められ、シカフは貴族代表に選ばれ、また誰もそれに逆らはなかった。
「では皆、席からたち敬礼を」
大広間にいる全員が席から立ち上がり、左手を胸の中央に置き頭を下げる。
「ロア王子のぉ」
扉の近くにいた使用人がそう口を開けた時、結構だといい使用人を黙らせ、凛々しい男が入って来た。
「皆顔をあげよ、本題に入ろう」
そう言われ皆顔をあげ、そう言った男の方を見る。彼はロア王子と呼ばれエレディスの次の王となる男である。年齢は三十であり、坊主頭の整った顔の男である。父の体調が悪化してからは代理で話し合いに出席している。
「さて、シカフよ、今回はどんな話かな」
シカフはそれを聞き
「今回は、わが国に入り込んでいるネズミについてです。前回の話し合い終了後、メルク家が重要な証人を捕まえたのことです」
そう言われメルク家の当主が立つ
「証人から情報を得ようとしましたが、残念ながらあまり得られず・・」
「もう良い、座れ」
王子が遮る
「我が国には抱えている問題が膨大にある。戦はもちろん、父の体調の急変、我が国が提言した同盟内での地位の失墜・・・。帝国が我々の失墜に関わっていることは間違いないであろうが、それを関連付けるネズミは見つからず」
王子がそう話していると突然誰かが広間に入って来た。シカフはそれが誰かすぐにわかった。そして少し呆れた顔をした。
「息子よ、ロア王子の前だ、失礼であろう」
ノーマンはそう言われ、自分の方を向く王子に対して、体を向け頭を下げる。そして、素早く広間の奥の方へ数歩進み、ある人物の前で足を止める。その人物とはリホボンス家当主セコルアド言う名の痩せ型の男であった。
「これはリホボンス家の紋章だな」
ノーマンはセコルアドの前に木製のリホボンス家の紋章も提示する。
「そうだが」
ノーマンはそう聞いた後、机の上におかれたセコルアドの手にいきなり短剣を刺した。
「あああああぁぁぁ!!!」
大広間にいる全員が驚き、セコルアドの悲鳴を聞く。
「お前がネズミだな、セコルアド」
セコルアドとは対照的に、ノーマンは落ち着いた調子で言う。
「し、知らない!なんで俺が!」
そう聞いたノーマンは、手をえぐるように短剣を揺らす。するとまた悲鳴が上がる。
「王の体調悪化は呪いが原因だ、しかもかなり高度な黒魔法だ」
ノーマンはそう言うと、セコルアドの顔を机に叩きつけた。
「違う、俺じゃ」
ノーマンはまた机に叩きつける。周りはただその光景を見つめているだけで、誰も止めようとしなかった。いや、誰もそのおぞましい光景の一部となろうとはしなかった。
「何が”違う”んだ」
セコアドルの顔が青ざめた。もうすぐ何度目かの打ち付けが来る瞬間
「わかったぁぁ、、話す」
打ち付けられ、額から血が滴った顔で言った。ノーマンは手から短剣を抜き、セコルアドの首元に向ける。
「正直に話せ」
「わ、わかってる」
皆が彼に注目する。
「待てノーマン、手当てをしてからだ」
ロア王子が言った。そのおかげで皆が同様から解放された。
ホーダン家領地 ララ・アルグノ・エルフ
「なぜ彼がネズミだとわかった?」
シカフが息子に問いかける。それを聞いた窓からの景色を見つめていたノーマンは、自室の机の上におかれた手紙を指差す。
ノーマンへ
傷が癒え始めたが、明日までには持たないだろう。自分でそう思う。この傷を直すのはそんな簡単ではない。死ぬまでに君に伝えたいおきたいことがある。実は今美しき故郷に闇の勢力が迫っている、できればこのことを伝え支援を願いたい。よろしく頼む。それともう一つ、実はこの任務の途中に帝国のものと確か君の国の貴族が一緒にいるのを見た。あっちはそれを見た僕らに気付きこちらを襲って来た、返り討ちにしたがあたりを調べると紋章の入った木板を見つけた、これを同封しておく。(文字が滲んでいる)
シカフは手紙を折りたんだ。
「しかし、あの行動にはあまり関心はできんな」
シカフは、大広間での行動をせめる。
「他の可能性があることは考慮しなかったのか、だれかがセコルアドを貶めようとしているなど」
「どうだったんだ」
ノーマンが突然発した。
「確かにネズミではあった、彼は全てはいた。帝国側から渡された酒をアノログド様に献上していたと、何度も何度も」
ノーマンは黙り込んで景色を眺めている。
「あの行動は、罪悪感からくるものか、手紙の”支援”ということに対しての」
シカフは問いかける。ノーマンは握りこぶしを作り、顔に出さないようにこらえる。
「南方のほとんどはエディンに加わっていない、無論、彼の国も」
シカフは淡々と述べる。レッサムの国は南方にあり、闇の軍勢の影響を一番受けやすく、また多くの国がエディンに参加しなかった。もちろん同盟に加わらなければ、支援などは受けられない。結局、レッサムの国は滅びる運命にあったのだ。レッサムもそのことをもちろん知っていたし、それを踏まえて任務に参加し周辺諸国や西方の国々へ向かった。そして途中に闇の軍勢に遭遇し、傷を追いながら母国とは全く違う方向に流れ着いた。
「国を出る」
ノーマンは窓の方を見ながら父に告げる。
「なぜ、彼の国はもう助からない」
シカフはそう伝えるが、ノーマンは突然振り向き父の横を通り過ぎ立ち去る。シカフは何か言おうとするが何も立ち去っていく息子を見送る。
部屋を出るとノーマンは、すまないレッサム、仇は取る。とそう心の中でノーマンは誓った。