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第9話 活動は真面目に

「今日はちゃんと真面目に、文芸部らしい活動しよう」


 部室のドアを開けるや否や、部長が開口一番そう言った。


「はぁ……?」


 よく分からないでいる僕の代わりに、里井が部長に理由を訊ねる。


「何でまた急に?」

「いや、なに。今日、沙条先生にたまには真面目に活動しろと怒られたからな」


 部長が苦い顔になったってことは、結構きつめに言われたのかもしれない。


「まぁそういうことなら……」


 僕たちが納得して満足げに頷いた部長は、自分の席に座ると、手を組んで口元を隠した(いわゆるゲ○ド○ポーズ)後、徐につぶやいた。


「今日の活動は三題噺だ」


 三題噺。

 出題された三つのお題を使って物語を書くことであり、お題次第で難易度ががらりと変化する。

 ちなみに名前がガチ○ピンに似たとある作者は、毎度お題を募集しては、鬼畜なお題に四苦八苦しながら書いている。


 閑話休題。


 三題噺と聞いて、きょとんと首を傾げる里井に、ルールを軽く説明した後、部長は無駄に重々しく口を開いた。


「今回のお題は……」

「ちょっと待ってください、部長」

「何だ?」


 途中でセリフを遮られた部長が、不機嫌そうに顔をしかめるのを無視して、僕は提案した。


「部長がお題を出すんですか?」

「それがどうかしたか?」

「や、僕や里井もそう言うことをやってみたいなって……」

「私は部長だぞ?」

「そんな横暴な上司みたいにいわんでください。それに、少なくとも一人一個ずつお題を出し合った方が、公平じゃないですか?」

「む……、それはそうかもしれないが……」


 何故か渋る部長を見て、僕は直感する。

 これはろくでもないお題を用意していたんだろう……。

 僕はちらりと里井に目配せをすると、目が合った里井が頷いた。

 

 瞬間、心重ねて。

 シンクロ率四百%のコンビネーションで、里井が畳み掛ける。


「そうですよ、部長。皆で出し合った方が、面白味のあるお題になると思いませんか? そうだ! いっそのこと、いくつか候補を皆で書いて、くじ引きで決めるというのはどうでしょう?」

「むぅ……、くじ引き……か……」


 どうやら部長は迷っているみたいだと悟った僕と里井は、更にダメ押しをする。


「ほ、ほら、どんな無理難題も華麗に捌く部長の腕を見てみたいです!」

「それに、こういうのがいい経験になるのでは?」


 部長に鬼畜なお題を出させまいと必死になる僕と里井の根気に負けたのか、部長がため息とともに首肯した。


「仕方ないな。君達がそこまで言うのであれば、そうしよう」


 そうして、適当に切った紙をぼくと里井に配った部長は、さらさらといくつか書いてから紙をたたみ、手近にあった空箱へと入れた。


 僕と里井も、部長に習うようにいくつかのお題を書いて、箱へと投入する。

 部長はそれを軽くかき混ぜてから、ゆっくりと一枚目を引いた。


「まず最初のお題は……、「第一宇宙速度」だ」


 お題を聞いた瞬間、僕は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。


「な、何ですか!? 第一宇宙速度!?」


 そんな単語はふつう訊いたことがない。

 何となく予感がした僕が、ちらりと里井を見ると、何故か奴はしたり顔だった。


「第一宇宙速度とは、約秒速七・四キロメートルの速度のことを言う」


 部長が解説をするが、そんなことはどうでもいい。

 こんなものでどうやって小説を書けというのか。

 僕がやり直しを要求しようと自分の席を立った瞬間、部長は僕を手で制止する。


「文隆君、不満かもしれないが、これは公平なくじの結果だ。やり直しは認めない」

「ぐっ」


 機先を制され、僕が仕方なく席に戻ると、部長が二枚目のくじを引いた。


「二つ目は……「ビーム兵器」か」


 これは僕のお題だ。おふざけで入れたものだけど、よくよく考えると、先ほどの「第一宇宙速度」とマッチしているように思える。

 これは悪くないお題かもしれない。


 僕が何となく方向性を定めている間に、部長は躊躇なく三枚目を引いた。


「最後のお題は……「ロリコン」……?」

「おいぃぃぃぃぃっ!!」


 最後のお題を聞いた瞬間、僕は思わず席を立って叫んでいた。


「ロリコンってなんですか!?」

「何だ? ロリコンを知らないのか? ロリコンとはロリータ・コンプレックスの略で、主に幼い少女に興奮を覚える男性のことを指す」

「そうじゃないですよ! ロリコンの意味は分かってますよ!」

「じゃあ、何だというのだ? まさか君がロリコンで、それがばれたと思ったのか? それなら安心したまえ。私は口が堅いし、彼もそうだろう」

「僕も秘密は守りますよ」

「そうじゃねぇよ! 誰がロリコンですか!」

「そうか、そういえば君は違ったな。君はこっちだったな」


 そう言って部長が、右手の甲を左頬に当てる。


「だから、それも違いますよ! この間否定したじゃないですか!」

「西村君はホモだったのか!?」


 かっと目を見開きながら僕を見た里井が、何故かお尻を両手で押さえる。


「お前も勘違いしてるんじゃねぇよ! 違うって言ってるだろ!?」

「そうだ、直重君。安心したまえ」

「部長……」


 部長の援護射撃に、思わず感動してしまう僕。

 だけど、僕は忘れていた。

 部長はどうあがいても部長だった。


「彼の相手は別にいる。君は対象に入ってないから安心したまえ」

「部長!?」


 まさかの誤射だった。

 援護射撃に安心して背中を見せた途端に、背後からずどんと撃たれた、そんな気分だ。


「彼の相手は、生徒会副会長だ」

「そうなんですか……」

「違いますよ!? 里井も納得しないでくれませんか!?」

「違う? まさか、直重君が狙いなのか!?」

「だから違いますよ!? というか、いい加減、ホモ疑惑から離れてください! 僕はノンケだ~~~~~~っ!」


 叫んで、ぜぇぜぇと息をする僕に、部長が微笑んで肩を叩いた。


「文隆君、自分の性癖を全力で叫ぶのはどうかと、私は思うぞ?」

「誰のせいだ~~~~~~っ!!」


 まさかの追い打ちだった!

 さすがに疲れた僕が机に突っ伏すと、僕を無視して部長が話を元に戻した。


「ともかく、お題は「第一宇宙速度」、「ビーム兵器」、「ロリコン」の三つだ」

「うぅ……」


 誰も慰めてくれないので、泣く泣く僕も作業に入る。

 割り当てられた専用のノートパソコンを開いて、かちゃかちゃとキーを叩きながら、僕はふと部長に訊いてみる。


「そういえば部長……、こういう三題噺を書くにあたって、コツとかあるんですか?」

「コツか……。そうだな、しいて言えば……、知識と婚期(・・)と閃きだな」

「知識と閃きは分かりますけど、根気……ですか?」

「そうだ。婚期だ」

「根気……ねぇ………………?」

「婚期は大切だぞ? しっかりと自分を見据えて、きちんと設計しないといけないからな」

「設計……ですか?」

「そうだ。具体的には、将来的なこととか、いろいろだな」

「…………?」


 何だか部長と僕で、微妙に会話がかみ合っていない気がする。


「あの……、部長?」

「何だ?」

「あの……、部長は一体何の話をしてるんですか?」

「何のって……、婚期の話だろう?」

「根気のはなしですよね?」

「そうだ。婚期だ」

「…………? あの……、部長? そのこんきって紙に書いてみてくれますか?」

「ふむ……、「婚期」っと」


 部長が書いた字を見て、僕は納得した。


「ああ、部長はこっちの根気の話を……って、明らかに小説に関係ないですよねぇ!?」

「そんなことないぞ? 小説家は出会いが少ないからな……。婚期を……」

「嘘だ!」

「それはちょっと古いんじゃないか?」

「ですよねぇ。……じゃなくて! 何で三題噺のコツを聞いてるのに、結婚の話が出てくるんですか!?」

「なんとなく?」

「ちょっ! えぇっ!?」

「気分?」

「気分って……」

「じゃあ、ワザとでいいよ。もう……」

「何で開き直った!? ……もういいです」


 僕が諦めて、執筆に戻ろうとした時だった。


 ――き~んこ~んか~んこ~ん


 部活を終わって早く帰れという意味のチャイムが、学校中に響き渡った。


「あっ……」


 結局執筆できなくて肩を落とす僕の横を、里井が悠々と歩いて部長に報告する。


「部長、できました」


 僕と部長が漫才をやってる横で、こいつは自分のことをしていたとは!


「裏切ったな!? 父さんと同じで僕を裏切ったな!?」


 絶望に浸りながら、ついついそう口走ってしまった僕は悪くないと思う。


「いいから、今日は終わりだ。早く帰るぞ」


 僕のボケを流して、部長と里井は既に片づけを追えて、ドアのところに立っていた。


「ボケが流された……」


 がっくりと肩を落としながらも、急いで片づけを済ませた僕は、部長たちと並んで校舎を出た。

~~おまけ~~


文隆「ところで部長……」

部長「どうかしたのか?」

文隆「最近、気付いたんですけど僕ら、エ○ァネタ多くありませんか?」

部長「ああ、それは作者がちょうど世代で大ファンらしいからな……」

文隆「ぐぬぬ……作者の陰謀か!?」

部長「そういうことだ。諦めるんだな……」

文隆「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ」

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