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第8話 進撃できない巨人

「……! ……お………!」


 ……?

 誰かが呼んでる?

 周りが騒がしい?


「お……か! ……か……ん!」


 体が熱い……、頭が働かない……、眠たい……。


「目を開けないか! 文隆君!」


 部長の声が一際大きく聞こえて、僕ははっと目を覚ます。

 そして、飛び込んできた光景に驚いた。

 目の前には古めかしい街並みが、まるでミニチュアのように広がっており、屋根や鐘楼にたくさんの小さな人間たちがうごめいていた。


 それだけでなく、何故か僕は街を練り歩いていた。

 ふと、隣を見ると、僕と同じくらいの大きさの人間が歩いており、僕に向かってしきりに吠えていた。

 ただの咆哮のはずなのに、何故か僕にはその言葉が理解できた。


「うおぉぉぉぉぉおっ! (目が覚めたか、文隆君!)」

「あおぉぉぉぉおおっ! (部長!)」


 見れば、顔立ちが部長そっくりであり、身に着けている服も、普段の制服だった。

 僕と部長の咆哮による会話は続く。


「ぐおぉぉおおおおっ! (一体どうなっているんだ?)」

「おおぁぁぁぁぁぁぁぁっ! (僕に訊かれても分かりませんよ!)」


 と、そこへさらに別の二人が僕らの下へやってきた。


「ぶおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! (部長! 西村君!)」

「おぉぉおおおおおんっ! (お前たちもいたか!)」


 里井と文芸部顧問、沙条先生だった。

 四人は集まると、咆哮で会話を始める。


「あおぉぉぉぉおおん! (先生と直重君まで……)」

「ぐるぁぁぁぁぁぁっぁああっ! (状況はよく分からないが、ここへ来る途中、小人みたいな連中に、私達と同じような格好をしたものが首筋を切られて倒れるのを見た)」

「うぁぁぁぁぁあああああっ! (それじゃあ、僕たちも首筋を切られると死んでしまう可能性が?)」

「がぁぁぁぁああああっ! (部長! あれを見てください!)」


 僕が指さした方向に全員が注目すると、そこには生徒会メンバーがいた。


 どうやら彼らも僕らと同じような状況に……、いや、向こうはもっとひどかった。

 美月生徒会長を始め、副会長の黒野さん、書記の向井さんの三人の周りには、何人もの小人が群がり、腰のあたりからワイヤーを飛ばして、自在に空中を移動しながら、手にした武器で、三人を斬りつけているのだ。


 斬られた箇所から煙を吹き出しながら、懸命にもがく生徒会メンバーたち。

 やがて、彼らの後ろに回り込んだ小人たちが、首筋を切り裂いた途端、生徒会メンバー全員が、どうっと倒れて動かなくなってしまった。


「うがぁ? (あれは?)」


 僕らが見ている前で倒れた生徒会メンバーは、全身から水蒸気を激しく噴き出し、見る見るうちに骨だけになってしまった。


「がっ!? (なっ!?)」


 驚愕の声を上げる僕らに気付いたのか、今しがた生徒会長たちを攻撃していた小人たちが、建物にワイヤーを突き刺して、すごい勢いで僕らの方へ向かってきた。


「ぐがぁっ! (来るぞ!)」


 部長の叫び(?)を聞いて、僕らは奴らから背を向けて逃げ出そうとする。

 上手く走ることができず、もどかしい思いをしながら必死に逃げていると……。


「ぐぎゃあっ!?」


 すぐ後ろから里井の叫び声が聞こえて来たので、振り返ってみると、里井が小人の集団に襲われていた。


「うがぁぁああっ! (里井!)」

「おおおぉぉぉっ! (直重君!)」

「あぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおんっ! (五十嵐! 西村! 振り返るな! あいつはもうだめだ! 我々だけでも先に逃げるぞ!)」


 先生の言葉に思わず驚いた部長が、先生に抗議する。


「おおおぉぉぉぉぁぁぁぁああっ! (あいつを見捨てるなんて……! 助けないと!)」

「うおぉぉぉぉぉぉおおおっ! (文隆君の言う通りです!)」

「うるぁああああああっ! (駄目だ! あいつの犠牲を無駄にするな!)」


 そう言って先生が走るスピードを上げる。


 僕と部長が里井を振り返ると、彼は既にたくさんの小人にたかられており、あちこちを切り刻まれていた。それでも、僕たちに手を伸ばして、必死に叫ぶ。


「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおっ! (俺に構わず早く逃げろ!)」

「あああぁぁぁぁぁぁああああっ! (里井~~~~~~~~~っ!)」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ! (直重く~~~~~~~~~ん!)」


 僕と部長の叫びを聞いて満足そうに微笑んだ里井は、そのまま首筋を切られ、命を落とした。


「おおおおぁぁぁぁぁああああっ! (部長! 行きましょう!)」

「うぉぉぉぉおおおおっ! (分かってる!)」


 骨となった里井から目を放して、僕と部長は、先行する先生を追いかけた。

 しかし。


「ああぁぁぁあああああっ!」


 今度は前方から、先生の悲鳴が聞こえてきた。


「「うぅぅああああっ!! (先生!!)」」


 僕と部長が駆け寄ろうとするよりも早く、先生が叫ぶ。


「うぉおっ! (来るな!)」

「「うぅぅああああっ!? (先生!?)」」

「ああああぁぁぁぁぁああああううううっ! (こいつらはやばい! 私がひきつけている間にお前たちは逃げろ!)」


 熱血少年漫画のようなことを叫びながら、先生は群がる小人に突貫していった。


「おおおぁぁぁあぁああああううううう!! (私をナメるなぁ~~~~~っ!!)」

「「ああああぁぁぁ~~~~~っ!! (先生~~~~~~~っ!!)」」


 直後、先生が突貫していった方から盛大に水蒸気が上がり、小人たちの歓声が聞こえてきた。


 先生まで……。

 こうなったら……。

 僕は覚悟を決めて部長を振り返る。


「……おおぅぅぅぅぅぅううううああああああ。(……部長、先に逃げてください。)」

「おおおぉぉぉぉぉおおおおっ……ああぁぁああっ! (バカなことを言うな! 君も一緒に……! 危ない!)」


 突如部長が僕を突き飛ばし、部長の腕が斬り飛ばされる。

 世界がスローモーションになり、部長が僕にゆっくりとほほ笑むのが分かった。


「ううぅぅうう。(逃げろ)」


 静かに部長が言った直後、部長は小人に首筋を切り裂かれ、水蒸気を派手にまき散らし、骨になってしまった。


「おおおぉぉおおぉおおおおんっ!! (部長~~~~~~~~~っ!!)」


 部長までもが倒れ、最後の人になってしまった僕が、部長を襲撃した小人を見据え、直後に息を飲む。


「っ!?」


 何と、部長を殺したのは、僕の小学校からの友達兼クラスメイトの粟飯原六花だった。


「うぅぅぅおおおぉぉおあああ! (六花……どうして!)」

「巨人……私が駆逐してやる!!」


 僕の言葉が分からないのだろう、六花は憎悪に満ちた目で僕を睨み付けていた。

 しかも、それだけではなかった。


「六花!」

「一人で先走るな!」


 六花の後を追うように姿を現したのは、僕の中学からの友達兼クラスメイトの九条楓と季高空だった。


 六花はゆっくりと手に持った刃物を僕に突きつける。


「こいつが最後だ。覚悟しろ、巨人。私の友達を奪った贖いをさせてやるっ!!」


 そして、六花、楓、空の三人は腰からワイヤーを射出すると、一瞬で僕の背後に回り込んだ。

 次の瞬間、僕は首に凄まじい痛みを感じて、意識を手放した。




◆◇◆




 ――ちゅんちゅん


 スズメの軽やかな鳴き声を聞きながら、僕はさっきまで見ていた夢を思い出す。

 巨人となった生徒会の人たちや文芸部の皆が、六花や空、楓に殺される夢。

 汗でべとべとする寝間着に不快感を感じながら部屋の中を見回した僕は、夢の原因となったものを見つけた。


 今、アニメも放映されて人気絶頂の「○撃の○人」。

 読みかけのそれが、僕の枕元に落ちていた。


 僕は苦笑すると、本を片づけてから、学校に行く準備をして家を出た。

 しばらく歩くと、僕が所属する文芸部の部長が前を歩いているのを見つけ、僕は声を掛けながら隣に並ぶ。


「おはようございます。部長……」

「ああ、おはよう」


 部長は挨拶を返しながら、何故かしきりに首の後ろを摩っていた。


「……? 首、どうかしたんですか?」


 僕がそう訊くと、部長は煮え切らない顔をしながらも答えてくれた。


「ああ、いや……。昨日、文芸部の皆と生徒会メンバーが巨人になって倒される夢を見てな……。朝起きてからずっと、首の後ろの辺りが、少し痛い気がしてるんだ……」

「へぇ~。偶然ですね。僕も同じ夢を見ましたよ……」


 そう言いながら、僕も同じように首を摩っていると、部長が突然、僕の首のあたりをじっと見始めた。


「文隆君……、その痣……………いや、なんでもない……」

「……?」


 部長は何かを言いかけたみたいだけど、迷いを払うように首を振って、言葉を飲み込んだ。

 その時、部長の首筋、ちょうど夢で切り付けられていた辺りに、奇妙な痣が見えた気がしたけど……、気のせいだよね?


 中間試験が終わって少ししたある日の、少し不思議な体験だった。

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