第6話 封印された過去
「君たちの書いたものを読んでいていつも思うんだが……」
部長から出された宿題を部長に提出して、講評待ちだった僕と里井に、突然、部長が重々しく言ってきた。
「……? 何ですか? 部長……」
僕が聞くと、部長は突然、がたりといすから立ち上がり、バッタを模した仮面をつけたライダーの変身ポーズを真似た。
「…………?」
部長の意味不明な行動を訝しげに見ていると、部長はおもむろに口を開いた。
「中二病だ!!」
「……………?」
いきなり中二病といわれ、困惑した僕が里井に視線を向けると、どうやら里井も困惑しているようで、僕に軽く肩をすくめて見せた。
「一体、中二病がどうしたんですか?」
僕がそう聞くと、部長はいすに座りなおして、机にひじを着き、手を口の前で組んだ(いわゆるゲン○ウポーズ)。
「君たちの書いたものには、もっと……、こう、中二病成分が足りないのだ」
「……はぁ?」
「中二病だよ、中二病。君たちも経験あるだろう?」
僕と里井はお互いに顔を見合わせ、同時に首を横に振った。
「いえ……、まったく経験ありませんが?」
「すいません部長……、僕も経験ないです……」
「嘘だ!!」
なんだか鉈を武器にする、某ヤンデレ少女のような勢いで否定された。
「いやぁ……嘘だといわれても……」
「実際に経験ないですし……」
「そんな……ばか……な……」
部長ががっくりと膝を着いた。
「中二病といえば、中学生になれば誰でも罹る病気のはずだ……。だというのに……」
「部長……」
「絶望した!! 中学生で中二病を経験しない現実に絶望した!!」
「いや、全員が中二病になるとは限らないじゃないですか……」
「冷たいツッコミしかできない後輩に絶望した!!」
「いやいやいや! 普通の意見じゃないですか!」
「普通の意見を普通にしか言えない普通の後輩に普通に絶望した!!」
「そんなに普通って連呼しないでください! ゲシュタルト崩壊を起こしますから!」
「貴様など、崩壊してしまえばいい! 行くぞ里井君!」
「了解です部長!」
「「普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通晋通普通普通普通普通普通普通普通」」
「ぎゃ~~~~っ! やめてください!!」
息ぴったりに「普通」と連呼する部長と里井を強引に黙らせる。危うく「普通」という言葉の意味と漢字がわからなくなってしまうことだった。
だ、大丈夫だよな? 普通に普通って普通分かるよな?
…………ん?
…………あれ?
余計混乱してしまった!
僕が一人で混乱しているのを無視して、部長は話を元に戻した。
「とにかくだ。小説を書く上で、中二病というのは欠かせない成分だ。昔の偉い人は言った。「中二病を制するものは、作家界を制する!」とな」
「言ってませんよ!?」
「部長、違いますよ……。「ただの人間には興味あ……」
「ダウト!! その台詞は使ってはいけません!」
「む? こうだったか? 「いいだろう、お前が中二病じゃないというのなら、俺が、そげぶ!!」」
「略した!? 一番肝心なところで略した!?」
「「中二病でも○がしたい」?」
「もはやラノベのタイトル!?」
「「俺の部員がこんなに中二病なわけがない」!」
「それも違います!」
「中二部!」
「なにその部活!?」
「ポケ○トモ○ス○ーアド○ンス中二病」
「いやなポケ○ンのタイトル!」
「フェ○ト中二病」
「なにその運命!? サーヴ○ントが中二病!?」
「中二魔法少女リリ○ル」
「いやな魔法少女きた~~~~~!!」
いい加減疲れて、僕が机に突っ伏すと、やっと部長と里井のボケも止まった。
「さて、何の話だったかな……。ああ、そうだ。君たちの話には中二病が足りないということだったな……」
ぐったりする僕を無視して、部長が話を進める。
「まぁ、そんなわけで、今日一日、部活が終わるまで、文芸部員全員、中二病的な発言以外の一切を禁止する!」
「「えぇっ!?」」
「マ○オさんみたいに驚いてもダメだ。これは部長命令だからな。それでは、今から開始だ!」
部長が宣言し、奇妙な沈黙が部室を満たす。
このとき、僕は心に決めていた。
この部活が終わるまで、一切しゃべるのをやめようと。
ちらりと里井のほうに視線を向けると、どうやら里井も同じ考えらしく、僕に向けて一瞬だけにやりと笑みを浮かべた。
――カチッ……、カチッ…………、カチッ………………
秒針が刻まれる音だけが無駄に部屋に響く。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「ちょっと君たち。待たないか?」
沈黙に耐えかねた部長が口を開き、僕と里井がそろって部長を指差す。
「「でっで~ん。部長、アウト~」」
「なにぃ!?」
後輩二人からアウト宣言され、部長が驚愕する。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ! 今のは……」
「そういえば、部長。アウトになったときの罰ゲームを決めてませんでしたね」
「なん……だと……?」
部長の抗議をさえぎって、僕と里井は罰ゲームの内容を相談し始める。
「やっぱり、「絶対に笑ってはいけない」みたいな罰ゲームにする?」
「それはさすがにやりすぎだろう!?」
部長が慌てて止める。
「もう、部長が言い出したことなのに、罰ゲームを決めてない部長が悪いんですからね!」
「私が悪いのか!? そもそも私はアウトにはなっ……」
「それで、里井、お前は何がいいと思う?」
「文隆君!?」
「そうだね……。ここはオーソドックスに、一発ギャグを披露してもらうとか?」
「直重君まで!?」
「あ~、でも、今度僕たちがアウトになったときのことを考えると……」
「無視!? 無視ですか!?」
「それならいっそデコピンとかにでもしておくかい?」
「あのぅ……。君たち……?」
「デコピンはまたなぁ……。芸がないんじゃないか?」
「お願いだから無視しないでくれませんかねぇ!?」
部長が泣きながら強引に僕と里井に割り込んできた。
「無視しないで!? 無視が一番辛いんだから!」
部長が涙目になっていて、さすがにやりすぎたと反省した僕達は、素直に謝った。
「「すいません……」」
「……いじめる?」
涙目で訴えてくる部長。
「いじめませんって……」
「文隆君……いじめっ子?」
「だから違いますって……」
「……うぐぅ……」
「ああ、もう、すねないでくださいよ部長……。里井も……見てないで手伝……え……?」
助けを求めようと里井を見ると、やつはニヤニヤ笑っていた。
「……………?」
訝しげに思っていると、今度は部長がため息をつきながら立ち上がった。
「文隆君がネタについてきてくれない件について……」
「ネタだった!?」
「当然だろう? でなければ、私が「いじめる?」とか、そんないじらしいことをいうものか」
「や、胸を張っていわなくても……」
僕ががっくりと肩を落としたところで、ちょうど下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「む? もうこんな時間か……。今日はもう帰るか……」
部長の号令に従って、僕達は片づけを済ませると、部室を出た。
「今日は結局、中二病の練習ができなかったからな。明日、また続きをするぞ」
「「えぇっ!?」」
「マ○オさんはもういいから……」
部長が疲れたようにツッコミをした。
~~おまけ~~
部長「む? そういえば今回は珍しく私がツッコミの回だったな……」
文隆「ああ……そういえばそうですね……。いつもは部長と里井がボケて僕がツッコミですから……」
部長「ふむ……。だがこうやってたまにはツッコミ側に回るのも悪くないな……。普段では分からないことに気付いたよ……」
文隆「へぇ……? 一体どんなことですか?」
部長「それはな……。「ツッコミも案外楽しい!」だ!」
文隆「……よし。それなら今後は部長に全部ツッコんでもらいますね♪」
部長「ごめんなさい私が悪かったから許してくださいお願いします」
文隆「変わり身早っ!?」
 




