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第4話 恐怖の体験入部

「うだ~~~~~」


 授業が終わってやっと昼休みになった途端、僕は机の上に身を投げ出し、某ゆるキャラのごとくダレた。


「おうおう、だらしないな。まったく……」

 そう言いながら振り返ったのは友人Cこと、季高空(すえたかそら)

 中学からの知り合いで、真面目そうな外見に違わず成績は優秀だけど、真面目すぎないというか、ノるべきところが分かっているというか、とにかく空気を読むことが得意な友人だ。

 空はメガネをくいっと上げながら机を反転させ、僕の机にくっつける。


「ほら、さっさと昼飯を食おうぜ」

「おう……」


 空に促されて僕も弁当を取り出したところで、


「お待たせ~」


 友人Bこと、粟飯原六花(あいはらろっか)と、


「待たせたな……」


 友人Aこと、九条楓(くじょうかえで)が僕らのところへ、椅子持参でやってきた。

 六花の方は、小学校からの知り合いで、そのころからあまり身長が変わっていない、クラスのマスコット兼僕の唯一の癒し成分だ。


 楓は、空を通して知り合った女子で、六花と反対に背が高く、男っぽいしゃべり方をしている。そのためか、陰で女子に「お姉様」などと呼ばれているらしい。


 僕ら四人はほぼ毎回、こうして机を囲んで一緒にお昼を食べている。どこからか「リア充爆発しろ」なんて声が聞こえてきた気がするが、気にしないことにする。恋愛感情はないのだし、勘弁してほしい。


 それはともかく、とりあえずダレながら六花の頭を撫でる僕。


「ふにゃ~」


 まるで猫のような声を出しながら、気持ちよさそうに目を閉じる六花を見ていると本当に癒されるのだから不思議だ。


 僕がそのまま六花に癒されていると、突然後ろから声が掛けられた。


「君は一体何をやってるんだい……?」


 どこか呆れるような声音に対して、僕は振り返らずに答える。


「見て分からないのか? 六花に癒されてるんだよ……」

「癒されてるって……まあいいや。僕もお邪魔するよ?」


 そう言ってそいつは、こっちの返事も待たずに近くから椅子を引き寄せると、何故か僕の隣に座る。


「里井……。なぜお前は僕の隣に座るんだ?」


 癒しタイムを満喫していた僕がジト目で里井を睨み付けると、里井はにやりと笑う。


「そんなの決まってるだろう? 君を愛しているからさ!」


 その瞬間、教室中のありとあらゆる音が消えたけど、その後の事態が予想できた僕は、先手を打つことにした。


「本気で言ってるのか? だとしたらお前の品性と嗜好と脳の中を疑うし、お前と友達を止めることになるぞ?」

「まさか」


 里井は肩をすくめた後、


「ほら、早く食べないと時間が無くなるよ?」

「分かってるよ……」


 僕はため息をつくと六花を撫でるのをやめ、自分の弁当を広げた。

 教室にいた連中は少しだけ呆然とした後、すぐに気を取り直すようにそれぞれ自分のことに戻っていった。


 そうして食事をし始めて少ししたころ、頬をリスのように膨らませていた六花が、ごっくんと喉を鳴らして呑み込んだ後、ふと訊いてきた。


「そういえば、文君も里井君も文芸部に入ったんだよね? どう?」

「どうって言われても……」

「ちょっと返答に困るな……」


 僕と里井がお互いに顔を見合わせて唸っていると、今度は楓から質問が飛んできた。


「文芸部ってそもそも何をするところなんだ?」

「他の文芸部がどうかは知らないけど……、ウチは……」


 里井がちらりと僕を見たので、代わりに僕が説明する。


「ウチは普段は、コーヒーを飲みながら部室にある小説を読んだり、時々部長の出す宿題を書いたり、後は……、ああ、部長や里井(こいつ)のボケに僕がツッコんだりしてるかな……。こいつが入部してきたことで、僕の負担が増えて大変だよ……」

「案外普通のことをやってるんだな……。最後の以外は……」


 ぼそりという空に、僕が苦笑していると六花が目をキラキラと輝かせていた。


「何その面白そうな部活。私もやってみたい!」


 犬がぱたぱたと尻尾を振るさまを幻視しながら、僕は軽く六花の頭を撫でる。


「お前には無理だからやめておきなさい」

「えぇ~~~~~!? 空君も楓ちゃんもやってみたいよね?」


 話を振られた空と楓は、一瞬だけ顔を見合わせた後、首を横に振った。


「すまないな、六花。私は陸上部の方で手一杯だ」

「俺も……自分の部活で手一杯だ」


 ふっ、六花よ……。味方を付けようとしても無駄だ。

 そいつらは、新入部員のくせにエースを張るような連中だぞ? 他の部活に体験入部できるほどの余裕があるわけがないだろう?


 僕が内心で勝ち誇っていると、六花は可愛らしく頬を膨らませた後、拗ねたように弁当を掻きこんだ。


「(これで諦めてくれればいいんだけど……)」


という僕の想いは儚く散った。


 放課後。

 すべての授業を終えて、里井と一緒に部活へ行く最中、僕の後ろから小さな人影が付いてきていた。


 ――てくてくてくてく(てくてくてくてく)


 僕らが歩くと、小さな人影も同じ歩幅、同じスピードで歩き、


 ――ぴたっ(ぴたっ)


 僕らが止まると、小さな人影も止まる。


 丁寧なことに、僕らと歩調を合わせているらしい。そういえば、昔、そういう遊びが流行った気がする……ってそうじゃなくて……。


「悪い、里井。先に行っててくれ……」


 僕が追跡者に聞こえないように小さく呟くと、里井は頷いて先に行った。

 それを見送った後、僕は唐突に素早く振り返る。


「っ!?」


 小さな人影は、息を飲んで慌てて柱の陰に隠れる……と言っても、遅すぎるし、全然隠れきれてないんですけどね!


「おーい。丸見えだぞ? それで隠れてるのか?」


 僕が指摘すると、小さな人影はおずおずと柱の陰から出てくる。


「何で着いてくるんだ? 六花?」

「だって……。文君の文芸部に行って見たかったんだもん……」


 六花は上目遣いになりながら目を潤ませる。

 やばい! ちょっとかわいいじゃないですか、何この生き物。


 六花のしぐさに、内心で癒された僕は、わざとらしくため息を吐いて、六花の頭をポンポン叩いた。


「はぁ……。もうわかったから。そんなに文芸部に来たいなら、そうしなさい。ただし、こそこそついてくるんじゃありません」


 何故か小さい子を諭すような口調になってしまったが、六花が顔を輝かせて頷いたので良しとしよう。


 そうして僕は幼稚園の引率の先生の気分になりながら、部室へ向かう道すがら、六花に注意点を告げていく。


「いいか、六花。基本、文芸部はのんびりしてるけど、部長も里井も容赦なくボケてくるからな。それにツッコむのが、部の唯一の良識たる僕の仕事だ」

「文芸部なのに!?」

「最近の文芸部を甘く見てはいけない。例え文科系代表と言える文芸部であったとしても、実際はサバイバルなのだ!」

「文君のボケはもういいよ……」


 僕が拳を握って力説していると、六花は呆れたような声でがっくりと肩を落とした。


「いや、まだまだこれは序の口だ。これから、文芸部の歴史・序が始まって、その後に破、そしてQと続いて、最後にシン!」

「いや……、エ○ァの新劇場版じゃないんだから……。そんなことよりほら! 文芸部についたよ!」


 僕の渾身のボケを、「そんなこと」扱いして強引にぶった切るとは……。成長したな六花。

 何故か僕が感慨にふけっている間に、六花はさっさと文芸部室の扉を開けて、元気にあいさつした。


「こんにちは~。おじゃましま~す」


 てくてくと入っていく六花に対して、既に来ていた部長が反応する。


「む? 君は誰だ?」

「私は、粟飯原六花って言います。文君や里井君のクラスメイトで、今日は文芸部の体験入部に来ました」

「りっか……? まさか邪王真眼の……!?」

「爆ぜろリ○ル……、弾けろシ○プス……バニッシ○メント…………、って違います! りっかじゃなくてろっかです!」

「そうか、すまないな。古代遺失物管理部の方でしたか……」

「うん、私、そんな組織じゃないですよ!? 白い悪魔とか、金色の死神とか言われてないですよ!?」

「金色……? ならば! バ○ウ・ザ○ルガァ!!」

「出ないですよ!? 口から電撃は出さないですよ!?」

「むぅ……、じゃあ何だというのだ、君は……?」

「私は人間ですよ!!」

「指を噛んだら巨人になったりとかは……?」

「しません!」

「実は、ペットが人間に変身したり……」

「してません!」

「じゃあ、実は人工知能がコンピューターから抜け出たり……」

「しません!」


 早速洗礼を受けていた。

 六花が肩でぜぇぜぇ息をしながら、潤んだ瞳でこちらを見てくるので、仕方なく口をはさむ。


「部長? ボケはいい加減やめませんか?」

「ふむ。そうだな。いい加減彼女も疲れたろうしな……。粟飯原さんだったかな? ようこそ文芸部へ。君を歓迎しよう。とりあえず、ここに掛けたまえ」


 そう言って部長が自分の膝をポンポン叩いた。


「…………?」


 六花が訳が分からないといった様子で僕を見てくる。

 そんな目で見られても、僕も分かりませんから。

 僕が首を振ると、六花が恐る恐る訊ねる。


「あの……、部長さん?」

「何かな?」

「何で、ご自分の膝を叩かれてるんです? かゆいんですか?」

「分からないか?」

「…………?」


 六花がどうしようと見つめてくるので、僕は六花の肩を優しく叩いて、無言で首を振ってあげた。


 裏切られたような顔になった六花は、しびれを切らした部長に連れ去られ、そのまま膝の上に乗せられると、背後から思いっきり抱き付かれてしまった。


「にゃっ!?」


 まるで猫みたいな悲鳴を上げる六花を無視して、部長は一通り抱き心地を満喫した後目を輝かせながら、僕に言ってきた。


「この子を、我が部のマスコットにしよう!」

「えぇっ!?」


 六花が助けを求める視線を僕によこす。


 その視線に耐えきれず、目を逸らしがてら、もう一人の同級生をちらりと見ると、奴はわれ関せずとばかりに、優雅に小説を読んでいた。


 とりあえず里井を後で殴ることに決めて、僕は助け船を出した。


「部長……。それは流石にダメですよ。こう見えてもこいつ、中々忙しいんですから……」

「むぅ……そうか。それなら仕方ないな……」


 部長がいかにも渋々といった様子で六花を話すと、六花はそのまま脱兎のごとく部室から去っていった。


 なお、部長が少し寂しそうに六花を見送ったことを追記しておく。

 今度、また六花を連れてくるかな……。




◆◇◆




 翌日。学校に登校して僕を見つけた六花は、開口一番こう言った。


「文君……文芸部、コワイ……」


 どうやら六花にトラウマが刻まれたらしい。


~~おまけ~~


文隆「ところで部長」

部長「む? なんだね、文隆君?」

文隆「よく六花の名前の漢字分かりましたね?」

部長「ふ……、愚問だな。私くらいになると可愛いこの名前の漢字くらい、見れば分かるのさ! これぞプロのラノベ作家としてのスキルだ!」

文隆「全国のラノベ作家の皆様ごめんなさい!!」

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