表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

ことのはじまり

おなじ場所にいて、同じことができる。それだけで嬉しい人がいる。


別にデートでもなんでもないけれど、その人が来るというだけで、ちょっとした集まりが嬉しい、なんてこともある。


五年前、入社したての私の教育係をしてくれた野洲さんは、あの頃からずっと憧れの人だ。


野洲さんは、一見、とってもクールに見える。あんまり自分のことは話したがらないし、プライベートは謎だらけだ。飲み会の席で、誰かが野洲さんに恋人はいないの?と聞いたら、いないと言っていたけれど、だったら、携帯のストラップについてるキティちゃんは貴方の趣味なの?と聞きたい。


五年前、私が入社したころ、野洲さんもやっと一人前になった頃だった。だから、野洲さんにとって、私がはじめての教え子。


少し指導を受けて、野洲さんが一兵卒としては抜群に能力の高い人だということは、すぐわかってしまった。


少し、技術者肌のところがあって、こだわりを持つと頑固だけれど、彼のそばで、彼の仕事を見るにつけ、私もこんな風にできたらいいのに、と何度も思った。


ただ、有能な人によくあるように、無能な私たちの気持ちやペースがわかってない。指示の出し方や指示を出すペース、教育方針なんかは、そりゃ、貴方だって何事もはじめてのこともあるもんね、と言いたくなる事が多かった。


だから、言ってやった。

野洲さんには簡単にできても、新人には難しい。

野洲さんのスピードなら今からでも間に合うが新人にはもう遅い。

野洲さんはなんとも思わないのかもしれないけれど、その言い方は劣等感を刺激するんです。もう少し、なにか言いようがありませんか?


おかげで、随分と野洲さんとは口論した。

野洲さんとの口論は気をぬく事ができなかった。自分の言いたいことを常にクリアーに、たとえ感情的になっても、どうして野洲さんに文句を言うのか、最初の目的は見失わないように。私は野洲さんと上手くやっていきたいのだと、野洲さんには迷惑をかけてばかりだが、私だって必死なのだと、伝わるように。だから、喧嘩した後はいつもぐったりだった。


でも、わかってた。そうやって、私が野洲さんにくってかかれたのは、野洲さんが、私の言った些細なことを、いつもきちんと覚えてくれていたからだ。


困った時に、雑談でぼやいたようなことなのに、気がついたら机の上に資料が置かれてたり、落ち込んでいる時に限って、課での飲み会を企画してくれたり。なかなか上手くできないプレゼン資料を、最後の最後までつきあって修正してくれたり。


よくよく考えれば、私は野洲さんに頭が上がらない。



皆がなかなか知りえなかった、本当は人に優しい人なのだということを、私はそばで働くことで、よく見ることができたのだ。


当初、私にだけかと、少々夢見がちなことも考えたが、野洲さんが実は誰に対しても親切で優しいのだということは、やがてわかった。


でも、それが単なる野洲さんの性質であっても、入社したてで不安だった私には、やはり、とても嬉しいことだったのは間違いない。


野洲さんが私には気がないとわかっていても、私はやっぱり野洲さんを好きになっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ