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月下の餓狼  作者: 総長
桜神志狼はかく語りき
1/2

休日の食卓

ずっと暖めていた作品です。

宜しければ見てやってください。

志狼(しろう)! 朝よ、起きなさい!」


僕――桜神(おうがみ)志狼の睡眠は破られた。

母さんが階下(恐らくリビング)で僕を呼んでいる。

枕元の時計を見たら、時刻は午前七時半を回った所だった。

いつもなら朝食を摂り、学校へ行く支度とかを始める時間だけど今日は土曜日。

休日の朝などは惰眠を貪る為に有る様なものじゃないか。


僕は母さんの声から逃れる様に布団にくるまった。

「春眠暁を覚えず」ってのは誰の言葉だか忘れたけど、

この春の陽気は僕に起きる事を許さなかった。

お布団も僕を離してくれそうに無い。全く色男はツラいよ。


そうこうしてる間に、今度は部屋のドアの前から


「志狼、朝ごはん出来てるわよ」


との声が。どんどん近付いて来てるな、メリーさんかよ。

これ以上シカトしてると、その内背後に回られそうなので、

僕は布団と陽気の誘惑を振り解き布団から出た。


「今行くよ」


僕は返事をして、大きく伸びをした。背骨がポキポキと鳴る。

「今日も天気が良いなぁ」

部屋のカーテンを開け、窓を開けると暖かい春の日差しと優しいそよ風を感じた。

今日は四月の十日。春らしい気持ちの良い天気だ。こういうのを春の息吹って言うのかな。


「ぐぅ~っ」


一度目が覚めると俄然、腹が減ってきた。朝食はもう出来ているって言ってたな。さっさと行って食べよう。僕は部屋を出た。




階段を降りていると、階下からは香ばしいトーストとバターの匂いが漂ってきた。

食欲を刺激され、腹の虫がもう一度「ぐぅ~」と鳴いた。

二階から一階まで大した距離ではないのについ階段を一段飛ばしで下ってしまう。


一階のリビングダイニングでは既に父さんと母さん、

そしてじいちゃんの三人が食卓を囲んでいた。


「おはよう」


僕は三人に挨拶をして席に着いた。


「今日はトーストを焼いてみたの」


と、母さん。食卓にはトーストとハムエッグが乗っていた。

普段なら白飯・味噌汁・焼き魚と純和風なんだが、

さては昨日放映された「天空の城ラピ○タ」に影響されたな。

あのパンはやたら旨そうに見えるんだよなぁ。駿(はやお)さんマジパネェっす。


「たまには洋食も良いねぇ」


と父さんが言う。


僕の父さんは考古学者で大学教授をしている。我が家の頼れる大黒柱だ。

発掘やフィールドワークの為、家に居ない事も多いけど、

家に居る時は、僕に勉強を教えてくれたり、考古学の事についても教えてくれるんだ。

遠い時代を生きた先人たちからのメッセージを皆に正しく伝える事が父さんの仕事なんだって、

いつも誇らしげに語ってくれる。僕の自慢の父親だ。


「そう言えば、昨日はラピ○タを放送していたものね」


と父さんが言った。僕の予想と同じだ。やっぱり親子だなぁ。


「よく分かったわね。あのパン凄く美味しそうだったから作ってみようと思って」


「だろうと思ったよ。あのシーン、食い入る様に見つめていたからね」


そうだったのか、気付かなかった。流石に夫婦生活十五年ともなれば、互いの考えてる事も多少は分かってくるものなんだねぇ。


「あなたは私の細かい言動にも眼が行き届くんですね」


「そりゃ、勿論。好きな女の人の事はいつだって見つめていたいじゃない」


恥ずかしげもなく、なんつう事言ってんだこの人は!

流石は僕の尊敬する人、僕には出来無い事を平然とやってのける。そこにシビれる憧れるゥ!


「もう、あなたったら…」


母さんの顔が真っ赤になった。この人もこの人で何照れちゃってんだよ!

僕の両親は息子の僕が恥ずかしくなる程に恋人のような夫婦でした。


「全く…。目の前で娘を口説かれる父親の気持ちも少しは考えてくれ…」


と、じいちゃんが言った。


「すいませんお義父さん、。つい…」


と父さんが苦笑いしつつ謝った。


実は僕の父さんは婿養子で、じいちゃんには頭が上がらない。

交通事故で幼い頃に両親を失って以来、教会の孤児院で育てられ、

天涯孤独だった僕の父さんの親代わりになりたいという思いから、婿養子になる事を勧めたらしい。

ま、理由はそれだけじゃないけどね。


それにしても、いつもはイタズラっぽい優しい笑顔のじいちゃんが、

珍しく真剣な顔をしているのが気になる。まさか本気で怒ってるんじゃ…


「朝っぱらからいい年した大人がイチャイチャしおって…。けしからん!もっとやれ!」


「えええええええええええ!」


思わず声を上げて驚いた。


「美男美女が二人も揃いおってからに…。ヒューヒュー!」


と、いつもの様にイタズラっぽい笑みで囃し立て始めた!全てはフリだったという事ね…。


「手塩に掛けて育てた一人娘だ。喜んでいる様だから嬉しいのだが…。

ただ、まあその…子供の前ではもう少し慎みを持った方が良いと思うぞ?」


父さんと母さんは恥ずかしそうに俯いた。

おじいちゃん、ナイス正論!


今日も賑やかな桜神家の食卓なのでした。

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