勇者を辞めたいんだが死んだ母の霊が憑いてくる
父が死んだ。
物心つく前より早く、魔王を倒すと言って旅立って行った父。
その数年後、訃報という形で失敗を知らされた。
玉座に母と呼ばれ聞いた父の訃報。
正直、俺は見たことのない父がいなくなったと聞いても、何も思わなかった。
その当時6歳になっていた俺にとって、見た事のない父は知らないオジサンにも等しく、様々な人に伝え聞くその英雄像は他人としてしか聞く事は出来なかった。
しかし、母や周りの大人達にとっては重大事件だったようだ。
玉座の間にいる大人達はその報告を受け、右往左往の大騒ぎだった。
「なんと言う事だ!」
「我が国きっての勇者マルス殿が……」
「魔王とはそこまでのものなのか」
「どうするのだ!マルス以上の剛の者など我が国にはいないぞ!!」
「そうだ、各国に要請して騎士団を終結させれば」
「馬鹿者!魔物相手に総力戦など勝ち目がないから勇者に頼ったのであろうが!」
「皆の者!静まるのだ!!」
王様が止めるのも聞かず、騒ぎ立てる国の重鎮達を見ながら俺はただ怖い、そう感じていた。
それも無理はないだろう、まだ6歳の子供が訳も分からず、それも尋常ではない様子で騒ぎ立てる大人に囲まれたら思考も出来なくなるだろう。
「おります!!」
そこに母は声を上げた。母は更に続ける。
「まだ、光は残っています!!!」
その言葉に静まり返る大人達。
「この子が、勇者の血を引くこの子がおります」
え゛?
「この子が15になった暁には、必ずや魔王を倒せる剛の者になっているでしょう」
は?
「おお、夫を亡くしたばかりだと言うに我が子までとは、なんという」
おい、おうさまはなにを……
「そうじゃ、勇者の血ならば!!」
ジジイ、ボケんな!
「しかし、まだこんな幼子を……」
そうだ!頑張れ宰相!
「いえ、私たちは覚悟の上です」
にょほ~~~!!覚悟なんか出来てませんからぁ!!!
「あい、わかった。勇者マルスの子リュートよ、そなたが15になった時、魔王討伐の任を授ける。皆の者もそれでよいな」
一斉に跪く大人達、待て、当事者の俺は何も言ってねえぞ!!
「必ずや、この子を一人前の勇者に育ててご覧にいれます」
お辞儀する母、呆然と見る俺。
こうして俺の波乱なる人生が幕を開けたのだった。
6歳
「えっ?母上、これで何をしろと?」
深い森に囲まれた中にナイフ一本の俺
「リュート、勇者にはまずどんな事があっても生き抜かなければならないと思うの」
「うん、それは僕も思うけど」
「だから『この森から一人で家まで帰る』という訓練よ」
「ちょ、まってよ、そんなん無理だから!」
「母は信じてますよ」
言うなり母は呪文を唱え移動用の魔方陣を敷く。
「母上、僕も一緒に「ごめんなさい、この魔方陣一人用なの」んな訳あるか~!!」
僕の叫び声と共に光の粒子と母は消え、森の奥深くに僕一人となった。
ええ、帰って着ましたとも、一ヶ月はかかりましたが。
7歳
「勇者たるもの、あらゆる毒にも耐えなければならないのよ」
「いや、それはどうなんだろう」
「旅先で毒にかかって倒れたらどうするの」
「え?薬を飲むとか施術院に行くとか」
「それがなかったら?」
え?え??
「どうにもできないでしょう?だから毒を食べて毒に慣れるのよ」
極論のような?
「実は、今日の朝ごはんには致死量の毒が入っていたの」
は?
「リュート、頑張って」
僕はダッシュでトイレに向かった。
ええ、何とか助かりましたよ。ただ胃に残った少量の毒でも僕の意識を一週間奪うくらいの効力はありましたが。
8歳
「今日からは魔法について座学で勉強します」
「これは命の危険はないだろう」
「先生はお爺さんよ」
「なんでじいちゃん?」
「あなたのお爺さんは昔、高名な魔法使いだったのよ?」
「ふぉっふぉっふぉ」
「間違えたら『自分の体』で受けてもらうから忘れないでね」
「え?」
自分の体で受けるのありえないし!ジジイはどっから出てきやがった!!
「さっそく問題じゃ、相手の魂を砕き一撃で相手を仕留める魔法はなんじゃ?」
「え?し、知らないよ」
「ほりゃ、間違えたの、バーストソウル!」
え?何これ?体が熱くなってって、ぎゃ~~!!体が壊れる~~!!!
幸いに体内の魔力が作用してくれて、一命は取り留めたのだけど……
最初に食らった魔法が即死魔法なんてありえんぞ?!
10歳
「だいぶ体も出来てきたので、今日からは戦う練習を始めます」
「え?今までのは?」
「え?ピクニックにご飯に勉強じゃない」
「違う!絶対にそんな軽く言える感じのものじゃない!!」
「え~、最近リュートが素直じゃない、反抗期かしら?」
この環境に置かれて反抗しないのは、タダの命知らずとしかいいようがない気がする。
「気を取り直して、戦闘術を教えてくれるのはこの方よ」
「おう、坊主が未来の勇者か」
母が紹介してきたのは一見オーガとも見間違う程の大男、2メートルを超える長身、僕の体よりの太い腕につるつるの頭。
どうみても普通じゃない。
「坊主、始める前にこれだけは言っておく」
「はい」
なんだ?心構えでも教えてくれるのか。見た目と違って常識を持った素晴らしい人のようだ。
「死ぬな」
ブッコワレタ常識をお持ちの方のようだ。
毎日空を飛ぶことが出来るようになりました。
12歳
「今日からは戦闘訓練を行います」
「それって前からやってるんじゃ?」
「今日からは武器を使った戦闘訓練を行います」
俺の命がマッハ?!
「講師の方はこの方よ」
「リュート君だっけ?よろしくね」
そこにいたのは剣なんかまるで似合わない、そう、吟遊詩人としか表現できないような男の人だった。
長身痩躯といっても常識的な体型にしなやかな腕、優しそうな目と、今度はまともな人なんだろうか?
「まずは素振りからいこうね、どんな武器も基本が大事だよ」
丁度良い長さにあつらえた木を、言われた通りに振るう。
「うん、筋は良いようだね。下半身もしっかり出来てるし、これは教えるのも楽かな」
「ありがとうございます」
めっちゃ良い人だ、訓練だけあって疲れるけど命の危険がない。さっきは疑ってごめんなさい。
「よし、初日だしこのくらいにしようかな。最後に剣技、武器を使った技を見せるね」
そう言うと近くの木に向かって剣を鞘から抜き、振りぬいた。
僕が両手を回しても手が届かない位の幹が音をたてて倒れていった。すげぇ!
「くくくくく」
「え?」
「はっはっはっはっは!クソガキィ!こんなもんで終わると思ってんじゃねえぞ!!」
は?誰これ?
「あ、リュート。武器使いの先生は剣を抜くと性格変わっちゃうから、剣が見たいなんて言っちゃ駄目よ?」
そういう重要な事は先に言ってくれ!!!
「とろとろしてんじゃねえぞ!たたっきるぞ!!」
「うお!」
今、髪の毛切れた!!
「チョロチョロしてんじゃねえぞ!大人しく切られやがれ!!」
今度は服切れた~~~!!
なんとか生き残りました。横から出てきた魔物にこれほど感謝した事はありません。
14歳
「そろそろ仕上げです」
「母上、これ以上何をやらせようと?」
そろそろ本当に死にそうです。
「今から地図を渡すから、そこに行ってこの封筒の中に書いてあるものを取ってくれば良いだけよ」
「まぁ、それくらいなら」
「そうそう、封筒は地図の場所に行ってからじゃないと、開けられないようにしてあるからね」
「無駄に高性能だね」
ちょっと遠いが訓練するよりは、と、一路地図の示す場所へ。
一ヶ月ほどかけてなんとか目的地に、なんか城っぽいのがあるんだが。なんだこれ?
「まぁ、いいや。さて封筒はっと、お?開くぞ。どれどれ」
『着いたみたいね、目の前にある城は魔王軍四天王の一人であるクマ人の城よ。ターゲットは四天王の頭に生えてる白い毛。それを一本取って来る事』
は?一人で乗り込んでやって来いって?そんなん無理無理、さっさと帰ろう。
『尚、この手紙は読み終わり次第爆発します。お母さんこういうのやってみたかったの!』
ふざけんな!こんな所で爆発したら……
時既に遅し、俺の手の上で大気を震わす轟音と、目を閉じても網膜を焼く閃光が!!!
……ん?
あれ?俺生きてる?どうやら音と光だけの爆発だったようだ。死ぬかと思っ……
「なんだ今の音は?!」
「わからん、人間どもの襲撃か?」
「こっちの方で光ったよな」
だぁーー!!敵を呼び寄せる意味で使ったのかよ!これじゃあ逃げられねぇ!どこまで計算してやがるあのアマ!!
「クソッタレ!こうなったら全て叩き切ってやる」
剣を構えると城に向かって突撃して行くのだった。
信じられないようだが生きてます。運よく城の魔族の大半が研修旅行中だったらしく、あまり数が多くなかった上、クマの四天王を筆頭とした強い奴らが全くいなかった。
魔族も旅行に行くんだな……
あと二月で15になる時、母が死んだ。
一人で俺の分の大福を食べようとした時、喉に詰まらせての窒息死だった。
とても満足した顔で逝った。
大福を食えて満足だったのだろう。
毎日の死線を越え、死神と10年来の親友となっていた俺に寂しいといった感情はなかった。
むしろどこかホッとしたところすらあった。
そして時は過ぎ、いよいよ登城する日が来た。
「父を亡くし、そして母を亡くしたばかりのそなたに頼むのは酷かもしれん。しかし人類にもう時間は残されておらんのだ」
「……」
「リュートよ、魔王を倒し世界を救うのだ!」
「は!」
「わずかながら路銀を用意させた、旅の費用の足しにすると良い」
「は!ありがたく」
ずっしりと重い皮袋を受け取る。
「さあ行け、勇者リュートよ」
城の裏口からコッソリと送り出された。
ありえん。
貰った金貨全てに『子供銀行発行』って書いてあんぞ。
こんなんタダのゴミじゃねえか。
まぁいい、むしろこれで心おきなく旅が出来るってもんだ。
俺にはそもそも魔王を倒す気なんざ更々ない。ただこの国じゃあ有名になりすぎて静かに生きるのは無理だ。
こうして俺の理想郷を探す旅に出た。
筈だったんだが……
『リュート、次の町は結構先だからあまりゆっくりしてるとつかないよ』
『ああ、おなべが吹き零れてるよ。野営なんだから無駄は無くさないと』
『あっちに魔物いたから呼んできといてあげたよ』
-----ああ、勇者を辞めたいんだが死んだ母の霊が憑いてくる-----
続編投稿してみましたのでよろしくお願いします。




