第1話 盗賊の心得
ここはとある小さな盗賊団のアジト
薄暗い洞窟の中にあるこのアジトには、まだ日の高い日中ということもあり
その場は多くの団員で溢れていた
大抵の盗賊の昼間はこうして情報交換や道具の手入れに時間を割き
本業の盗みは夜に行う
そんな団員の中で一際大きな声で話す二人の少年がいた
「今日の夜は激熱だよな!!なんてたって、あの悪名高きお代官様
今川家忠の豪邸に忍び込むんだぜ!!」
目を輝かせながら興奮して話すこの少年の名は風間乱馬
針金のように尖った短髪に大きな栗色の目をしている
座右の銘は "目には目を 悪には盗みを"
「お前なぁ〜 まじで付いていくのか?
団長も今日は失敗は許されないから
腕に自信のないものは残れっていってただろう
その意味分かってて言ってんのか?」
乱馬とは反対に冷静な調子で話す少年の名は佐久間信成
髪の分け目が中心にあり、背は乱馬より少し高い
姓を好み名で呼ばれることを嫌う 理由は大名っぽいから
「てやんでい! 当たり前だ、べらぼうめぃ! ようは忍び込んだ後は
役人に捕まったもんの救出行為は原則禁止ってことだろ?
一つでも多く財宝かっさらって一人でも多く生還する。
そうすることで団のリスクを最小限に留める。
例外として絶対に助け出す自信があるときだけ可だっけ?」
一つ溜息を吐いた後、佐久間は話した
「当たり前だ!って意気込んだ割にはあやふやじゃねぇか
まぁそういうことだ
要は足手まといはくるな 来ても自己責任だぞってことだ
もし捕まったら、みんなからは単なる囮として扱われるんだ
その覚悟はあるのか?」
「おうよ! しかも今川家の隠し金庫には
家宝として伝説の7つ道具の一つがあるって噂だぜ!!
俺はいつか7つ道具を全て集めるんだ!
こんな滅多にない機会を指をくわえて逃すなんてありえないぜ!」
佐久間は先ほどよりさらに大きな息を吐いた
「お前なぁ その話は嘘だったってことで結論付いただろ?
伝説の七つ道具なんてありゃしない
そんな話聞いたことないし そもそも
それを言ったのがあの石川五右衛門だぞ?
偽りの盗賊 嘘八百の五右衛門 なんて通り名は有名だし
嘘は泥棒の始まり なんて言葉が作られたのも五右衛門のせいだしな
まぁそのおかげであんなにド派手な盗みを幾度となく繰り返しても
なかなか捕まらなかったわけだがな」
「いやあるんだ! 絶対ある!
五右衛門は確かに俺の目を見て言ったんだ!
七つ道具を集めて世界を変えてみろって!」
「またその話か 五右衛門の死刑執行の時に目が合ったって話ね
分かった分かった その話はもう分かったよ
まぁ乱馬が行くなら俺も付いていくよ
お前だけじゃ心配だからな 本当に行くんだな?」
言葉を発する代わりに、乱馬はとびっきりの笑顔で返事した
「んじゃ、今夜に備えて寝るか 丑三つ時に今川通りの3番道路だぞ
忘れるなよ 」
「あたぼうよ!! よっしゃー!今夜は燃えるぜぇぇ!!」
日が暮れるにつれて、少しずつ街の静けさは増していく
太陽は沈み、熱と光は消えていく
鋭角に尖った月が昇り、冷たい風が辺りを通り抜ける
人々は寝静まり、闇が世界を侵食していく
そんな中、提灯も持たない集団が闇にまぎれ道をかっ歩する
盗賊だ