魔力
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
ここ最近暇な日が少なく、バイトと教習所とテストに目が回っていたのです。誠に勝手ではありますが、どうにかご容赦いただければ幸いと思っております。
一応エタるつもりはないので待っていただいてる方にはどうか待っていていただけるとありがたいです。
お気に入りしてくれた方。ポイントを入れてくださった方。ありがとうございます。執筆の励みになります。
あとついでですがユーザーの方以外も感想を書けるように設定いたしました。なにか感想ございましたらどうぞお書きください。
長々と申し訳ございません。では本編の方へどうぞ。
―――そよそよと優しい風が顔を撫ぜていく。
窓から燦々と部屋を照らしている太陽の光から外の暑さが推察できる。
しかし、そんな暑さとはこの部屋は無縁であった。
部屋に涼やかな風が渦巻き、うだるような暑さを解消してくれているからだ。一家の憩いの場であるだろうリビングに置かれている食事用のやや大きい木のテーブルや同じく木製の四脚の椅子達や花台の間を風が通り抜けていく。
その恩恵を授かっているのは若い女フローラと初老の女、そして生後一月程の赤子クロスであった。
「……で、その後はどうだい? なにか困ったことは無いかい?」
「えぇ、シアさんが言っていたオムツを変える回数が多いくらいで、あまり私を困らせることはないですね」
そうフローラが言うと初老の女――シア――は驚いたようだ。
「へぇ、クロスは母親をあまり困らせないのかい?」
「はい。泣くのもお腹が空いたかオムツの時くらいで、いつも何かゆりかごの中で動いてるみたいですけど、他は眠ってますからね。シアさんが言っていたような大変さはないんですよ」
フローラの言葉にシアはますます驚いたようであった。
そうして、フローラに一言断るとシアはゆりかごに近寄りそこに納まっている黒髪の赤子クロスを視て、ふむ。と一言つぶやくとクロスを一撫でしてからフローラへと向き直った。
そして、シアの少々の皺が刻まれてはいるが凛々しい顔は眉が顰められていた。
「あの、クロスになにか問題でも?」
不安になったのであろうフローラがシアに尋ねると、存外軽い口調で返事が来た。
「いや、大したことじゃないさ。今まで見てきた赤ん坊とは違っていたから観察してみただけで深刻な問題はないよ。安心しな」
フローラはなんだ、と安堵すると部屋を渦巻く気流が弱まっていることに気づきそっと目を閉じて呟く。
「水の精よ、我が力を糧にこの場を冷やし給え。風の精よ我が力を糧に風を回し給え」
すると、フローラの身体から緑色の光が立ち昇り室内の気温が適度に下がり、ただの微風に成り果てていた風はやわらかなソレへと蘇った。
「相変わらず便利な色だねぇ。あんたの魔法は」
少々の呆れと共にやや羨ましさを込めて自らの髪をいじるシア。
「シアさんの紫だって凄い色じゃないですか、紫なんて滅多になくて強力ですのに」
「戦闘だけ、ね。日常生活ではあんたの緑には遠く及ばないさ」
嘆息し、まあ互いにそんなものかとシアは思い直す。そして、そうそうと思い出したように話を切り出した。
「クロスのことだがね、確かに深刻な問題はなかったけど、少し気になることならあったよ」
「! どんなことですかっ!?」
クロスのこととあって、フローラは鬼気迫るようにシアに尋ねる。
「あぁ、そんなに焦るな。ただ他の赤ん坊よりも魔力が安定しているというか、揺らいでいないとかその程度のことさ」
「……魔力が安定している?」シアの言葉を聞いたフローラは少々面食らった後、その言葉の意味をよく考えまた驚いた。
「そ、それってクロスが魔力を認識して操ってるってことじゃないですか!」
うちの子天才!?、と驚き喜ぶフローラであるがそれをシアがバッサリ切り捨てる。
「いや、赤ん坊にしてはという程度のものでしかないし、今の時期を考えるとまだ意識がはっきりしていない時期だからね、たまたまか偶然という方が可能性が高いよ。それでも何かしらの影響をクロスに与えているんだろうさ、だからクロスは他の赤ん坊と違うのかもしれないね」
そう、シアが言うと途端に落ち込むフローラ
「―――えぇ、わかっていましたよ。流石に無いだろうということぐらい。……でも少しは期待してしまってもよろしいじゃないですか、我が子のことですもの。ええきっとそうよ」
「そうだね、子どものことさ、仕方ないね。……くくっ」
そんな、フローラを見てフォローしつつも笑いを溢すシア。
また、そんなシアの反応にしょぼくれた様子を加速させてしまうフローラ。
シアは、そんなことはどこ吹く風と新たな話題を提供し、フローラも気を持ち直して新しい話題に興じる。
そんな、穏やかな午後をこの二人は楽しんでいた。
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―――時は幾日遡る。
先の部屋と同じ部屋であるがそこにフローラとシアの姿はなく、クロスが入ったゆりかごのみが在り。ゆりかごの中にいるクロスはしきりに手足を動かしていた。
(あー、暇だ。早く動けるようになりたい)
どうやら、やたらと手足をバタバタと動かしているのは運動して筋力を少しでも上げようという試みのようであった。
クロスはこの試みを既に一週間ほど行っているがいまだ成果は出ていない。すぐに成果の出ることでもないため当然と言えば当然である。
しばらくすると、赤ん坊の体には辛かったのか動かしていた手足の勢いが次第に弱くなり最後には止まってしまった。
(つ、疲れた。やっぱり赤ん坊には無茶かな? いや、やらないよりはましだろう。……そう思いたい)
疲労のためか早くなっている呼吸を整え、落ち着いてからクロスは静かに目を閉じた。
疲れを癒すために眠るのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
(集中。今までにない感覚を探るんだ)
クロスのやっていることは寝転びながらであり、おおよそソレの姿勢を連想させるものではないが己の内に意識を向け集中するその行為は正に瞑想であった。
瞑想は修験者等が悟りを開くため、精神の修練として行われる業や集中力を高めるための手法であるが、それは地球においての話である。
こちらの世界でもその効果はあるがもっと重要な意味も持っている。
それは、魔法の修練。魔力制御法の基礎であり、魔法を開花させるための極めてポピュラーな手法。
(―――ん。……見つけた!)
魔法を安全に使うに際して魔力の掌握は必須事項と言える。常識として知られているようなことだ。
―――この世界では――― だが。
つまり、クロスはこのことを知らないのだ。では何故クロスが瞑想を行っているのであろうか?
その答えはヒドイものであった。
(やっぱりあった! 恐らくこれが魔力とかそれに類する力だろうな。魔力とかを瞑想で自覚する。うーん王道だなぁ)
詰まる所――なんとなくできそうだったから――。これだけである。
一応神に魔法があることを明言されており、母であるフローラが使用しているところを何度か見ているため存在を確信しての行動であったのだが、
(本当にファンタジーだな。あとはこれを操れるかどうかだ。……いかん。なんかわくわくする)
クロスは成功したことと魔力の感覚に高揚してしまっていた。
無理もないことではある。魔法などというモノが概念としては存在しているにも関わらず、実在せずに憧れを募らせるばかりであったモノが手の内にあるのだから。
しかし、例え概念として知っていても関係ないことがある。
(…………くっ、ぜ、全然動かねぇ、びくともしないし。……もしかして魔法って難しいのかな?)
魔法は特殊技能と言ってもいいものである。そう簡単に扱えるようなものではない。
ましてやなんとなくで始めた赤ん坊がどうこうできるものではないのだ。
(……結局は要努力ってことか。やれやれ、転生って言っても楽じゃないなぁ)
クロスはまたしてもこの世界で生きることへの大変さを実感した。
しかし、クロスは気づいていない。自分がいかにアドバンテージを受けていて、行っていることがいかに無謀であるかを。
クロスが理解するのはしばらく後となる。




