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謁見

―――玉座の間。


この広間はそう呼ぶべきだろう。

広い空間に豪奢なシャンデリア、床に敷かれた美しい毛足のカーペット。

そして、この空間の呼称を決定付けさせる洗練され、威厳を放つ玉座。

そんな玉座の間だが、この場所を見た者は皆異常に思うだろう。

この広間の迫力に?

――否――

もっと単純で分かりやすい異常がこの玉座の間にはある。


―――色がない。

この広間の全てから抜け落ちたかのように色が無かった。

豪奢なシャンデリアも、美しい毛足のカーペットも、洗練され、威厳を放つ玉座さえも。

全てに色が無くどこか冷たさをを感じさせる。迫力はそのままに。

しかし色が持つ温かみというものが、この広間には絶対的に欠けていた。


「……なんだ、ここ」


そんな場所に、青年が一人。

その青年は、動揺していた。先程まで、彼は、全身を砕かれ、手足をねじ曲げながら自らの血の海に沈んでいたはずであったからだ。

だから、いつの間にか謎の白い広間に傷ひとつ無く、しかも素っ裸で立っていたのだから、混乱のひとつでもしようものである。


青年はどうやら訳のわからないことはとりあえず置いておくことにしたようで、興味深そうに広間を見渡していた。


「しかし、変なとこだな。スゴイんだけど、色がなくてなんか寂しいというか、空しいというか」


『他人の謁見の間にヒドイ言い草だね。……まぁ、否定はしないけれども』


「!?」


突然目の前の玉座に少年が現れていた。少年は、雪のように白い髪とミルクのような白い肌を持っておりある種の完成された整い具合の容姿をしていた。そしてその少年は青年の言い草に対して文句を言っているようだった。


「……何時の間に」


『ついさっきだよ、君がこの広間に対して悪態ついてた時さ』


「一応、玉座は視界に入ってたんだが」


『キミに認識出来なかっただけさ。神の行動が人間のキミに認識出来なかったとしても仕方の無いことだね』


「……神?」


『そう、神』


「あの神様? 神話とかの?」


『そうそう、信仰されたり、祈られたり、拝まれたりする宗教のアレ』


「……マジで?」


『マジで』


青年は耳を疑っていた。神を自称するやつなどまともではない、いや他称されていてもまともではないと思っていたからだ。


「またまた、確かに不思議現象満載だが、流石に神は無いって」


『うーん、まあ、キミのお国柄神様ですって言われてハイ、そうですねとはならないと思っていたからまあいいよ』


どうやら、こちらの事情を知っておりさらに汲んでくれているようで、青年は少年が良識は有りそうな奴だと思った。


『まあ、事故で死んでからの不思議現象は全部僕の仕業だと認識してくれればいいよ』


「……やっぱり、そうなのか?」


青年は、このような状況に置かれた中で数々の不可思議な出来事を唯一目の前に存在する他人の少年が行っているのではないかと推測していたのだが、どうやら正解だったようだ。


『うん、キミに頼みがあってね、ここに呼んだんだ』


「……呼んだ……………」


青年は意識消える瞬間に聞いた“おいで”という声を思い出していた。

そしてその声が目の前の少年のモノだと言われて納得した。

確かに、こんな人間離れした声だったと、変な包容力のある声だったなと、思ったからだ。


「……そうか。ところで頼みって?」


『うん。頼みっていうのはね、僕の世界に転生しないかい? ってお誘いだよ』


「僕の世界?」


『うん。それも含めて説明するよ』


説明するからか、少々少年の顔に真剣さが浮かんだ。


『キミの住んでいた世界とは異なる世界。そこの神様が僕で、とある目的を持った僕が目的のためにキミを僕の世界に転生しないかって誘ってるのさ』


「簡潔だなっ! おい!」


あまりにあっさりとした解説に青年は思わず突っ込んでしまった。真剣そうな顔をしたのはなんでだよとも思っていた。


『説明は簡潔な方が良いでしょ?』


「かといって、不足してても意味がないだろうが! まず、お前さんの世界がどんな場所で、目的がなんなのかは説明すべきだろ!」


そういうと、少年はしれっとした様子でこうのたまった。


『目的は話すつもりはないし、正直知らなくても君が僕の世界で生活してれば達成されるし、それに世界の説明については、ほら、見てからのお楽しみ? みたいな感じで』


「駄目だからっ!!」


青年、全力の咆哮である。


『ふむ、どうしようかな』


どうしようかな。では済まないぞ、と青年は思っていた。

少年の神や世界云々を完全に信じたわけではないが、今までの不思議現象はほぼ間違いなく、目の前のややおちゃらけた少年の手によるものである。

現在、提示された以上の裏や、実は全てが死に瀕した自分が作り出した幻覚だとか、前提を丸々覆すような事態でもない限り、これは現実であり、これからも現実である。

情報の大切さを知っている青年は、その世界の情報がどうしても知りたかった。


「なんか教えてくれないと、非協力的になることも辞さないつもりなんだが?」


青年の現状できる精一杯の交渉である。

なんとか一つでも聞き出せないものかと思っての言葉だった。


『そうだね、じゃあ一つだけ。それで協力的になってくれるなら良いしね』


どうやら、譲歩は引き出せたようだ。と、青年は安堵した。


『うん。一つ教えれば了承するなんて、いやはや、有り難いね。契約書にサインしてくれた様なものだし』


「え゛ぇ゛」


断るとか、他の選択肢あったのかよ!

と、青年は思ったが既に遅い。


『じゃあ教えるね』


神は待ってはくれないのだ。


『僕の世界は―――武器と魔法のファンタジー少々リアル風味さ! じゃあ、良き来世を送れるように頑張ってね。応援はしてるよ』


と、いう言葉と同時に青年の体が輝き始めた。

輝きが強くなるほど青年の体は薄く透けていく。

そうして、消え切れば青年は転生するのであろう。

そして青年は、


「て、ちょっと待てーー!! ふざけんな! なんだ! 少々リアル風味って、料理か! つーか細部は教えてくれないのかよっ! そもそも他に選択肢あるんなら提示しろや! あっ、お前なに半笑いになってんだよ。てか笑うな、笑うなーーー!―――」


訴えを聞き入れられることなく、その姿を光に変えた。


―――半笑いの神様を、玉座の間に残して。

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