いなくなった、キミ…
キミとずっと一緒にいたかった。なのにどうしてキミはいなくなってしまったんだ…。これからもずっと一緒にいれると思っていたのに…。
「よし!準備オッケイ!」
僕は、隣に座っている女の子に言った。
僕の名前は、五十嵐 信也。彼女の名前は、浅海 優。
僕と彼女の趣味はスキューバーダイビング。二人でバディというパートナーを組んでいつも一緒にいろんな海に潜っている。
「ちょっと!!信也!出来たんなら手伝ってよ!」
優は、少し怒り気味の声で言い、僕をにらみつける。
「なんで優は、いつもそんなに準備するのが遅いんだよ」
「信也が早いだけでしょ!?わたしが普通なんですけど…」
優は相変わらず、怒り気味の声で言った。
今いる場所は、2人で偶然見つけた穴場スポットだ。周りに人はいないし、水はとても澄んでいて、波も穏やか、まさに潜るのには最適の場所だ。ここなら2人だけで、2人だけの世界で潜ることができた。
「よし!できた!さっそくいくぞ!」
「もぉ!なんで信也はそんなに急かすの?誰もこないし、時間もあるんだからゆっくりでいいじゃん!」
「なに言ってんだよ!はやく潜りたいんだよ!分かるだろ?」
「…………もぉ!」
優はいつもより機嫌が悪い、僕のせいかもしれないが…。
僕と優が出会ったのは大学のサークルでだ。
しかし、スキューバーダイビングのサークルではなく、山登りサークルで出会った。僕も優も最初は、山登り仲間として、山に登っていたのだが、2人ともなぜか海に惹かれてスキューバーダイビングをはじめた。そしていつしかお互いに惹かれあい、付き合いはじめたのだ。もう優と付き合って三年になるだろうか…。お互いに結婚も考えていた。
海に潜るとそこは一面に青い世界が広がっている。魚もたくさんいる、横には優がいて、そこには完全に2人だけの青い世界が広がっていた。楽しい…。優と同じ時間を共有していることがものすごく楽しい。これからもずっと一緒にいたい、ずっと一緒に…。
一瞬…。なにかが破裂した感じがした…。
(優!?)
海に潜ったまま辺りを見回した…。いつも横にいて、一緒に泳いでいるはずの優がいない…。僕は急いで上昇し、海上にでた。
しかし、優の姿はどこにも見当たらない…、見通しがよく、よく澄んでいる海で波も穏やか…、見失うはずがない状況で優を見失った。
辺りを必死で探す。
「優っ!!!?」
海の中を探し、海上にでて、また海の中を探し、必死に優の姿を探したがどこにも見当たらない。ついさっきまで一緒に泳いでいたはずの優が忽然と姿を消した。僕は海からでて、必死に優をさがす。いないはずがない…、さっきまで一緒に泳いでいたんだから…。
「優っっ!!!!!」
気が狂いそうなほどの大きな声で、優の名前を叫んだ。
頭痛がする、潜っていた直後に叫んだ影響だろうか?耳鳴りもする、気分が悪い、倒れそうだ…。
「優…」
声がかすれ、目の前が暗くなった。優を見つけられないまま…
キミとずっと一緒にいたかった。なのにどうしてキミはいなくなってしまったんだ…。これからもずっと…、ずっと一緒にいれると思っていたのに…。
あの日、優は少し怒っていた。
僕のせいかもしれないが…。
海に潜る時は万全の体調でなければならない。
なぜなら不調はそのまま死に直結するからだ…。優が準備をするのが遅かったから優を急かしてしまった。そのせいでなにか準備の段階で失敗してしまったのかもしれない…。いずれにしても優は僕の前からいなくなってしまった。もう二度と戻ってはこない、もう二度と会えない…。そう思うと切なく、悲しくなった。
数日後、海から死体があがった。死因は肺が圧力で潰されて破裂してしまったからだそうだ…。スキューバーダイビングをやる人のなかにはたまにそういう事故で死んでしまう人もいるらしい。僕は涙を流していた。もう二度と言葉を交わすことはない…、触れ合うこともない、一緒にいることもできない。
「信也っ!!」
僕の目の前には、涙を流している優の姿があった。
「信也とずっと一緒にいたかった。なのにどうして信也はいなくなってしまったの…。これからもずっと…、ずっと一緒にいられると思っていたのに…」
ああ…、そうだ。死んでしまったのは優じゃなく僕だったんだ…。
だから、もう一緒にいることも、触れ合うことも、言葉を交わすこともできない。
さようなら優…。ごめんね優…。
もう開くことのない僕の目からは、その海にも負けないくらい澄んだ涙が一粒こぼれ落ちた…。
読んで頂いてありがとうございます。かなり悲しい話ですが、どうだったでしょうか?一度読まれた後に、もう一度読んで見るとまた違う感じで読むことができると思います。ありがとうございました




