第四話 その力は
一週間後。
退院を許可された五奇を迎えたのは、ルッツだった。
彼に父に会いたいと伝えた五奇だったが、それは却下された。
曰く……まだ会える程の状態ではない。
その言葉の重さに、五奇は喪失感と妖魔への怒りに飲まれそうになるのを感じていた。
それに気づいていたのだろう、ルッツが五奇に向かって静かに声をかけた。
「まずは、僕所有の土地に来てもらう。君の家の物はそこに置いてあるから」
「え……?」
「その事も踏まえて、車内で話そう」
正直、まだこのルッツを信用しきれていない。だが、助けてくれたのは事実であるし、世話をしてくれているのも彼だ。
五奇は素直に従う事にし、ルッツが用意した車に乗り込んだ。
こうして、車内で二人になってから、色々と話をされた。
五奇の父を襲ったのは、妖魔と言われる人外の存在……魑魅魍魎の類である事。
それも上位の存在であり、人型の妖魔である事。
そして、五奇の家は人型の妖魔の部下によって壊された事。
……五奇の父は、妖魔の精神攻撃により、精神が崩壊してまった事。
「ねぇ……それを聞いても……妖魔を憎まないでいられると思うの? あんたはさぁ……!」
「憎むなとは言っていないさ。ただ、その憎しみだけで生きるのは違うと思わないかい?」
「どういう……?」
「着いたよ、ここだ」
通された場所は私有地にしては広く、まるで森の中にいるかのようで、五奇は思わず息を飲んだ。
「ここで、君に妖魔について知ってもらう。その上で、退魔師としてやっていけるかどうかを試させてもらうよ」
「どういう……?」
「君は妖魔を知らなすぎるからね。そういうわけだから、後はよろしく頼んだよ? 柊鬼」
【承った】
どこからか聞こえた声を探せば、目の前に突如姿を現したのは……小さな子供の姿に角を二本生やした……鬼だった。
思わずたじろぐ五奇に対し、鬼の柊鬼は静かに声をかける。
【お主か? 退魔師にならんとせし者は? ふむふむ、祓力はそこそこあるようだな】
「祓力? えっと……それは?」
【人の子が宿す、浄化の力のようなものよ。お主の素養は確かにあるようだ。では、早速修行を始めるとしよう】
「え、いきなり? ちょ、ちょっと待って! まだ戦い方を知らないんだ!」
【誰が戦うと申した? これからやるのは、鬼ごっこよ】
「……へ?」
戸惑う五奇に対し、柊鬼は少し口角を上げ告げた。
【この自然の中で、体感し、己の為したるが何かを自覚せよ! では参る!】
その言葉の後、柊鬼の姿があっという間に見えなくなった。視線を動かせば遠くの方に姿がある。
【言っておくが、この鬼ごっこの勝者とならん限り、本格的な修行は出来ぬし……最悪、仇の記憶すら消されるぞ?】
「それだけは……ダメだ!」
【ならば探せ! 捕らえてみせよ!】
五奇は深呼吸をすると、勢いよく柊鬼を追いかけるべく駆けだした。だが……。
【どうした、どうした? それでは捕らえる事など出来ぬぞ?】
「くっ! 追いついてやる!」
こうして、鬼ごっこを開始して三十分後。五奇は既に疲労を感じていた。体力には多少自信があったはずだが、息切れすらしない柊鬼に、驚くしかなかった。そんな五奇に、柊鬼が告げる。
【追いつけぬのは、知ろうとせぬからよ。お主は、何を為して何を得たい? 復讐だけか? 夢はないのか? 己の人生を誇れるのか?】
「え……?」
それは、奇しくも父、忍が良く言っていた言葉に近いものだった。
——憎しみに飲まれれば、人は己の人生を手放し囚われて生きるようになる。その先は、暗闇だ。
——だからこそ、法があり……我々警察官がいるんだ。守るための力としてな?
父が誇りを持っていた事を想い出し、今の自分を考える。
(俺、父さんに怒られる事しか考えてなかったな……守るための、力……か)
五奇の目から、憎しみだけではない決意が宿る。その様子を見て、柊鬼が姿を再度現した。
【そうだ。退魔師とは憎しみを武器にする者ではない。守るため武器を手に取る者達だ。覚えておけよ?】
五奇は無言でうなずくと、柊鬼に触れた。柊鬼は微笑むと、また姿を消してしまった。
(父さんのような人になりたいとずっと思っている。だから、なろう。そういう、父さんに誇れる自分であるために!)




