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青春挽歌  作者:
7/12


「ッ……!」


真菜月みするは、突如布団の上で覚醒した。

実はそれを真菜月みするは、もう何度も繰り返していた。

六畳の室内は月光を大きく取り入れて淡い光で満たされている。

夏の夜更け独特の涼しさの中で、真菜月みするは大量の汗をかいていた。


(駄目だ……今日も眠れないよ…。)

真菜月みするは、一人寝返りをうちその額の汗を手でぬぐった。

そっと目を開くと、蚊帳の中からでもその輪郭も鮮やかに哀しげな光を放つ月が浮かんでいるのが見える。


(怖かった……。)


男子便所での凌子様の奇襲の情景がまざまざと蘇る。

その恐怖は、すでに「ないふ」で抉られたかのように心に深く刻まれてしまっている。

目をつぶれば襲いかかる暗罪凌子の姿が、そして血しぶきを上げる彼女の腕が脳裏をよぎって離れなかった。


(あたし、本当にどうなるんだろう…。

どうしてこんな事になっちゃったんだろう…。

何でこんな怖い思いしなくちゃいけないんだろう…。

もう、いいよ、帰らせてよ…。)


月の光は孤独と悲しみを増幅させる。

真菜月みするの瞳からは自然と涙がこぼれ落ちていた。

次第に鼻の奥がつんとし、呼吸も苦しくなってくる、思わず嗚咽がもれかける。

けれど真菜月みするはそれを必死に我慢した。

この六畳には、真菜月みするの他に3人の男達が眠っている。

よくは分からないが自分を守ってくれる男達、彼等を起こさないよう真菜月みするは、体を固くして涙を流した。


「もしかして泣いてる?」


真菜月みするの肩に指先がそっと触れる。

耳元で小さく入橋圭の声が聞こえたような気がした。

真菜月みするは体をより固くした。

先程あれだけ裸で泣いている姿を見せたのに、またここで泣いている姿を見せるのは、あまりに申し訳なく、何より恥ずかしい事と感じたからだ。

真菜月みするは、寝た振りを試みようとした。


「あ、寝た振りしようとするんだ。

寂しいなァ、みする。」


何故か真菜月みするの寝た振りを入橋圭は見破って話しかけていた。


(違う……今の、話しかけてない…。)


真菜月みするは、それに気づいた。

そう、入橋圭は言葉を発して話してはいなかった。


(うん、心に直接話してる。

俺達婚約してるからこういう事も出来る訳。)


入橋圭が心で話しかけてくる。

真菜月みするは、またまた驚いた、そして狼狽した。


(心に話すって……うそ、今あたしの心の中見てるの?)

(うん、昨日の今日だからまだ少しだけだけど。)

それはかなり嫌だった。

真菜月みするの中に入橋圭に対する嫌悪感が膨れ上がる。

「う~わ~~、みする俺の事メチャクチャ今嫌ってんね…。

これ言葉で言われるよりきついからヤなんだよなぁ…。)

入橋圭の呟いた心と共に少し悲しげな入橋圭の心が真菜月みするの中に、流れ込んできた。


言葉で言われるより…。

入橋圭のその言葉通り、真菜月みするから拒絶を受けた入橋圭の悲しげな心は、直接真菜月みするの心を打った。

(なんか……少し可哀そう…。)

自然と入橋圭に抱いていた嫌悪感が、少しずつしぼんでいく。


(ねぇ……今から俺の庭行かない?)

(庭……?)

(そう、絶対誰も来ない場所。

どうせ怖くて眠れないんでしょ?

だから気晴らし。)

(でも……。)

(領地から出ても大丈夫?藤村センセがいないのに大丈夫?かぁ……。

ま、仕方ないけどさ。今日助けたの藤村センセだし…。

大丈夫だよ、今みするに手を出せるのは姫だけだし。

そういう事する凌子様は当分来ないしさ。

とにかく何かあっても今度はみするの事、俺が絶対守るから。)

(………。)

心に直接話す入橋圭の心は決意と自信であふれていた。

影一つない太陽のような明るい感情、それは口先だけの薄っぺらな言葉ではない事が真菜月みするにはよく理解出来た。

ゆっくりと真菜月みするの心の中に入橋圭に対する安心が生まれてくる。

(よし!じゃ決まり。

ん?さっきも見たから気になんないよ、泣き顔なんて。

じゃ、窓からこっそり行こう。)

するすると自分の心を読み取られて真菜月みするは恥ずかしかった。

けれどそれと同時に心の中に入ってくる入橋圭の温かく広い心が、とても心地よかった。


こっそりと窓から用務員室を抜け出す。

もしかしたら藤村教諭も白石雅も気づいていたのかもしれない、だが2人は起きてくる気配を見せなかった。

入橋圭が先に裸足のまま外に降り立つ。

真菜月みするが、裸足に躊躇しているのを見ると入橋圭はそっと両手を広げていた。

どうやらお姫様だっこをすると言っているらしい。


(や………。それは、ちょっと…。)


夜校内をお姫様だっこされて徘徊する自分と入橋圭を思い浮かべ、真菜月みするはさらに躊躇した。

入橋圭がそっと躊躇するその手に触れる。


(みする抱えてないと行けないトコなんだ。

大丈夫、俺を信じて。)


その言葉と心に邪な陰りは見られない。

真菜月みするはそっと窓に足を掛け、入橋圭の腕の中に己の体を預けた。


(………わ、お姫様だっこ)

(………わ、みする汗臭い。)


真菜月みするの乙女心に入橋圭の素朴な感想が突き刺さった。

無理矢理降りようとする真菜月みするを入橋圭は何とか抱えて用務員室の前から離れた。


(みする、危ないから暴れないで。)


少し用務員室から離れた所で、静かな響きで入橋圭が真菜月みするの心に囁く。

その真剣な心の色に真菜月みするは暴れるのを堪えた。


次の瞬間、重力が消えた。


「ッ……!」


体が宙を舞っていた。

軽く二階の窓まで体があがっている。

と思ったら今度は体に負荷がかかった。

思わず真菜月みするは目をつむる。

耳元で葉のかすれる音がかさかさと聞こえる。

どうやら木の枝にいる――――


と思ったらまた重力が消えた。

木の枝をばねにさらに上の階を目指している。


(何がどうなって?)


真菜月みするは浮遊感の中目を開けた。

その先には空を目指して上を見つめる端正な入橋圭の顔があった。

孤高の獣を思わせるその面ざし。

その瞳は、今空の上に昇る月光の如く寂しげな淡い光を放っていた。

 


リ―――――――ン……・・…・・



(あ、あの鈴の音……何だろう…。

何でだろう……)

真菜月みするは再度の負荷に固く目を閉じた。

だむっと入橋圭が足で校舎を蹴りつける音が響く。

そしてまた訪れる浮遊感、その中で真菜月みするはまた鈴の音を聞いた気がした。


(やっぱり…何故か入橋くんの中から聞こえるような気がする…。)


3度の跳躍と負荷を繰り返すと入橋圭はそこに停止した。


「到着ですよ、みする姫。」

入橋圭は口で真菜月みするに目的地へ着いた事を告げた。

真菜月みするはまた閉じてしまっていた瞼をそっと持ち上げる。


「わ……。」


満点の星空の中、孤独な輝きに照らされる、赤の群れ。

二人の周りを真っ赤な花びらが彩っている。

鮮やかな無臭の華、彼岸花がそこには広がっていた。


「すごい…。」

「でしょ?」


入橋圭はそっと真菜月みするを地面に降ろした。

真菜月みするはその静寂の世界に目を走らせる。


「でも……」


真菜月みするは、そっと入橋圭の腕に触れた。


「少し、悲しいね。」


「うん、そうだね。」


そう呟いた入橋圭は穏やかな表情で真菜月みするに微笑んでいた。

けれどその心は泣きそうな程悲しみに溢れている事に真菜月みするは気づいてしまった。

おそらく見てはいけない入橋圭の心に触れて、思わず真菜月みするは入橋圭の腕から手を離していた。

入橋圭はそんな真菜月みするににっこりとほほ笑むと、ずんずん奥へと進んでいった。


入橋圭は扉の近くにある梯子をよじ登る。

見上げれば満点の星空だ。

その段階で真菜月みするはそこが屋上である事に思い至った。


「ここ、屋上?」

「そうだよ。」

「あたし、昨日ここに来ようとしたけど扉開かなくて無理だった。」

「うん、中から来るのは無理かもね。

ここは誰でも来れる所じゃないから。」

さらりと前を行く入橋圭が呟く。



本来給水塔があるべきそこには、海水浴場にありそうな寝転がれる長椅子が2つ置かれていた。

隅には折りたたまれた丸「てぇぶる」から細々とよくわからない収納箱が置かれ、日差し避け用の「ぱらそる」まで置かれている。


「はい、みするこっちどーぞ!」

一方の長椅子の上に積もった彼岸花の花弁を手で払い、入橋圭は真菜月みするに席を勧める。

真菜月みするはそっとそこに腰掛けた。

きしりとわずかに長椅子が音を立てる。

それを確認するともう一方の長椅子に入橋圭はごろりと横になっていた。


「みするも寝て見てみな。

空綺麗だから。」

「うん…。」

真菜月みするは言われた通り、長椅子に横になってみた。


「きれい……。」


目の前に嘘のように輝く銀河が広がった。

普段真菜月みするの暮らす街からではとても見られないような小さな星々までが、自ら輝きを放つかのように煌めいている。

それはまさに銀色の河の流れを魅せていた。


「吸い込まれそう……。」


空を下から眺めているはずなのに、まるで空に落ちていくような錯覚を引き起こす。

その静かで壮大な光景を、真菜月みするはただじっと見つめていた。

隣にそっと目を映すと入橋圭も静かに空を見上げている。

その瞳は月と星の光で満ちていた。


「入橋くん、そういえばさっき飛んでたよね?」

「うん、飛んだっていうか…ジャンプ。」

「それも出来ないよ、普通。」

「だね、でも俺そういう「称号」持ってるから。」

「称号?」

「そう、べロニカかゲオルクに気に入られるとそれぞれの特徴に合わせた「称号」と「印」がもらえんの。

ほら例えば雅、雅は「女郎蜘蛛」って言ったでしょ?

あれが雅の「称号」。

正式名称は「Nephila clavata」っていうらしいんだけどね。

それでその「印」として「蜘蛛の針」っていう針もらっててさ、それを使って雅は色んな糸を使う。ピアノ線みたいなもので攻撃したり、網の壁をめぐらしたり、もちろんお裁縫もね。

今度一度聞いてみな、見せてくれるから。

すごい綺麗だよ。」

「ふぅん、それで入橋くんは?」

「俺は「Cheshire Cat」。」

「つまりチェシャ猫?」

「そ、チェシャ猫。」

そう言って真菜月みするに向けた入橋圭の顔は彼独特の笑顔、半眼に悪戯な感じでうっすらと笑う表情を浮かべて見せた。

「わかる気がする。」

「そ?俺もわかる気がする。」

そう言って入橋圭は空を見上げていた。

真菜月みするも空に視線を戻す。

「だからすごいジャンプなんだね。」

「うん、猫だけにね。

他にも猫っぽい事なら色々出来るよ。

爪が鋭くなったり、夜目が効いたり…。」

「さっき目光ってた。」

「やっぱり?

あれあんま好きじゃないんだよね。

何かドラキュラというか狼男みたいというか。」

「そうでもなかったよ、あたしは綺麗だと思ったな。

あ、でも入橋くんが狼男っていうのには賛成。」

「え…何それ。何かすでに二日目にして俺の印象最悪じゃない?」

「…結構ね。」

隣で「そんなぁ」と入橋圭が声を上げている。

真菜月みするはそちらを見ずにくすりと笑った。


「さっき飛んでる時……入橋くんから音がした。」

「………。」

「鈴の音みたいな、風鈴みたいな音。

初めここに来た時あたしそれを目指したの……。」

「そうなんだ…。」

「うん……綺麗な音だった。」

「……そう。」

「あれは何だったの?」

「あれは鈴だよ。「猫の鈴」、俺の「印」。」

「しるし……あの音が。」

「そう…あの音のする鈴が俺の「印」。」

「へぇ、見たいな…。」

「………。」

しばらくしても入橋圭からそれに対する返事が返ってこなかった。


(え……寝ちゃった?)


真菜月みするは空から入橋圭に顔を向けた。

見れば入橋圭はしっかり起きていた。

しっかり空を見上げている。

「入橋くん?」

「無理…。」

「え…・・?」

「無理なんだ、みする。

俺の「印」を見せるのは…。」

そういうと入橋圭は手を己のお腹の辺りに当てて少し撫でる動きを見せていた。

「飲み込んじゃったんだ、俺の鈴。

だからごめん、見せてあげられない。」

入橋圭は真菜月みするに向けて穏やかな笑みを見せた。

それは先程見せた笑顔と同じものだった。


(そう……同じ。だからたぶん気持ちも同じ。)


(本当は入橋くん、心の中では今にも泣きそうなんだ…。)


真菜月みするは唇を思わずかみしめていた。

入橋圭がまた空を見上げ浅く溜息をつく。

そして静かに呟いていた。

「俺さ、この前の国で姫に捨てられたんだ。」

「え……?」

「産木はなっていってさ、大好きだったんだ。

はなも途中までは俺の事好きだった。

でもさ、はなの奴他の国の王子の事途中から好きになっちゃったんだよね。

けど俺馬鹿でさ。

はなが俺から距離置き出した事とか全然気づかなくて。

気づいた時にはもう遅かった。

その王子の子供出来ちゃってるって事とか全部が一気に分かってさ。」

「え……子供??

いいの?」

「勿論駄目だよ。

だからはなも相手の王子も「退学」させられたんだ。」

「退学?

それって元の世界に戻れたって事?」

「違うと思う。

校内放送でべロニカが魂を無限地獄に叩き落とすとか息巻いてたから…。」

「そんな……。」

「ごめん、怖がらせちゃったね。

それで俺が何でこんな話を始めたのかだけど、俺が鈴を飲み込んじゃった理由がそこにあるからなんだ。」

「鈴を飲み込んだ理由?」

「そう、はなの心に気づいた時ってさっき言ったよね。

あれさ、はなが俺の印貸してって言ってきた時だったんだ。

はなと王子はべロニカ達に子供の事言いに行く決心してたんだ。

それでたぶん俺が止めると思ったんだろうね。

確かにもっと前からわかってたら絶対止めてた。

それなりに俺は強いから、普段の俺だったら絶対はなもその王子も止めてみせた。

でも俺は久々に触れたはなの心にびっくりして、はなが印を飲み込むのもはなが俺の頬を張って隠れてた王子と共に逃げたのにも、何もする事が出来なかったんだ。」

「………。」

「で、数日後のべロニカの校内放送。

それが終わってすぐ俺の手の中に何故か印が戻ってたんだ。

それ見たら何かすごく怖くなってきてさ、また誰かに裏切られるんじゃないかって。

だから俺は印を飲み込んだ。

もう誰の裏切りも傷づくのも嫌だったから。

でも裏切りも何ももうあったもんじゃなかったんだけどね。

結局姫がいないと国は成り立たないからさ、俺の国はそこですぐに崩壊したよ。

それで長い間用務員室でぼんやりして過ごした。

でも雅みたく俺の傍にそれでも付いててくれる奴とか結構いてさ、悪いから姿を消した。

それでこことか6階のあの教室とかでぼんやりずっと過ごしてた。」

「6階の教室……あたしと入橋くんが会った所?」

「そう、みすると会った所。

そしてはなと俺が会った所。」

「えっ……そうなの?」

「うん。

立ち位置は逆だったけどね。

何かすすり泣く声がするなって思ってあの教室入って教卓見たらさ、はながあの中に縮こまって「帰れない」って泣いてたんだ。

それが俺達の出会い。」

「じゃ、あの彼岸花は…・・。」

「はなの魂の弔いと俺の失恋供養。

あーぁ~…。」


入橋圭の溜息が空の闇へと吸い込まれていく。


それから入橋圭と真菜月みするはお互いの現世での暮らしや家族の事を話した。

真菜月みするは15歳の一人っ子で両親が共働きだという事、けれどペットのだんや中学からの友達の佳苗がいるので少しも寂しくない事等々…。

「へぇ…それなのに家事出来ないんだ、みする。

大丈夫?」

「ほっといてよ。」


一方入橋圭は16歳で二人の兄がいる事、聞けばその地方の地主である事、どうも進学の話で噛み合わなかったので確認してみれば何と入橋圭は昭和の始めの時代からこの世界に来ているという事、その時共にこちらへ来た多喜勇治なる友達がいる事等々…。

「でも昭和っぽくないね入橋くん。

その頃普通丸刈りでしょ?」

「うん、始めはそうしてたよ。言葉だってもっとしっかりしてた。

でもさ、何かべロニカがさ不定期で校内雑誌配るんだけど、その流行を追わないと徳が上がらなくてさ。

あと丸刈りって最近後から来る姫にもてないんだよね。

徳が上がらないと卒業できないし、姫に気に入られないと卒業できないし。

男児もお洒落に気を使わないと生きてけないんだよ。」

「せちがらいね…。」

「そう、せちがらいの。

でも姫は良いよね、お下げにセーラーなんて俺の頃と変わんないじゃん。

何で?そこは流行ってるの?」

「う~ん、ある意味ある方面では神話的に流行ってるかも…。」

「ふうん、そうなんだ。」

そんな風に真菜月みすると入橋圭はたわいもない話を延々と続けていた。

遠くで笛の音のような音が聞こえてくる。

あれは福箱(ふくはこ)芳乃(よしの)というお姫様の笛の音だと入橋圭が教えてくれた。

何だか儚げで木で出来た横笛を思わせるその音色。

かすかに聞こえるその音色に真菜月みするは心が静まるのを感じていた。

何となくまぶたが重くなってくる。

いつの間にやら真菜月みするはそのまま眠りこんでしまっていた。



真菜月みするが目を開けると、そこは蚊帳の中だった。

すでに藤村教諭のおさんどんの音が響き渡る。

隣を見れば入橋圭が背中を向けて眠りこけていた。


(夢だったのかな……。)


真菜月みするは一瞬そう思ったが、入橋圭のこちらを向く足の裏の汚れを見てそれはなさそうだと判断した。


「起きたかね、真菜月君。」

藤村教諭の声に真菜月みするは思わずびくりと体を震わせた。

背中ごしにもかかわらず、瞼を持ち上げただけでもその覚醒を理解する藤村教諭の超直感には人間業とは思えないものがある。


(あ、でも実際魔法使いみたいな感じなんだよね、藤村先生って…。)


藤村先生「いこぉる」魔法使いという、その外見からは不釣り合いなつながりに真菜月みするは思わず笑みをこぼしていた。


「おはよう、真菜月さん。」

上から投げかけられるその声に真菜月みするは視線を向けた。

押し入れの中から白石雅は優雅に微笑んでいる。

見ればすでに身支度を整えて髪の毛を「ぶらし」で梳かしている所であった。

そんな麗しい白石雅を寝ぼけ眼のぼんやりした顔でどうしょうもない寝癖を付けながら見上げる乙女、真菜月みする。


「ッ…・・・・!」

思わず真菜月みするは「たおるけっと」をかぶってしまっていた。


(本当……なんなの、この共同生活ぅ~。)


どちらかというと朝は弱い真菜月みするではあったが、自らの乙女を守る為に明日から早起きする事を決意していた。


「真菜月君、二度寝は止めたまえ。」

「う・・・・はい…。」

有無をいわさぬ藤村教諭の言葉に、しぶしぶ真菜月みするは布団から起き出した。


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