第8話 猫山ミクル現る
動揺の中、学校に着いた俺はまっすぐに教室に向かう。
廊下を歩く最中も、周囲の視線が俺に集まる。
「落ち着かないな……」
どうやら学校でもすっかり広まってるみたいだった。
今までの人生、ここまで不特定多数の人間に注目されたことはない。
これが猫山ミクルの影響力ってことか……。
教室の扉を開けると、一斉にクラスメイトの視線を浴びせられた。
好奇の目に晒される中、唯一ユキトだけが手を振る。
「お、来たなタクミ! すげぇよ、お前一躍時の人だぜ!」
俺はユキトの後ろの席に座る。
「ああ、ありがとな」
「どうしたんだよ、もっと喜べよ、チャンネル登録者数が増えるのがタクミの念願だっただろ?」
「いや、何というか……未だに実感がなくてな」
つい昨日まで、俺はチャンネル登録者数2人の泡沫探索者だったんだ。
それが朝起きて、急に20万人超えだとか言われても信じられないのが普通だ。
「正直、まだ夢なんじゃないかとすら思ってる」
「ま、それも無理ないかもな、でも間違いなく現実だぜ。今、探索者界隈はタクミの話題で持ちきりだ!」
ユキトがスマホを見せてくる。
「昨日のお前の勇姿、色んなヤツが切り抜きで上げてるぜ。お陰で拡散されるスピードがとんでもない」
「これは……すごいな」
画面には、俺とエンペラーオーガの戦闘の切り抜きがズラッと並んでおり、そのどれもが100万再生を超えている。
外国語のコメントがあるのを見るに、今回の出来事は海外にも届いているようだ。
動画の中には、わざわざ俺のチャンネルのURLを載せてくれている物もあった。
「ちなみに、探索者WEBのニュースでも取り上げられてるみたいだぜ」
「え、そうなのか?」
探索者WEB、探索者専用の情報サイトで、各地のダンジョンマップや出現モンスター、産出アイテムなどの有益な情報を初め、探索者関連のニュースなんかも載っている。
俺は早速開いてみると、1番上の記事が目に入った。
内容はこうだ。
人気ダンジョン配信者、猫山ミクルを襲うイレギュラーモンスターの影。
その窮地を救ったのは、謎の『盾役』の少年だった。
一応、画像の顔にボカシは加えられているが、間違いなく俺だった。
てゆうか……『盾役』で探索者やってるヤツなんて数える程度しかいないし、職で検索すれば、簡単に俺のチャンネルに辿り着くだろう。
チャンネル名は本名だし、さぞ特定も早かっただろうな。
ありとあらゆる媒体に、俺の名前と姿があるってのは……何かムズムズするな。
それと同時に……。
「……情けないな、俺は」
「ん、どうしたタクミ?」
「今回、こうしてバズったのは猫山ミクルのお陰だ、俺1人じゃ何も出来なかった」
探索者として名をあげたい。
そう意気込んだのはいいが、毎日が鳴かず飛ばずの日々。
『盾役』の配信ウケの悪さを分かっていながら、だ。
探索者としての俺の拘り……と言えば聞こえはいいが、ただ意地を張ってただけなのかもしれない。
「たまたま猫山ミクルが危険な目にあって、たまたま俺が近くにいて、助けることが出来た、ほとんど棚ぼたみたいなもんだ」
そう、色んな偶然が重なった結果だ。
素直には喜べない。
いや、喜ぶ資格がない。
「俺は、無力だ」
「それは違うぞ」
「……ユキト?」
「タクミ、普通の探索者なら、どんなに強かろうと下層のイレギュラーに立ち向かうヤツはいない。命が惜しいからな。でも、お前は迷わずミクルンを助けに行っただろ。自らの危険を顧みず行動出来るヤツが無力なわけあるかよ。それは配信を観た視聴者全員が思ってるはずだ」
「……そうなのか?」
「それに、元々タクミには探索者として有名になってもおかしくないポテンシャルはある。昨日のミクルンの件なんて、きっかけに過ぎないんだよ」
そう言うと、ユキトが肩を組んでくる。
「お前は注目されて当然のことをやってのけたんだ、だから……今は喜べ!」
ユキトは言った。
そうかも知れないな、発端はどうあれ、俺の望んでいたことが実現したんだ。
「ユキト……俺やったぞ!」
「そうだ、もっと喜べタクミ!」
その時だった。
教室の扉が乱雑に開けられると、金髪で大柄な男が入ってきた。
「……鬼戸か?」
やたら不機嫌な顔を晒しながら、教室中を見渡す。
そして、俺と目が合うなりズカズカと近づくと……。
バン!
俺の机を大きく叩き、恨めしそうに睨みつけてきた。
「奥寺……テメェ何してんだ……!」
「何の話だ?」
「とぼけんな! オレのミクルンに気安く近付きやがって……!」
鬼戸の顔にはすっかり血が上っていた。
間違いなく、昨日の新宿大空洞ダンジョンの件だろう。
どうやら猫山ミクルのファンだったようだが、にしてもオレのときたか……。
だいぶ思い入れが強いと見た。
「奥寺、テメェみたいな『盾役』如きが……ミクルンを助けたなんて信じてねぇぞ! ましてやエンペラーオーガを倒しただぁ!? 何かカラクリがあんだろ!」
「あの映像はホンモノだ、俺が近くにいたから助けに行ったんだ」
「近くだぁ……!?」
「その時、俺は深層にいたんだ」
「ふざけんな! テメェみたいなFランクは深層どころか、中層にも辿り着けないだろうが!」
ガシャァン!
鬼戸は机ごと俺を蹴り飛ばすと、教室内が静まり返る。
「がはっっ…!」
「本当のこと言えや奥寺、今なら半殺しで許してやる」
鬼戸は指をボキボキと鳴らす。
「ま、待てよ鬼戸、ミクルンは生配信だったんだぞ、捏造なんて不可能だろ!」
「うるせぇ秋月、テメェには聞いてねぇ!」
仲裁するユキトの言葉は、鬼戸には届かない。
鬼戸のヤツ、相当気が立ってるな……。
こんな人目に付く教室で暴力をするヤツじゃなかった。
もうなりふり構ってられないって感じだな。
鬼戸は窓端に追いやられた俺を蹴り飛ばす。
バキィィ!!
「オラァ!」
ドコッッ!!
「さっさと吐けやぁ!」
「が、がはっ……!」
俺は鬼戸からの暴力を受け続ける。
「お、おい、これマズいんじゃ……」
「せ、先生呼びに行った方が……」
その生々しい暴力にクラスメイトは恐々とする。
「……鬼戸、お前いい加減にしろよ!」
俺と鬼戸の間にユキトが割って入る。
「どけよ秋月、このクズ殴れねーじゃん」
「へっ、クズなら俺の目の前にいるぜ」
「だ……ダメだユキト……」
ドゴッッ!
鬼戸の拳を喰らい、ユキトはうずくまる。
「うぐっ!?」
「ユキト!!」
「しゃしゃり出てくんじゃねーよモヤシが」
崩れるユキトを尻目に、鬼戸は俺を殴り付ける。
何度も、何度も……。
すると、鬼戸はニヤりと笑い始めた。
「はは、そうだよ……こんなゴミみたいなヤツが、Sランクのエンペラーオーガに勝てるわけねぇ、ありえねぇんだよ」
ボロ雑巾の俺を見下ろしながら言った。
「何より……テメェがミクルンを救ったヒーローみたいになってるのが気にいらねぇ、ミクルンとお近づきになるべきはこのオレ、鬼戸アラタ様だろうが!」
鬼戸は拳を振り上げる。
「死んで詫びろやぁ……奥寺ァ!!」
その時だった。
「――そこまでです!」
女の子の声だった。
それは、教室の入口から聞こえてきた。
銀髪のショートヘア、猫の耳のように見える二つの癖毛。
あれは……。
「猫山、ミクル……?」
そう、猫山ミクル本人だった。
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