第7話 盾役、鬼バズる
「昨日はたいへんだったな」
翌日、俺は歯磨きをしながら思い出す。
放課後、新宿大空洞ダンジョンにて、あの有名配信者の猫山ミクルに出会ったのだから。
あの後、ダンジョンの入口まで送り、守衛の人たちに保護をお願いした。
ダンジョン内を移動してる間、特に会話とかはしなかった。
俺自身、そこまでコミュ力が高いわけでもないし、命の危機に瀕してた相手に対しての会話のストックはない。
そんでもって俺もその足で帰宅、ささっと風呂に入って寝たわけで。
「にしてもタイミングが良かった」
たまたま俺が近くにいたから良かったものの、下層自体は結構な広さだ。
本来なら、手遅れになった可能性の方がずっと高い。
探索者にとって運は重要な要素、とはよく言ったもんだ。
それはそうと……。
俺はとある現象に悩まされていた。
プルルルル!
プルルルル!
スマホの電源を入れるや否や、何かに取り憑かれたかのように振動していた。
それは一瞬、途切れたかと思えば、また意識を取り戻したかのように鳴り始める。
かれこれ1時間はこんな感じだった。
プルルルル!
プルルルル!
「まだ鳴ってるな……」
大量の迷惑メールだろうか?
はたまた。何かのウイルスだろうか……その辺の知識には疎いので原因が分からない。
何にせよ、朝から鬱陶しいことこの上ない。
俺はスマホを手に取り、画面を見た。
「……ん?」
"◯◯◯◯さんを含む500人が貴方を登録しました"
"□□□□さんを含む1254人が貴方を登録しました"
"××××さんを含む700人が貴方を登録しました"
"△△△△さんを含む2300人が貴方を登録……"
プルルルル!
プルルルル!
プルルルル!
「登録、って書いてあるな……」
俺は画面をスクロールしていく。
登録、その言葉で思いつくのは、探索者が必ず持っている配信チャンネルのことだ。
いや探索者なら、誰しもがそれを思いつくだろう。
「まさかな」
俺はチャンネルのマイページを開き、登録者数を確認する。
いつもなら、登録者数2人と出る。
チャンネル登録者数……199785人
「……ん?」
見間違いだろうか?
多分まだ寝ぼけているんだ、朝の弱さは昔から変わっていない。
俺は目をゴシゴシと擦り、再度ページを読み込む。
いつものように、登録者数2人って出るはずだ。
登録者数……200697人
「――な、何だこれ!?」
さっきよりも増えていた。
いや、
てゆうか、
そもそも元の数字と桁が違う。
今、俺に何が起こってんだ。
訳がわからない。
するとその時、スマホに着信が入る。
画面には『秋月ユキト』の表示。
「ユキトか、丁度よかった!」
状況が見えないまま、俺は縋るように電話に出る。
『――よぉタクミ! へへ、やったな、いつかはこんな日が来ると思ってたぜ!」
電話越しのユキトは興奮しながら言った。
まるで、こちらの様子が分かってるみたいだった。
「なぁ、一体何が起きてるんだ、俺にはさっぱり分かんないんだが……」
『何って、昨日ミクルンを助けただろ、その様子がミクルンの配信にバッチリ映ってたんだよ』
続けてユキトは言った。
『つまり……あの時、配信を観ていた15万人が、タクミの救出劇も観たってことだ、SNSのトレンドもタクミの件で持ちきりだぞ!」
俺はSNSのトレンドを覗いてみると『謎の盾役少年』『エンペラーオーガをワンパン』『猫山ミクル』と言った、明らかに昨日の出来事を連想させる単語。
そして1位は『奥寺タクミ』。
「なっ!?」
思わず呆気に取られる。
『あと、色んなインフルエンサーがこの件を取り上げてるぜ』
言われるがままに調べると、俺の思いつく有名どころのインフルエンサーが全員コメントを残していた。
『これでタクミも晴れて有名探索者ってわけだ、マジでおめでとう!』
「そういうことか……」
よくよく考えれば、チャンネル登録者数500万人の猫山ミクルの影響力は絶大だ。
そんな彼女の配信に映り込んだなら、俺にも何らかの影響が及ぶのは間違いなかった。
ただ、1つだけ疑問があった。
「でもな、俺みたいな『盾役』が映り込んだ程度でここまでの騒ぎになるのか?」
確かに助けたのには間違いないが、地味で不遇職のイメージが強い『盾役』であることは変わらない。
『いやいや、何ならその不遇職ってのが後押ししてるかもな』
「どういうことだ?」
『確かに『盾役』ってのは世間的に見ればウケはあんまり良くない。でもよ、そんな『盾役』がSランクのエンペラーオーガを撃破した、しかも同接15万人のミクルンの配信でな。低火力で知られる『盾役』でそんな芸当が出来るなんて、今まで誰も考えなかったはずだ、タクミの活躍を見るまではな』
ユキトの言うことはもっともだった。
不遇職の『盾役』でも、ある程度鍛えればSランクモンスターとも渡り合えるポテンシャルがある。
だが『火力至上主義』の考えが横行してる今、その事実を知らない人間の方が多いだろう。
もちろん、それはミクルンの視聴者も同じだったはず。
『つまりだ、『盾役』のタクミが普段やってるような戦闘は、本当なら今までの探索者の常識を覆す光景なんだよ』
「……なるほどな」
要するに、『盾役』は不遇職という先入観がある分、視聴者には余計新鮮に映ったってことか。
何となく理解出来たような……気がする。
『ま、その辺の話はまた学校で話そうぜ、じゃーな!』
ピッ、と通話が終わる。
遅れて、再びスマホがプルルと震え出した。
この瞬間も、俺のチャンネル登録者が増えているのだろう。
「……とんでもないことになったな」
俺は独りごちる。
とりあえず、スマホの通知は切っておくことにしよう。
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