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第2話 不遇職『盾役』


 ダンジョンが出現して20年、当初はかなりの大混乱に見舞われたが、その後の順応は中々の早さだったらしい。


 多種多様なモンスターに、大自然顔負けの広大な内部。

 そんな過酷な環境であるダンジョンから得られる資源は、かつての地球上で存在しない物ばかり。

 燃え盛る灼熱の魔剣や、突風を巻き起こす双剣など、ダンジョン攻略が有利になるアイテムもあれば、あらゆる病気を治してしまう鳳凰の羽など……。

 ダンジョンは瞬く間に一大産業として台頭した。

 そんな夢とスリルにまみれたダンジョンを突き進んでいく『探索者』が職業として定着するまでさほど時間はかからなかった。



 そんな俺、奥寺タクミも探索者として大成したい大勢の1人な訳だが……。


「登録者数、増えなかったかぁ……」


 翌日、俺は学校に着くなりスマホを見ながら悩んでいた。

 

 それは……探索者のある規則が関係していた。


『探索者は活動の際、映像記録を残さなければならない』


 元はダンジョン内における探索者の安全確保、救助時の現在地の特定や、犯罪行為を防ぐための物だったようだが、最近ではその規則を利用して、スリリングなダンジョンアタックを視聴者に配信し、対価として収益やスパチャを得るなど、エンタメとしての要因が強くなっていった。 

 やがて、配信で多くの視聴者を集める者は『ダンジョン配信者』と呼ばれるようになり、そのチャンネル登録者数の多さが、探索者における1つのステータスとなった。


 それこそが、今俺の頭を悩ませている原因そのものだった。


『チャンネル登録者数2人』


 スマホ画面に表示される悲しい現実。

 探索者をやっていくには、圧倒的、いや絶望的に少なすぎる人数。


 探索者において、チャンネル登録者数は本人の実力(・・)以上に重要な要素だ。

 チャンネル登録者数が多いと言うことは、様々な人がその探索者の動向を注目してるということ。

 例えば、有名配信者がダンジョンを配信し、未発見モンスターと遭遇すれば、効果的な戦法、その生態を多くの視聴者が観ることで情報として共有でき……やがて常識にすら出来る。

 未だ未解明な部分の多いダンジョン……それを調査していく上で、その情報を拡散する影響力(・・・)が何より大事とされていた。

 そもそも、|規定のチャンネル登録者数・・・・・・・・・・・・がいなければ入ることすら出来ないダンジョンも数多く存在する。

 つまり……今や探索者にとって、チャンネル登録者数は切っても切り離せない物なのだ。


「どうしたもんかな……」


 俺は机に突っ伏しながら言った。

 すると、教室に入る一人の男。


「――おはよ〜タクミ、昨日の配信も最高だったな!」


 茶髪に糸目の男がそう言うと、俺の前の席へと座った。


 秋月ユキト、俺の腐れ縁の友人である。

 昨日のダンジョン配信を唯一観てくれていた視聴者。

 ちなみに、2人しかいない俺のチャンネル登録者の1人でもある。


「ってうお!? 朝から死んでんなぁ」


「俺はいつもこんなんだよ」


 俺は机に項垂れながら言った。

 ダンジョンアタックの翌日、増えない登録者数に対して頭を悩ませ、結論が出ないままHRを迎える。

 この流れが、今ではすっかり俺の日課になっていた。

 

「うーん、俺はタクミの配信面白いと思うんだけどなぁ……」


「……そうか?」


 俺は頭のみを上げる。


「そりゃ当たり前だろ、今時の高校生探索者でダンジョンの深層に行けるヤツなんてそうはいねー、ましてSランクの深淵竜(アビス・ドラゴン)を倒しちまうとなると、いよいよタクミ位しかいないだろ」

 

「いや、多分俺くらいの探索者なんてゴロゴロいるだろ。俺みたいにまだ芽が出てないだけで」


「おい、お前マジで言ってんのか……」


 ユキトは呆れた様子で続けた。


「タクミ、たまには同年代の配信観てみろって、大体皆B〜Cランクのモンスター相手に汗ダラダラ流しながら倒してるぞ、お前が異常なんだよ」


「俺が異常……? そうかもな、未だにチャンネル登録者が増えない俺なんて異常そのものだよな」


「だーそっちじゃねぇって!! お前の強さが異常だって言ってんの!!」

 

 ユキトはヒートアップしながら言った。

 相変わらず朝から元気なヤツだ。


 でも、俺の配信が観られない根本的な原因は分かってた。


 それは……俺が『盾役(タンク)』だからだ。


 群雄割拠のダンジョン配信、人はどんな動画を見たいだろうか?


 答えは簡単だ、人並みを外れた技を持つ探索者の配信がみたいに決まってる。


 モンスターを一刀両断するド派手な剣技や、全てを焼き尽くす極大魔法……そんな映える(・・・)シーンが観たいのだ。

 その傾向もあって、剣士や魔法使いのような火力の高い攻撃職に視聴者が集まりやすい。

 探索者個人の持つ火力は、モンスターを倒す上で外せない要素。

 その為、今や探索者界隈では『火力至上主義』という考えが定着していた。


 対して『盾役(タンク)』は、敵の攻撃を防御しながら気を伺い、ジリジリと攻めていく前衛職。


 ちなみに、引くぐらい不人気な職として知られている。


 その戦闘スタイルと、ダンジョン配信の相性がとにかく悪いためだ。


 ガン盾を決め込み、ねちっこくモンスターと闘う配信を人はいちいち開かない。


 俺の配信が見られない要因の1つになっていた。

 

「なぁタクミ、もしかして(ジョブ)チェンジとか考えて――」

 

「するつもりはないぞ」


 俺は即答する。

 確かにチャンネル登録者数は大切だが、それ目的で(ジョブ)チェンジをするのは愚の骨頂だ。

 探索者を初めてから、今までずっと『盾役(タンク)』を極めてきた。

 俺にとって、『盾役(タンク)』という職は俺を表す記号のような物だ。 


 今更手放すなんて考えられない。


「だよな、なら良かった……お前は絶対『盾役(タンク)』で脚光を浴びるべきだからな!」


 ユキトはホッとしたような顔を浮かべた。

 探索者として売れて欲しい、それでいて俺の考えを尊重してくれる。

 こうして親友が応援してくれる以上、それに応えたい気持ちはある。

 だが、未だにこうして燻っているのが現状だった。


 その時、教室の扉が乱雑に開けられ、複数の生徒が入ってくる。


「――はいー、オレ様ご到着〜!!」


 中心の大柄の男が声を上げる。

 目が痛くなるほどの金髪、耳はピアスだらけで、制服をだらしなく着崩している。


 鬼戸(キド)アラタ、同じクラスの不良にして、Bランク(・・・・)探索者としての顔を持つ男。

 確か……チャンネル登録者数は30万人で、今最も熱い高校生探索者の1人として選出されたらしい。

 探索者だけでなく、所属してるボクシング部でも好成績を残しているようだが、女癖は悪く、セフレみたいな女も複数いるらしい。

 

「いや〜学校行くのもダリ〜な、サボろうか迷ったぜ」


 鬼戸(キド)は取り巻きの1人に持たせていたカバンを顔も見ずに受け取ると、自らの机の()にドカっと座る。


「へへっ、そういや昨日なんだけどよ〜オレ様あの斎藤イッキとコラボの打診が来たぜ、スゲェだろ!」


「すげぇ、斎藤イッキと!?」


「やべぇ鬼戸くん! 勢い止まんねー!!」

 

 斎藤イッキ、確かAランク探索者の1人だったな……。


「そうそう、時代はオレ様中心に回ってるぜ〜!!」


 ギャハハハハと笑う鬼戸(キド)

 探索者としては分からないが、日常生活はご覧の通り、お世辞にもマトモな学生とは言えず、クラスからの評判は悪かった。


「相変わらずだな鬼戸(キド)のヤツ……」


 ユキトは呆れながら言った。


「アイツ、噂じゃ夜遊びが耐えないんだと、酒やタバコは当たり前、何かやらかす度に学校側が揉み消してるらしいぜ」


 その話は耳にしたことがある。

 俺が聞いた時は非合法のクスリだったな。

 いずれにせよ、鬼戸ならやりかねない(・・・・・・・・・・)っていうのが結論だった。


「アイツより、タクミの方がずっと探索者として上だってのに……」


「でも実際、探索者として成功してるのは鬼戸(キド)の方だ、俺じゃない」


「それはチャンネル登録者数の話だろ、個人の実力ならダントツでお前だよ」


 にしても、とユキトが続ける。


「あんな鬼戸(キド)みたいなヤツが探索者として評価されるなんて、世も末だな」


 ぽつり、とユキトはつぶやく。

 すると、鬼戸(キド)の首がこちらを向いた。

 そして、机から降りるなり全く近付いてきた。


「よーお前ら、相変わらず辛気くせえ顔してんな」


「き、鬼戸……」


「なんかさぁ、気のせいだったらアレなんだけど、オレみたいなヤツが探索者で注目されるのが世も末だかなんだか聞こえたような気がしてなぁ」


 鬼戸はユキトの肩に手を回す。


「まさかそんなこと言うわけないよなぁ〜、このオレ様の輝かしい人生を馬鹿にするような発言なんてよ」


 鬼戸はゆっくりと、尋問するかのように言った。

 口角は上がっていたが、目は笑っていない。

 どうやらユキトの言葉は聞かれてたようだ。

 肩を掴まれたユキトの頬に汗が伝う。


「はは……まさか、そんなこと言うわけないじゃん」


「ふーん、ならオレの耳がおかしいってのか」


「いや、そう言うわけじゃないけど……」


「はっきりしねぇなぁ、秋月、お前オレのことナメてんの?」


「――俺が言った」

 

「……あ?」


 鬼戸は、ふいに口を開いた俺の顔を覗き込む。


「俺が言ったんだ、お前みたいな人の迷惑を考えないヤツが探索者なんて世も末だってな」


「た、タクミ……!」


 ユキトが何か言いかけたが、すぐに鬼戸が俺の胸ぐらを掴む。


「ふーん、奥寺、お前普段の()が足りないみたいだなぁ」


 そのまま俺を持ち上げ、乱暴に投げ飛ばす。

 受け身を取れなかった俺は、机と椅子を大きく倒しながら無様に地に伏せる。


「タクミ……!」


「ま〜いいや、昼休みいつもの場所でな、逃げんなよ、底辺探索者くん」


 そう言うと、鬼戸は離れていく。


 こうして呼び出されるのも、俺にとっては日課(・・)の1つだった。


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