第1話 奥寺タクミは探索者
「――ようやくお出ましか」
新宿大空洞ダンジョン、その深層にて。
俺、奥寺タクミは剣と盾を構えながら言った。
黒光りする鱗に包まれた、禍々しい魔力を放つ黒竜。
深淵竜、ダンジョン連合でSランク指定されている危険なモンスターであり、本日の討伐目標。
「全く、手間取らせるな」
出会うのに結構苦労したもんだ。
何せコイツは深層にしか出ないうえ、出現エリア周辺のモンスターを全滅させてから現れるという特殊仕様。
「ま、準備運動にはなったけどな」
ゴブリンキング、オーガナイト、アーマーリザードなど……有象無象のモンスターの屍の中、俺は呟く。
深淵竜はその巨躯を起き上がらせ、鋭い眼光で睨みつける。
「んじゃ、始めるか」
ゴガアアアアアアア!!
深淵竜は咆哮を上げながら突進してくる。
その黒い鎧のような外見通り、ドラゴン系モンスターには珍しい物理攻撃を多用してくるのが特徴だ。
俺は盾を構え、その攻撃を迎え撃つ。
ドオオオンッ!
深淵竜の全体重が込められた突進攻撃が襲う。
ダンジョンが地震のように揺れるほどの威力。
普通の探索者なら、これを喰らった時点で命は無いだろう。
だが、俺がダメージを負うことはなかった。
盾での防御によって、その全てを受け止めたからだ。
足跡を見ても、その場から一歩も動いていないのが分かる。
グオオオ!?
深淵竜は、ほんの少し動揺した様子を見せた。
そりゃそーだ、コイツからしてみれば俺なんてアリみたいなもんだ。
今の突進で簡単に始末出来ると思うよな。
でも、あいにくだけど俺はそんな柔じゃない。
「――俺は盾役だからな」
盾役、盾の防御力を利用した粘り強い戦い方が特徴の前衛職だ。
ある程度技術を磨けば、このくらいの芸当は出来る。
「ほらどうした、かかってこいよ」
グオオオオ!!
深淵竜は盾に接触したまま、無理矢理力を加えていく。
しかし、俺をこの場から動かすには余りにも力が足りなすぎる。
ここで俺はスキルを発動させる。
「スキル『反射』」
ドオオオン!!
俺が発動を宣言すると、盾から衝撃派が発せられ、深淵竜に直撃する。
『反射』は、盾に蓄積した物理攻撃のエネルギーを放出するスキルだ。
スキルを使う直前、深淵竜の突進攻撃を盾で受け止めていたため、それがそのまま本人に返ってきたことになる。
衝撃波を顔面に受けた深淵竜は思わず仰け反るが、ギリギリで踏み止まる。
「すごいな、流石はSランクってとこか」
今の一撃で頭に血が上ったのか、続いて深淵竜は両手の爪を使った攻撃を繰り出す。
とめどなく浴びせられる巨大な爪の猛攻。
俺は再び盾を構え、ガード体勢で向かえる。
いずれの爪による狂撃も、盾で問題なく防ぎ切る。
そして、
「『反射』」
頃合いを見て、『反射』を発動させる。
爪攻撃のエネルギーが込められた衝撃派は、深淵竜の黒鱗をズタズタに引き裂く。
『反射』には、吸収した際の攻撃を衝撃派で再現する特徴がある。
今回は爪による攻撃だったので、それがそのまま反映されたわけだ。
グオオオオオオオオオ!!!!
深淵竜は損傷により咆哮を上げると、口を大きく開ける。
すると、深淵竜の顔の前に、巨大な黒い炎の塊が形成されていく。
「あれは……」
一つ覚えがあった。
深淵竜には、自らが命の危機に瀕した時に使う『奥の手』とも言える技があると。
確か名前は……『黒炎弾』って技だったっけ?
何でも、着弾地点から半径50メートルを焦土と化すくらいの威力があるって聞いたな。
「多分これのことだな」
俺は呑気にそんなことを呟く。
例によって、俺は盾を構える。
グオオオオオオオ!!
深淵竜の口から『黒炎弾』が放たれる。
大砲のように撃ち出されたそれは、俺を目掛けて超高速で向かってくる。
ドオオオオオオオオオン!!!!
『黒炎弾』が俺に直撃する。
辺りに黒炎が散らばり、放置されていたモンスターの死骸はもれなく黒炭と化した。
ダンジョンの壁やら床やらも黒炎が燃え移って、まさに地獄絵図と言ったところか。
こんな強力な攻撃を喰らったのは久しぶりだったかもしれない。
「俺じゃなかったら間違いなく死んでるぞ」
俺は構えた盾を戻し、周りを見渡す。
探索者界隈で危険視されている深淵竜、その奥の手ともなれば一度身を持って味わうのが盾役の性だ。
けど、案外余裕で防げちゃったな。
少なくとも、盾ごと俺を焼き尽くせるほどの威力ではなかったようだ。
「安心した、次に深淵竜と戦うようなことがあっても、俺の防御力は通用する」
俺は一歩、また一歩と深淵竜との距離を詰める。
グオオオオ……!!
深淵竜は再び、口中に黒い炎を溜める。
なりふり構わないその姿は、心なしか焦っているようにも見えた。
また同じ手を使うのか、それ使っても勝てないって分かっただろうに……。
まあ奥の手って言うし、これ以上の攻撃は無いんだろうな。
「いいよ、付き合ってやる」
グオオオオオオオ!!
再び撃ち出された『黒炎弾』。
俺は盾で防御姿勢を取るが、そのまま耐えるようなことはしない。
このまま守ってるだけじゃジリ貧だし、かと言って『反射』は物理攻撃にしか使えない制限がある。
こんな時に最適なスキルがある。
「スキル『矢返し』」
俺は宣言すると、飛来した『黒炎弾』を盾で弾き飛ばす。
打ち返された巨大な黒い炎は、深淵竜の頭に吸い込まれるように向かっていき……。
ドオオオオオオオオオン!!!!
今度は深淵竜を中心に『黒炎弾』が炸裂する。
『矢返し』は、矢を始めとした飛び道具や魔法攻撃を盾で跳ね返す、盾役にしか使えないスキルの一つだ。
今みたいな『黒炎弾』のような遠距離技も対象に含まれる。
ズシィィンッ!
身体が燃え盛ったまま、深淵竜は仰向けに倒れる。
流石のSランクモンスターも、自らの最終技を顔面に喰らって応えたようだ。
俺はすかさず深淵竜に飛び乗り、更にスキルを起動させる。
「スキル『弱点看破』」
『弱点看破』は文字通りモンスターの弱点を見つけるスキル。
接近した状態じゃないと使えないが、盾役の低火力を補う大事なスキルだ。
目に照準が映し出され、それは深淵竜の左胸を指し示した。
「ここだな」
俺は手に持った剣――ブロードソードを思い切り突き立てる。
ざくり、と肉が裂ける音が耳に届くと、深淵竜はグオオオ……と最期の雄叫びを上げ、動かなくなった。
討伐完了、
今日の目標を終え、清々しい気分だ。
「ふい〜」
俺は仰け反らせ、身体を伸ばす。
スマホを確認すると、画面には同接『1人』の表示。
ピロン!
遅れて、コメントが書き込まれる。
"《秋月ユキト》タクミおつかれ〜、やっぱ壮観だな、お前のダンジョンアタックは!"
俺は後ろをふわふわ浮かぶ、白い球体に目を向ける。
これは撮影ドローン、俺のダンジョンアタックを配信するための物だ。
「観てたのか、ありがとなユキト」
"《秋月ユキト》当たり前だろ、お前の配信知ったら、他の探索者の配信じゃ物足りねーよ"
俺はドローンに向かって話しかけると、すかさずユキトからコメントが返ってくる。
ここで、1番気になる質問を投げかけてみた。
「で、どうだった、お前以外に俺の配信観てた人はいたか?」
"《秋月ユキト》あーそれなんだけどな……"
ユキトはコメント越しでも分かるくらい、口ごもった様子を見せる。
「そうか……」
俺は落胆する。
どうやら今日もダメだったみたいだ。
スマホで確かめてみても、案の定チャンネル登録者数は2人のままだった。
俺、奥寺タクミは探索者であり、盾役であり、登録者数2人の……底辺配信者だ。
※本日18時頃に2話目投稿予定です!
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