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漆黒の翼

 最終日のお題は『愛のお化け』『ねぎ塩焼きうどん』『漆黒の翼を喪失せし者』の三つでした。

 作品のジャンルは純文学……でいいのかな?

 それはいつもの飲み屋街を彷徨っていたときのことだった。

 そこで見つけたのがヤツだ。

 うん、本当にあれは大変だった。あいつらはあれでも群で行動するからな。背後からの不意打ちで1羽捕らえたはよかったのだが、そこへ2羽3羽と助けが集まってきて襲いかかってくるのだから堪らない。

 まあ、それでも所詮相手はカラス、ひとたび建物の中へと避難してしまえばこちらのもの。代わりに店員の目を避けるのが大変だったが……。


 なんとかヤツらの群を振り切り河川敷の寝座(ねぐら)まで。これで漸く晩飯にありつける。

 ヤツを捌くべくテントの中を探す。包丁に七輪、それから鍋に……。


「おっ? これはっ!」


 アルミ鍋入りのねぎ塩焼きうどん。

 思わぬ発見に頬が緩む。

 消費期限は3日ばかり過ぎているが、まあ火を通すものだし問題はないだろう。

 とはいえ早めに食べてしまうのが正解。今日は久々に豪華な晩飯となりそうだ。


 鍋にヤツと水を入れ七輪に掛ける。解体に煮沸消毒は必須だ。


 そろそろかな、多分1分は経ったはず。

 胸を躍らせながら羽を毟る。

 それが済んだら今度は表面を火焙りだ。産毛の残ったままだと食べづらいし。


 いよいよ解体。

「汝、斬首の刑に処す」

 なんて馬鹿な言葉がつい零れてしまう。

 いやだってさ、なんといっても久々に纏まった量の肉にありつけるわけだし。


 落とした首から鮮血が噴く……というのは大袈裟だが、それでも大量な血がボタボタと。これを残酷と思うよりもその後の期待に胸が(はず)むというのだから慣れというものは恐ろしい。とはいえ感傷より食欲が勝るのが生き物の性というものだろう。

 そんなわけで嬉々としながら解体を進める。端から見れば悪魔の所業でもこれが食というものなのだ。


「哀れなものだな。漆黒の翼を喪失せし者よ」


 やはりこのノリは楽しい。

 他人(ひと)には中二病的と嗤われること間違いなしだが、しかしそれこそが戯言の醍醐味というもの。洒落にナンセンスなんてツッコミを入れる者こそがナンセンス。

 まあ、それでも危ない人に見えることは間違いなしか。なんといっても常人に縁のない解体作業だしな……。


 血塗れなそれを綺麗に洗う。なお臓物については諦めた。そこには栄養も集まるだろうが同様に毒素も集まるもの、素人が扱うにはリスクが高い。

 ならばやつらに返してやるか。遺体の返還はある意味敵への敬意だしな。まあ、元からすれば見る影は全く残ってないけど。

 ふ……、これぞ正に悪魔の所業というものだな。


 ……やはり止めておこう。あまりにも鬼畜だ。それに生ごみの不法投棄は犯罪だ。これは後で土に埋めておくことにするか。

「汝、土へと還るがよい」だな。


 水洗いを終えた肉を切り分ける。

 大きさは……まあ、 適当かな。面倒だからぶつ切りだ。

 いや、やはり適度な大きさにしておくか。大きさがあれば気分は満たされるが、食べ易さからすれば一口サイズが一番。というこでこいつは串焼きに決定。

 うん、そうなると串が必要だな。


 再びテントの中を探る。

 しかし残念ながらそんな気の利いた物などあろうはずがなかった。

 そりゃそうだ。まともな皿さえ持っていないのにそんな物なんてあるわけがない。割り箸を削れば作れなくもないけど、それだと今度は箸がなくなる。これでは本末転倒だ。

 そんなわけでねぎ塩焼きうどんをベースに細切れ肉をぶち込むことに。いうなればスキヤキうどん漆黒の翼を喪失せし者風?


 こうしてヤツは私の血肉と化した。私の一部として同じ刻を生きる同士となったわけだ。とはいえそれは私の日常の一部に過ぎず、いずれ私はヤツのことを忘れることだろう。たが、だからといって私がヤツのことを、その命を軽く見るということはない。なぜならば──。


「なぜならば?」


 突然の謎の声に振り返る。

 そこにいたのは姿の朧な黒い影。

 既に周囲が暗くなっていたせいで認識しづらくなっていただけなのかも知れないが、それでも言葉に尽くせない怪しさが勝る。


「ええっと、どちら様で?」


 こんな間の抜けた問い掛けで返したのはその不気味さに怯んだためだろう。そしてその勘は正しかったとばかりにそれは答える。


「冷たいな同士よ。私が何者かはお前がよく知っているはずだがな」


 そいつは私の足下を眺めながら言う。

 しかしそこに何があるというのか。そこにあるのは私が埋めたカラスの臓物があるだけ。他に何があるというわけではない。


「ま、まさか……」


 いや、まさか。まさかこいつは私を怨んで化けて出てきたヤツだというのか。

 こいつの持つ謎の雰囲気が季節外れの怪談ジョークとそれを否定することを許さない。


「酷いな。私がお前を怨んでいるとは。

 確かに私はお前に殺された。だがそれは私を食らうため。自然においては当たり前の理。それを怨むなどあり得ない」


 な、なんだそれは。怨まれていないというのならば取り敢えずは安心だが、それならばなんのために現れたのか。


「目的か。それはすぐに判る。

 そう、すぐに……」


 解らない。こいつはなにを言いたいのか。

 判らない。これをどう受け取ればよいのか。


「うぐっ⁈」


 突然の悪寒に襲われる。

 胃が引っくり返るように痛い。

 目眩に崩れ落ち立つことも儘ならない。

 生汗が泉のように湧き出て止まらない。

 なんだこれは?


「きたか……。

 だが恨むなよ。これは因果応報なのだから。

 お前には私を喰らうだけの力がなかった。それ故にこうして苦しむことになったのだ。

 これも自然ではよくあること。ツキがなかったと諦めるんだな」


「ん? どういうことだ?

 ……って──」


 うぐぅっ!

 堪えきれず激しく嘔吐する。

 どうやら素人調理故の食中りらしい。

 だが、しかし、これはあまりにも酷くないか。

 吐瀉物が赤い。胃液だけでなく明らかに血が混ざっている。というか、今じゃ殆どが血液。

 これはまさか……。


「まあ、そういうことだ。

 つまり私はお前を迎えに来た冥府の使者。お前流に言うならば愛のお化けといったところか。なんとも因果な皮肉なことだ……」


 はあ⁈ 嘘だろ⁈

 絶対に何かの冗談だ。こんなの認められるわけがない。

 だがしかし、死ぬほど苦しい。

 本当に私は死ぬというのか。よりによって食中りなんてもので。

 じ、冗……談……じゃない……。


 ………………。


「…………。

 もういいか? 感傷に浸り終えたならそろそろいくぞ」


 そういうとヤツは人の姿から巨大なカラスへと姿を変えた。


「なんだよ、死ねば漆黒の翼も復活するのかよ」


 ヤツは魂となった私を掴み、遥か星の夜空へと飛び上がった。

 お約束ネタです。

 そしてやはり私の作風のお約束として主人公はお亡くなりとなりました。(苦笑)

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― 新着の感想 ―
確かに町中のカラスだと何を食べているか分かりませんし、それを素人が調理するのも色々とリスキーですね。 ジビエとして珍重されているカラス肉は山に生息するハシボソガラスの肉なので、天然由来の餌を食べている…
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