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分け合う


 四方八方からの視線に刺されながら、セナは中庭に立ち尽くしている。

 様々な瞳を向けられている。

 1年からは敵意、2年からは猜疑心、3年からは興味。

 けれどそれは、セナの前にいるアルマデルも同じなのだろう、それでもセナとは違って、堂々としていた。


「各学年クラスの剣術科、魔法科でグループを作ってもらう。5人・・・、まぁ例外はあるな。4人と5人のグループを作ってくれ」

 どうやら、郊外学習は魔法科と剣術科の合同で行われる授業らしい、クラス達はざわつきながらグループを作り始めている。


「セナ!」

 元気な声がセナを呼んだ、剣術科の友達である、イザベル・ステインだった。

「私達と組みましょ、ね!アルマデル様も、それでいいわよね?」

「え、ええ」

 自然とアルマデルの前に立って、人懐っこい笑顔を浮かべるイザベル。

 彼女の無防備な笑顔は、アルマデルの心に入り込む事すら容易いらしい。

「あの、ひとついいかい」

 挙手をしながら、おずおずと声を出して来たのは、アーバン・ロックス。

 名家であるロックス家の跡継ぎ、橙色の髪は太陽の様に眩しい。

「なにかしら?」

「・・・流石に、男1人というのは、あれじゃないか?」

 どうやら、男1人、女3人のグループになる事にはかなりの抵抗があったらしく、その顔は少し引き攣っている。

「あら、かのロックス家とあろうものが、それだけの事で萎縮するんですの?」

「いいじゃない!!私達、友達なんだから!!」

「私、アーバンを男子とは思ってないよ」

 三者三様、それぞれの解答にアーバンは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「では、4組のグループはユリウス先生の指示に従う様に、5組のグループは、変わらずこちらで対応する、では移動しろ」

「よし、じゃあ4人組。こっちについて来い」

 静かに刺さるグィルとは違って、ユリウスの声は校内に響き渡る豪快な声だ。


「お前達は、騎兵隊と共に現地調査の見学をしてもらう」

「え!!騎兵隊ですか!?」

 前を歩いていたイザベルが、嬉しそうに声をあげた。

 騎兵隊というものに、並々ならぬ想いを抱えているのか、ユリウスに追求している。

「そんな良いんですか!?私達、邪魔になったりしませんか!?」

「邪魔にならないよう謹んで行動しろ」

「それはそうですけど、私が言いたいのは、ほら魔物に襲われるとか」

「ああ、騎兵隊は実力者の集まりだ。気にするな、お荷物にもならん」

 ユリウスがこうも言っているのだから、騎兵隊達はかなりの実力者の集まりらしい。

「イザベル、騎兵隊って?」

「最近設立された、エリート部隊。魔物の襲撃、調査を主に扱う人達よ」

「近年、魔物が活発になっているからね。エルセルク王はそれを危惧したんだ」

「セナ、貴女。世間知らずね・・・」

 騎兵隊という存在は、エルセルクの人達にとっては周知していて当然の存在らしい。

 ──ミラ、騎兵隊って知ってる?

「知らん、我が知らんという事は、60年前には無かったのだろうな」

「ふぅーん」

 エルセルクではなく、レヴァーティアで育った身であるセナには、騎兵隊という存在は耳に入った事はない、知らなくても仕方ないとはいえた。

「その中でも!!騎兵隊の1番隊長、ルリ・トリスタ様は唯一の女騎士!騎士団長だった事もあって、王様から1番信用される人なのよ!」

 イザベルの熱がすごい。

 キラキラと輝いてる、イザベルの瞳には星が住んでいた。

「イザベルは、その人に憧れてるの?」

「ええ、そうよ。私は、ルリ様の元で従事する事を夢に見て、この学園に来たんだから!」

「イザベル、お前はルリに憧れていたのか」

「はい!そうです!」

 聞き耳を立てていたユリウスが、イザベルの言葉に反応して、微笑んだ。

「ならば、今日は運がいいな」

「え?」

 その言葉の意味を、セナ達はすぐに知る事になった。



「初めまして、ボクの名前はルリ・トリスタ。今回、1年1組の担当になりました」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 もはや絶叫の様な歓声だった、でもそれは、イザベルのみの歓声ではなく、他クラスの女子達も同様の反応だった。

「おや、ボクを知っているのかな」

「は、ははは、はい!!あの!私、イザベル・ステインといいます!!」

「ステイン・・・。もしかして、アリエル・ステインの?」

「そ、そうです!!わ、私のお母様です!!」

 どうやら、ルリ側もステイン家との関わりはあったらしく、イザベルを見て、懐かしむ様に笑った。

「そうか、実はボク、アリエル様に指導されていた身なんだ。はは、不思議な縁を感じるよ」

 銀髪が揺れる、頭を下げて、騎士としての一礼をイザベルにしていた。


 そんな2人を見やりながら、セナは前に留まっている竜車の方に興味深々だった。

「ねぇ、あれってあの竜が動かすの?」

 その言葉に答えるのは、聞き慣れない声だった。


「そうだ、調教された小竜だから。安心しろ、襲われる事はないぞ」

「ロイド先生?」

 

 ロイド・パニスター、本来なら3年の剣術科の先生だった、セナとは完全な初対面だった。


「ロイド・パニスターだ。よろしくな、本物さん」

「あ、き、聞いてたんだ・・・」

「当たり前だろ、あんな場面。長くここで働いてるけど、見た事がないぜ、威勢がいいのはいい事だぞ」

 煙草を吹かしながら、悪戯に笑いかけてくる。

 セナは少し恥ずかしそうに、俯いた。

「あの、ロイド先生は何故ここに?」

 アーバンが疑問を投げかける、セナとアルマデルも同様の疑問を抱えていた。

「お前達の担当教員だからだよ、よろしくな」

「よろしくお願い致します。ロイド先生」

「ああ、問題児2人の面倒は、ちゃんと見てやるよ」


「あぅ」

「むっ」


 セナとアルマデルは、教員達からすれば完全な問題児として映る事になってしまった。

 不意に、笛の音が鳴った。


「時間だ、さぁ、みんな。出発の時間だ、荷物を持って竜車に入ってくれ」

 ルリの心地の良い声が響く、こうして1年1組の成績上位者4人は、黒く塗られた如何にも貴族専用の竜車へと乗り込んだ。


「おぉ、ふかふかだ」

「何でもはしゃぐわね、竜車に乗る事ないの?」

「うん」

 その言葉に、イザベルとアーバンが目を丸くした。

「珍しいな、あまり遠くには行かないのかい?」

 竜車は貴族がよく扱う交通手段であり、金貨数枚で他国へ移動出来る便利なものだ、脚は速く、揺れをあまり感じないのが利点だった。

「んー、下町の方にはよく行くよ」

「下町?学園からかなり距離あるわよね?遊ぶなら貴族街の方がいいわよ〜」

「え、あ、その、う、うーん」

「セナは貧乏性なので、あまりお小遣いを使いたくないらしいですわ」

「あら、そうなの?」

 貴族トークについていけないセナは、アルマデルの救いの言葉に深く頷く。

 アルマデルは察してはいるが、イザベルとアーバンはセナを貴族だと信じきっている。

 アーバンに関しては、ホワイトデイと共に入学試験に来ている事も知っている。

「う、うん。お、お小遣い少ないから」

「そうだったのか。その割には、君はよく学食を注文するな、そこにお金を使って──」

「あ、あー!!お、お腹すいた!」

 無理矢理、話題を変えて、セナはポケットにしまっていたりんごを取り出す。

「貴女、それいつの・・・?」

「今日のお昼のだよ、残しといたの」

 見てて、と言って、セナはりんごを持って、目を瞑って集中し始めた。


「えい」


 その声と共に、魔法陣が展開されて、すぐさまりんごが4等分された。

「じゃん、どう?」

 得意げに微笑みながら、3人に目を配らせるセナ。

「い、今の魔法か?」

 アーバンは驚く。

 魔法に精通してる訳ではないけど、先程の魔法は何かとセナに問いかける。

「うん、まだ名前をつけてないけど。果物とか切る魔法だよ」

「変な魔法でしょう」

「変、だけど、君らしいな」

「便利な魔法ね〜!」

 綺麗に分けられたりんごを、みんなに差し出すセナ。

「はい、みんなで食べよ」

「お腹、空いたと言っていたのに・・・。いいのかい?」

「うん。私が・・・あげたいと思ったから」

 これがセナだった、いや、セナはこうなった、というのが正しいか。

 誰かに渡す理由を考える様になった。

 受動ではなく、能動。

 少しずつだけど、自分を持てる様に努めようと頑張っている。

 そんなセナの成長を見て、アルマデルは笑った。

「ふふ、食いしん坊の癖に。じゃあ、遠慮なく」

「私も〜!ありがとう、セナ!」

「僕も頂こう、セナ、ありがとう」

 ひとつが4個になって、分け与えられる。

 なんて素敵な事なんだろう。


 セナは変わった訳ではない、今でも根っこの部分は無い。

 けど、それでも、自分を少しでも大切にしよう、と心に決めていた、大切な友人が悲しんでしまうから。

 

 ──だから、自分も大切にしたい。


 赤く煌めくりんごを齧って、セナはこの景色を楽しんだ。


 馬車とは違う、緩やかな揺れを感じながら、4人は時たま会話を挟みながら、この旅路を楽しむ。

 光と闇が表裏一体の様に、世界は明るさを忘れて暗闇を思い出した。

 竜車の速度が落ちるのを感じる。


「失礼、今は大丈夫かい?」

 扉を開けて、ルリとロイドが竜車に入って来た。

 キャビンの中は広く、狭さを一切感じさせなかった。

「はい、大丈夫です!」

「・・・1人、寝てるな?」

 ロイドの視線の先、そこにはアルマデルの肩を借りて眠りこくるセナがいた。

「起こしますか?」

「いや、大丈夫だ。お前ら、体調が悪いとかはないか?」

 セナ以外の3人は頷く、それを確認して、ロイドは何かをチェックする。

 一応、今回は郊外学習という程があるため、生徒達の健康チェックを行うのは必然の事だった。

「よし、元気があんのはいい事だ。俺はもう行くが、ルリさんはお前達に話があるらしい、ちゃんと耳を傾ける様に」

 バタン、と言って、ロイドはキャビンを後にした。

 昼とは違って、竜車の速度はだいぶ落ちいてる。

 魔物を警戒して、3台で進んでいた竜車は纏まるように進んでいる。

 ロイドの人影が、後ろの竜車へと移動していく。


「今回の現地調査の話をしようと思ってね」

「セナ、起きなさい」

「ん、うーん・・・」

 2人のやり取りを見て、ルリは微笑む。

 仲慎ましいのはいい事だと、言っている気がした。

「ははは、大丈夫だよ。アルマデルさん、眠れるうちに眠るのは大切だ」

 適当な座席に座って、ルリの銀髪が窓から差し込む月の光を反射する。

 絹糸のような髪は、しっかりと手入れされており、一本一本が輝く、存在感を一層感じる。

「さて、今回はレヴァーティア近辺の森、ユネル森林の調査をする事になった」

 

「ユネル森林、ですか」

「レヴァーティア・・・」

 アーバンは眠りこくる、セナを見やる。

 厳密にいえば、セナの持つ灰色の髪だ。

「レヴァーティア、行った事ないわね・・・。それでそれで!!ユネル森林に何か問題が!?」

 気持ちを切り替えて、イザベルは尋ねる。

 勢いに飲まれる事なく、ルリは説明を続けた。


「最近、といっても1ヶ月弱前に、竜の存在を確認した」

 

「えぇ!?」

 驚いたのはイザベル、そんな馬鹿なという表情で憧れの存在、ルリを見ている。

 

「・・・ふむ、竜か。あの時の若い黒竜か」

 ミラの呟きは誰も聞こえていない、唯一聞こえる人間は夢の中にいる。

 

「竜・・・、一体なぜ」

「普通の竜でもないんだ、黒竜、[巣窟竜]とも呼ばれてるね。この個体は、本来なら渓谷に生息する魔物でね。森林に姿を現す事はないんだ」

 外の景色を見る、遠い場所に森林が見えてくる。

 件の森林、ユネル森林だ。

「まさか、僕達も竜討伐の・・・?」

 アーバンの言葉に、アルマデルとイザベルの表情が強張る。

 竜というのは災害のひとつとして数えられている。

 それこそ国が動いて、やっと討伐できるレベルなのだ。

「違う違う、そんなことさせる訳には行かない。さっきも行ったけど、ボク達の役目は現地調査だ」

 一同、胸を撫で下ろす。

 

「それに、心配しなくともいい。なんせ黒竜は死んでいるからね」

 

「え?」

 一同、驚く。

 竜が死んでいる。

 それはおかしい、国が動いてやっと討伐できる存在だ。

 隣国のエルセルクに対して、竜接近の警告もなく、レヴァーティアが仕留めたのか。

 違う、仕留めたのは国ではない。

 

「やはり、あの時の若い黒竜か」

 セナの横で漂う、黒色の魂、ミラが滅ぼしたのだ。


「死骸跡を見つけたのは、3週間前、魔物特有の死後の魔力で、森林の一部が汚染されたらしい」

「魔法の森、という奴でしょうか」

「一種の汚染地域ですわね。竜1匹で、まさかそんなになるなんて」

「竜の身体は7割魔力で出来ている。一部とはいえ、魔法の森と化すには十分だ」

 魔力7割、肉体は3割。

 膨大な魔力は、死後、辺りに溶け込んで汚染されていく。

 竜が死んだ地域は、魔力溢れる危険で神秘的な地域としてひとつの観光スポットになっている。

「それで、今回は竜は出ないが、魔力に釣られる魔物は現れるだろう。みんな、魔物との戦闘経験は?」

 イザベルとアーバンは手を挙げる、剣術科2人はあるらしい、魔法科は手を挙げない。

「お恥ずかしながら、一度もありませんわ」

「心配はいらないよ、現地に着けばボクは君達にも気を配るつもりでいるけど、ロイド先生がいるからね」

 先程の軽薄な煙草を加えた教師、ロイド・パニスターを思い浮かべる。

 そんな人に、背中を任せていいのかと、アルマデルは疑問に思った。

「おや、もしかして彼の実力を疑っているのかな」

「・・・正直」

「ははは、まぁ、それも仕方ないか。彼は爪を隠すのが得意な人間だから」

「ルリ様は、ロイド先生と面識があるんですかっ?」

「まぁ・・・、そうだね少し」

 詮索しようと、イザベルが身を乗り出そうとしたが、ルリが先に生徒達に問いかける。

「君達は、どんな夢を持ってるのかな」

 

 夢。

 曖昧で、近くにいるのに遠い存在。

 綺麗でもあり、残酷な道標をルリは問いかけた。

「僕は、騎士に入隊して、父の様に国に貢献できる存在になりたいです」

 ジョエル・ロックス、アーバンの父親にして国に使える騎士である、それも王の側近。

「そうか、ジョエル様の様な騎士に。うん、良い夢だね、応援しているよ」

「ありがとうございます」

 とても大きな志だと認められる、それが嬉しくてアーバンは顔を綻ばせた。

「私は、魔法協会の人間になりたいですわ」

「宮廷ではなく?」

「はい、現代の魔法よりも、過去の魔法に興味があるので・・・」

 宮廷魔法使いは、現代の魔法をより洗練し武力へと変換する、謂わば魔法を武として扱う人達だ。

 対して魔法協会は、過去の魔法を読み解き、新たな魔法を発見し、法典へと纏める魔法の研究者。

「そうか、現代の魔法使いとしては珍しいね。ボクはあまり魔法に詳しくないけど、協会を目指す生徒は減っているらしいね」

「門が狭いですから、名門の出でも教会に属せる人はごく僅かです」

「ふむ、じゃあ、一層気合を入れないとね」

 アルマデルは頷いて、肩で眠りこくセナに視線を向ける。

 優しく、頭をポンポンと叩いてみれば、むにゃむにゃといいながら嬉しそうに微笑んでいる。


「イザベルさんは?」

「え!?あ、わ、私は・・・。その、2人みたいに立派な夢では・・・なくて」

「ルリ様に従事したい、だったか?」

「おや?そうなのかい」

「あ、そ、それもあるんですけど!」

 俯いて、モジモジとしている。

 関わることが多いアーバンから見ても、今のイザベルはとても珍しく映った。

「ぜひ、教えて欲しいな」

「・・・私は、騎兵隊に入隊して──」



 兄の命を奪った、悪魔を殺したいです。



 セナは、まだ夢の中にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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