君と並ぶ
読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価をしてくれた方、ありがとうございます。
中庭を支配したのは、冷え切った空気と固唾を飲み込みたくなる沈黙だった。
全ての人間、例外は無い、文字通り。
10組の魔法科、5組の剣術科。
総勢、148個の瞳がセナに向けられている。
「・・・お前がここに立つ資格は無い、剣術科に戻れ」
「戻りません」
セナの前に立つエレンはソソッと、横に逸れる。
この2人に挟まれるのは、あまりにも居心地が悪かったから。
「例外は無い、お前は成績上位から落ちている。諦めて後列に戻れ」
「戻りません」
グィルの顔が、少しだけ苛立って見える。
2人の会話、周りの生徒達は何も言えない、というよりも纏う空気が重過ぎて、口を開きたくないというのが本音だ。
「何故、こだわる?お前は剣術科で上位に入っているだろう、何が不満だ」
普通の生徒なら、グィルの眼力で怯んでしまうだろう。
けれど、セナは違う、こんな視線には慣れている。
だから悠然と確かに、言葉の数々に反論する。
「未完成の剣術を評価され、3位に入っても納得は出来ません」
「しかしそれが結果だ。お前は評価され、本来ならそこの空間にはお前がいるのだ」
誰もいない空間を指差す、そうだ、ここはセナの居場所だ。
セナが評価されて、セナが勝ち取った、セナの席だ。
イザベルと目が合う、楽しそうに手を振られた。
「もう一度聞く、何故そこにいる?」
「──魔法使いだからです」
「話にならん」
話を無理矢理切り上げて、グィルは無視をする事に決めて、口を開こうとする。
止まった。
いや、セナの言葉で止められたのだ。
「ここにいる魔法使い達は、取るに足らない未熟者だ」
セナを知る者は、その言葉を聞いて驚愕する。
まさか、あの子がそんなことを言うとは。
「私が・・・、立つべき場所はここ」
「セナ・イディアル、お前の先の言葉。撤回をするなら今だぞ」
「する気はない」
淡々粛々と、己の存在証明を口にする。
「ここにいる魔法使いは、偽物だ。誰かの真似事をして自分を持てない人間の集まりだ」
視線の質が、変わる。
そう慣れた、慣れてしまった、敵意という名の視線達。
セナは、続ける。
はっきり言って、無理をしている。
思ってもいない事を言うのは、とても心苦しい。
けど、セナはもう止まるつもりはない。
止まってしまえば、1番前にいるあの少女に近づけないから。
だから、セナは無理矢理前へ進む。
「私の考えた10個の魔法を書き換えた。それだけの功績で、お前達はそこに立つ資格があるのか」
「んだと・・・!」
「わ、私達は・・・、ちゃんと法典も読み解いて評価されてるの!!」
「結局は真似でしかない、一項目から八十項目をなぞる事だけが魔法使いのすることなのか」
「わ、悪いのかよ!」
「なら、この学園に相応しくないのはお前達だ」
1組の魔法科、アルマデル以外の4人がセナを見やる。
その言葉の真意を問いただす。
「自分の使いたい、覚えたい魔法も持たないで、魔法使いを名乗るな」
「──ッ!!」
「法典をなぞり続けたいなら、それで構わない。でも、それだけの理由でそこに立つなら、私に場所を譲れ」
セナの演説は続く、誰も口を開けない。
グィルですら、灰色の少女の言葉を待っている。
「偽物が、本物の前を歩くな」
これは、宣告だ。
自分の首を絞める行為だと分かっている、でも、それでもセナは守るために。
アルマデルがくれた言葉達を思い出す。
笑ってしまう、怒られて当然の事をしていた。
色々と教えてもらって、やっと自分の物にしたというのに、自分から手放して笑っているんだから。
僅かに芽生えた悔しいという感情が、水を与えられたみたいに育ち続ける。
「小賢しくて、矮小なネズミ共め。基礎ばかり固めて、凝り固まった頭は飾りなのか」
「ふははははは!!!」
ミラ、爆笑。
ホワイトデイ、笑顔で睨む。
「イディアル、お前の前に立つ生徒達は、それを武器にしてここに立てたのだ」
「過程を尊重出来ない魔法に未来はないよ」
「魔法は結果しか残らないのだ、その結果を未来に渡している」
「魔法は人の価値観と意味に触れて、可能性が広がる力。私はそう信じている」
「信じるだけではダメなのだ」
「なら・・・証明する」
また、指を刺す、他の人間ではない。
この、青くて綺麗な晴天に。
「私の名前は、セナ・イディアル。この名を以て、本物の魔法使いとして・・・。アルマデル・ヒースクリフ」
「──ぁ」
やっと振り向く、友人の瞳はルビーみたいに輝いている、揺らいでいる。
初めてお互いに視線を交わし合えた、そんな気がする。
「貴女を、私の目標にする。誰にも理解できない、私の魔法を法典に刻み込んでみせる」
「・・・セナ──、さん」
セナの瞳は不安に満ち溢れている、それでもアルマデルと並ぶためには、これぐらいの覚悟を持たないとダメだ。
「アルマデル・ヒースクリフ」
息を吸い込んで、吐き出す。
「解けるものなら、解いてみろ。私が認める、魔法使いめ」
「好き勝手言いやがって・・・!!なんなんだよ、テメェは!!」
「あ、貴女なんてアルマ様の足元にも及ばないのに、よくもそんな見栄を張れるわねッ!」
これで良い、セナは踵を返して、歩き出す。
「今は、こんな瓦礫の山に立っても意味がない。こんな人達の上に立っても、大した事には──」
「言ったわね、セナ」
その言葉に、セナの表情が強張る。
壊れたブリキ人形の様に、ギリギリと首を動かした。
アルマデルが、側まで来ていた。
「さっきから聞いていれば、落第生の貴女が法典に魔法を刻むですって?笑ってしまいますね」
「う、ぐ・・・」
「でも、そうですわね。貴女の言う通りですわ」
「ぇ」
アルマデルの手がセナの腕を掴んだ、グイッと引っ張られてセナは、よろめくも、倒れはしなかった。
「こんな偽物達の1番になっても意味はないわ、──そうね。貴女の魔法を解いた時に、私が1番になってあげるわ」
自信満々に、意地悪な笑顔を浮かべて、冷や汗をかき続けるセナに微笑む。
「だから、私は辞退します。1位なんてそこら辺の犬にでも渡してください、グィル先生」
「──、はぁ・・・」
「この、大馬鹿者を下した時に、1番になってあげますわ」
笑う。
──そうだ。
アルマデルさんは、こういう人なんだよ。
いつも自信満々で、セナの言葉に喰ってかかって、一緒に学んでくれる。
「その時の2位は、貴女。ですわよね?本物さん」
「は、はは、は。い、1位はわたしだよー」
中庭を去ろうとする2人を、厳格な声が止めた。
グィル先生、セナとアルマデルの担任だ。
「・・・イディアル、染まるなとは言ったが、尖れとは言ってない」
「ごめんなさい」
「──、認める。セナ・イディアル、6人目としてそこに並びなさい」
「・・・いやでも」
あんな啖呵を切っておいて、今更、はい、わかりました。
とは言えない、バツが悪そうに目を逸らすセナ。
「これは、教師達の頼みでもある。今回の郊外学習は参加する価値がある」
「う、うーん」
「ヒースクリフ、お前もだ」
「嫌ですわッ」
グィル先生、頭を抱えてため息をつく。
問題児2人を抱える教師というのは、途方もなく大変なのだ。
「我らはお前達生徒に、荊の道を提供するつもりはない。
この責任を、甘んじて受け入れろ」
はぁ、とまた3回目のため息を吐く。
「今回の授業は、お前達の確かな経験になるぞ」
「待ってください!!」
止めたのは、4位のジュダスだった。
「どうしてですか!今、セナ・イディアルは我々の事を侮辱したのですよ!?あの言い方は・・・、今ある魔法体系への冒涜だ!」
「時間が押している、手短に言うぞ」
「──?」
「魔法を神聖化した時点で、それは最大級の侮辱だ」
「は・・・」
言葉を失う、ジュダスは何も言えない。
「お前達は、魔法というものに敬意を持ちすぎ、憧れを持たない。そこまでの価値は無いのだ」
「な、何を言ってるんです!!ほ、法典を学ぶと言うのは!!魔法使いの当たり前ではないですか!?」
「学んだのか?お前は模倣しているだけだろう、考えたか?他人の魔法を弄っただけだろう」
「・・・ッ!」
「な、なんでアルマ様・・・。貴女も、こちら側の筈ですよね」
絶望を浮かべた表情で見るのは、エレンだった。
上位者の末端、アルマデルと一緒にいた生徒だった。
「ほ、法典の魔法を語る貴女の口ぶりは本物でした。なのに、なぜ・・・。そんな基本も出来ていないセナ・イディアルに肩入れするんですかッッッッ!!」
「・・・エレン、貴女は勘違いをしているわ」
「え──?」
「私は、魔法と法典を愛している。刻まれた歴史を見て、たくさんの魔法を紐解いたわ」
「な、なら!」
自分と同じ価値観を持っている。
多くの魔法を学んで、理解し、扱える事で魔法使いとしての志を磨いて──。
「これを」
「アルマ様の・・・法典」
渡された法典、それを見れば、アルマデルが扱える魔法の数と、どこまでの項目を理解したかを確認できる。
「300・・・流石は、アルマ──さ、ま」
エレンはその法典を見て、言葉を失った。
こんなことが、あっていいのか?
輝く項目が、バラバラだった。
「な、なんで!!どうして!?」
一から十、かと思えば飛んで三十二から三十四。
飛んでいる、アルマデル・ヒースクリフは、法典をなぞっているわけではない。
「知りたい魔法を知り、知りたい歴史を知り、扱ってみたい魔法を理解しているの。選んでいるのよ、エレン」
「・・・あ、貴女というものが、こんな──」
なんて、節操がなくて汚らしいのか、法典をお菓子か何かと勘違いしているのか。
平たいに言えば、下品だ。
ヒースクリフの名を持つ名家が、節操なしに魔法を選んで良いものなのか。
一から学ぶことが、法典の絶対なのに。
「ヒ、ヒースクリフ家の人間が、この様な事を」
「ヒースクリフ家の人間だからよ。私は、好きな魔法を選ぶ力と、才能があるの」
渡した法典を取り上げる、どこか得意げに笑っているアルマデルは、グィルに言われた通りに列に並んだ。
「私こそが、真の魔法使いよ。好きな魔法を選び取れるんだから」
──やはり、アルマデルはこうでなければ。
ブクマや評価ポイントを貰えるのはとても嬉しく、自分のモチベーションにも繋がります。これを書いていてもいいんだと、肯定される気がして。
これからも、セナ達をよろしくお願いします。




