魔法の扱いについて
魔法の扱いに例外は存在しない。
物事には全て工程、及び過程を必要とする。
それら全てをなぞって、初めて魔法という現象が発生するのだ。
「セナさん、貴女はどんな魔法が使えますの?」
「・・・」
アルマデル・ヒースクリフの質問に沈黙を返す、セナ・イディアル。
無視している訳ではない、必死に自分が使えそうな魔法を考えている。
「え、あの、火を出せる」
「誰だって出来ますわよ。なんて名前ですの?」
「・・・[原初の火]」
「聞いた事ありませんね、過去の法典に載っていた魔法ですか?」
「わかんない」
その答えにアルマデルは頭を抱えた。
「わからないのでは、今回の授業が進みません」
今行われている魔法科の授業、お互いの扱える魔法を理解し、教え合う。
それなのに、セナはわからないと言う。
こんな調子ではアルマデルとセナの課題は完了できない。
「えっと、私の考えた魔法だから」
「独自魔法ですか、珍しいですね。見せてくださる?」
そう言われ、セナは了承する。
目を閉じて、試験の日に発動した自分の考えた魔法、思い出の火を連想する。
熱、魔力を火に変換させて、魔法術式、演算、頭の中で陣を展開する。
すれば、たちまち空中に魔法陣が展開されていく。
「[原初の火]」
ボッ、と発火する。
なんと弱々しい火だろうか。
「・・・な、なんて単純な魔法ですの」
「ごめん」
「貴女!!よくこの学園に入学できましたね!?」
「えへ」
「褒めてないですわぁぁ!!!」
地団駄を踏んで、何故だか悔しそうにしているアルマデル。
それをセナは面白そうに見ている。
「何を笑ってますの!?」
「いや、可笑しいなって」
「おかしいのは貴女ですっ!!」
これ以上話をしても埒が開かない、アルマデルは諦めてセナの魔法を再現する。
「・・・[原初の火]」
アルマデルがそう唱えると、先程と同じ、あまりにも弱すぎる火が現れた。
「おぉ、凄い」
「誰だってできます!!それこそ、そこら辺の子供だって出来ますよこれぐらい!」
「凄い」
「貴女と話してると疲れますわ!!」
大きなため息を吐きながら、項垂れるアルマデル。
煌めく様な金髪は、どこか霞んで見えた。
「・・・まぁ、いいですわ。貴女の考えた魔法に色々ケチをつけるものではありませんし」
「ありがとう」
ペンを動かす、先程の魔法を理論で解明しているのだ。
それ即ち、セナの感じた何もかもを言語化して落とし込む。
「はい、これ」
「・・・これが、私の魔法?」
二行で終わっている、魔力演算の数式、現象への理解、必要な魔力の量、重要なイメージなど。
「そうですわ」
「短くない?」
「それぐらい単純なんですよ!?ほら、見てくださいまし!!この魔法を!」
例として、アルマデルは法典に載っている魔法を見せてくる。
確かにそこには、何ページも使って表された魔法達の解説が載っている。
「貴女の魔法では、登録された所ですぐに誰かが塗り替えますわよ」
「ダメなの?」
「貴女の歴史が潰されるんですよ?」
「・・・うん?」
ダメなの?と言わんばかりに頭を傾げられる。
これはダメだ、根本的に魔法への理解が違った。
「悔しくないんですか?自分の魔法を、他の誰かが改良してより良いものとするんです、この意味がわかります?」
「わかんない、ごめん」
「自分よりも赤の他人の方が上手く扱えますよ〜、って言われるんです!!これ程悔しい事がありますか!!」
「でも、誰かが私の魔法を見つけてくれたって事じゃん」
いまだに立ち上っている火を見つめて、セナはそれに手を近づける。
とても暖かくて、優しい火だった。
「この火が、誰かを暖めてくれるんだもん。それって凄く嬉しい事だと思うよ」
「・・・わかりません、貴女は自分の魔法に誇りは無いんですか?」
「誇り・・・」
焚き火の様に優しい火を見つめる、セナの金色の瞳が光を反射して、アルマデルの金髪よりも輝いている。
「誰かに見つけて貰えるのが、私の誇りだよ」
アルマデルは理解する、理解出来ないという事を理解した。
この人は、魔法使いの様で魔法使いでは無い。
「そう・・・ですか」
そして、自分の魔法への理解が、少しずつヒビが入っていると、分かってしまった。
「この火は、名前も知らない誰かのための火だもん」
原初と付けられたその意味、誰かにとってのきっかけになれるのなら、セナはそれで良い。
誰かが自分の魔法を見て、夢を見てくれるのなら、それはとても綺麗で素晴らしい事だ。
「それに、私だって悔しさは多少感じるよ」
「なら──っ」
「だからこそ、この学園に来たんだから」
ニコッと楽しげに笑われる。
毒気を抜かれた様に、アルマデルは少しだけ微笑む。
そう、別に目の前の少女はお遊びとか剣術科のついでで魔法科を受けている訳ではない。
欲張りな人間だ、きっとどちらも大事だから、どちらも手放せなかったのだ。
「この火は未来、どんな火になるのかな」
セナは楽しげに、この火がどう成長するのか、楽しみで仕方なかった。
アルマデル・ヒースクリフは魔力の法典を解き明かす事に喜びを感じていた。
知識が身になっているというより、積み上げられた人間の歴史をとても尊ぶ人間だった。
しかし、だからこそ、埋まる歴史に共感できない。
だって、魔法だけが残って、自分は忘れ去られるのだから。
とても悲しくて、悔しくて、残酷な事だと思う。
「アルマデルさんは?どんな魔法を使えるの?」
「・・・たくさんありますわよ」
「そうなんだ、凄いね」
魔法科の授業、ホワイトデイに言われた法典への言葉。
──法典は、読書に読むくらいが丁度いい。
「貴女のために、簡単な魔法を発動しますので。感謝してくださいね」
「わかった」
頭の中で、比較的初歩的な魔法を発動する。
名前なんてない、初級の魔法は全ての基盤故、命名する人間などいなかった。
「・・・なんて名前の魔法?」
「名前は無いです」
「なのに、法典にあるの?」
「魔力演算の工程に過ぎませんから、これは発動ではなく処理です」
「・・・??」
まぁ、言ったところで理解は出来ないだろう。
「貴女の魔法は、これと同じレベルです」
「そうなんだ」
人によっては、決闘開戦の口火になりそうな発言も、セナ・イディアルには響かない。
馬鹿にはするが、決定的な違いはある。
そこには何故、炎なのか、という意味がある。
「この火に意味はありません、貴女のとは違って、所詮は魔力の変化、熱は感じても、実際の火ではありません」
「・・・?」
「はぁ・・・。この段階では、ただの魔力。という認識で構いません」
「分かった」
「そこに、新しい解釈を加えます。例えば、分裂して、球のように浮かべるとか」
お手本のように、アルマデルは魔法陣を展開して火の玉を浮かべた、4個の火球がミラのように浮いている。
これなら、自分でも出来そうだな、なんてセナは呑気に考える。
「解釈はお伝えしました、どのように演算をしていると思いますか?」
「・・・こう、あれだよね。ブツって、炎を切ってね」
「は?」
「わかんない」
ため息を吐く・・・ことは、しなかった。
しなかったけど、アルマデルは腰に手を当てて、聞き分けのない子を叱るような目つきでセナを見やる。
「わからないなら、ちゃんと言ってください。これは共同授業なんですよ、お互いに助け合わないと、良い評価は貰えません」
「グィル先生なら、甘く採点してくれそうだけど」
「目が節穴だと大変ですわね」
「ひどい」
はぁ、と今度はちゃんとため息を吐いた。
アルマデルはセナの横に並んで、いまだに手付かずの紙を見て、尋ねる。
「何がわからないんですか」
「えっと・・・。全部」
「──わかりました、ではもっと基礎的な事を言います」
こうして、2人の魔法実習は時間終了ギリギリで課題を提出出来た。
アルマデルは良評価、セナは可評価だった。
こうして、セナは戸惑いながらも学校生活に馴染んでいく。
友達と呼べる友達は、3人ぐらいしか出来なかったが、それでも毎日が新鮮で、輝かしい日々ばかりだ。
そんな日常を続けて、春を象徴する緑飛竜が3匹飛んだ、あと1匹増えれば、春は終わる。
いつも通り、セナは魔法科の教室で、アルマデルと共に教師を待って、扉が開いた。
「今から成績上位者を発表する」
これに連なれば、セナはまた一歩、前へと進めるのだ。




