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ケーキと流星


──最初の魔法。


「魔力の法典の著者賢者ヴィエゴが残したこの法典。所謂、初版。というやつですね、それを見た事がありますか?」

 ホワイトデイの問いに、生徒達は首を横に振る。

 それもそうだ、これは、魔法の始まり。

人類が想像も出来ないほどの過去なのだから。

「気にする事はありません。私も長く生きましたが、初版を見た事はありません、だって、もうこの世にありませんからね」


 そう、始まりはとっくに歴史の海へと沈んでしまったのだ、誰もが掘り起こせないほどに深く、次第に忘れられ、人は代わりを作った。


「長い年月の末、法典は何度も内容を変えてこの世に生み出されました」

 持っていた法典をパラパラとめくって、人類の歴史を愛おしそうに撫でる。

 それと同時に、寂しそうに。


「私は初めて、法典を見た時に。一冊目の一番最初の魔法は、なんだろう。そんな疑問を持ちました」

 その頃の自分は未熟で、法典の魔法を上書きする事が魔法使いにとっての名誉な事であると、本気で信じていた。

 それもひとつの正解だろう、けれど大切な事ではなかった。


「私はこう思います。賢者ヴィエゴは・・・ただ願ったのではないか?」


 鐘が鳴る。

 次は魔法の開発、生徒の自主性を重んじる授業なのだが

「続けます、お手洗いに行きたい人はどうぞ」

 けれど、立ち上がる生徒はいない。

「では、続けます」


「魔力の存在証明は、300年前に発見されたんです。おかしいとは思いませんか?では、原典を生み出したヴィエゴはどうやって魔法を見つけだしたのか?」


 賢者と呼ばれる様になった、一人の老人。

 今でもなお、各自で議論されている原点。


「私達は、法典があるから。魔法という存在を知っています。では、法典が無いヴィエゴは、どの様に魔法を見つけたのか?」

 恐らく、教室にいるすべての生徒、いや魔法使いはひとつの答えに辿り着くだろう。


「願ったんです、願ったんですよ」

 それを知ったホワイトデイは、自分の世界が広がった感覚に陥った、今でも忘れない、あの時の情熱と感動を。

「・・・」

「ミラ?」

「良い魔法使いだ」


 ミラの言葉は聞こえない、ホワイトデイはその時の情熱に浮かされて、言葉を繋げる。


「皆様の魔法への追求に、私は何も言いません。人の数だけ、理由があります。けれど、これは覚えておきましょう」

 ホワイトデイは、備えられていた教師用の机に座って、魔法で、ティーセットを取り出す。



「法典は、読書に読むくらいが丁度いいですよ」


 

 では、三時間目開始です。と添えて、ホワイトデイはティータイムへと勤しむ。

 どうやら、このまま魔法開発の担任も務めるらしい。


 セナは一人、うーんと唸っている。

「・・・」

 渡された紙に、ペンを構えている。

「いいから、何でもいいから書け」

「て、言われても・・・」

 魔法開発、なんて言われてもわからないのが本音だ。

 助けを求めるように、ホワイトデイに目を向ける。

「ぁ・・・ふふ」

 目が合って、軽く会釈する。

 そして、セナは閃いた。

「お、思いついたか?」

「うん」

 セナは頭に沸いたイメージを書き写すために、渡された紙に色々と書き記していく。

「セ、セナ・イディアル」

「ん?なに?」

 甲高い、声は鳴りを顰めて、耳に届いたのはこちらをほんの少し配慮した声圧。

「あ、あな、あなたは・・・どんな魔法を思いついたのかしら?」

「アルマデルさん・・・?」

 意外にも、先程セナをいびっていた嫌な貴族、アルマデルだった。

「べ、別にあなたを認めた訳ではなくてよ。ただ、私の持っていない視点を貴女が持っているから、聞いているだけです」

「ああ、うん。私の考えた魔法を知りたいんだね」

「え、もう思い付いたの?」

 その言葉に、セナは薄く笑った。

 自信満々で楽しそうに、名一杯の期待が込められている。

 

「見て、ケーキを出す魔法」

 

「・・・は?」

「ホワイトデイさんのティーセットを出す魔法を見て思い付いたの、どうかな」

 それは、大海を唸らせるとか、業火を生み出すとか、落雷をぶつけるとか、そんなものじゃない。

「先に言っときますわ、あれはただの転送魔法。どこかから持ってきたんです」

「え、魔法で生まれた訳じゃ無いの?」

「当たり前じゃない。魔法は魔力で出来てるのよ?」

 それすなわち、味とか色々再現したところで、お腹が膨れない虚無感を味わうことになる、ということ。

 これは、魔法を扱う物として当然のこと。

「そ、そんな・・・」

「あ、貴女に聞いたのが間違いでした・・・っ」

 項垂れるアルマデル、それを他所にセナは、漂うミラへと問いかけた。

「出来ないの?」

「知らん、そもそもそんな事しようと思わん」

「じゃあ出来るんだ」

「やってみろ」

 面白い、と鼻で笑って、セナの魔法を肯定する。

 それを聞いて、紙に自分のイメージを書いていく。

「・・・あの、貴女。誰と話してるんです?」

「──よ、妖精。私だけが会話できる」

「は?」

 こいつマジで何言ってんの?という顔を、アルマデルは向けた。

「いる訳ないでしょ・・・。とりあえず、そんな魔法よりも他の魔法を考えなさい!」

「出来るかもしれないって、妖精は言ってるよ」

「妖精ではない」

「そんな奴の言葉信じないでください!!」

「よく言ったな小娘」

 騒がしいセナ達を見つめて、ホワイトデイは優しく笑った。



「・・・うーん」

「今度は何を考えたのよ」

 また頭を捻るセナを見て、アルマデルは奇妙な瞳と好奇心で、問いかける。

「流星を出す魔法」

「流星?[墜落する破壊(ディバインユタ)]?」

「それはただの隕石だろう、アルマデル」

 聞こえないのに、ミラはアルマデルに突っ込む。

 どうやら、法典に載っている魔法だったのか、アルマデルは法典を見せる。

「ほらこれ、百六十項目目、[墜落する破壊(ディバインユタ)]。一種の岩石魔法よ」

「違う、私は流星の魔法を言ってるの」

「ますますわかんないわよ・・・」

 隕石と流星の違いを貴族であるアルマデルはわからない。

 どちらも、同じではないのか?

「隕石は落ちてくる石でしょ、流星は空を走る光なの」

「・・・?」

「だから、流星は光なの」

「──?」

 どこか力説するセナの横で、アルマデルはただ唖然とするのみだった。

 流星と隕石なんて、どちらも空からの飛来物にしか過ぎない、その結末だって同じ筈なのに。

 何が彼女を、ここまでこだわらせるんだろうか。


 三時間目が終われば、昼食の時間だった。

 セナはホワイトデイからのお小遣いが詰まった財布を持って、学食へ向かう。


「セナ・イディアル」

「ん?」

 セナに声をかけたのは、先程まで一緒に魔法を考えていた、アルマデル・ヒースクリフ。

 金髪の髪を靡かせながら、その表情は真剣そのものだった。

「貴女と昼食を共にしてあげる、光栄に思いなさい」

「・・・アルマデルさん」

「魔法に対する抗議を続けましょうって、言ってるの。ほら、行くわよ」


「ごめん、私次の授業から剣術科の方だから・・・。別棟の学食に行くつもり」

「──は?」

「アルマデルさんも一緒に来る?」

 それは、イディアルという名前の根本をひっくり返す様な、冷めた一言だった。

 それと同時に、アルマデルの情緒を刺激するノンデリカシーな言葉だった。

「あ、はぁ!?イディアルという名前は飾りなのかしら!?」

「ホワイトデイさんが勝手につけた」

「え、貴女・・・。名門の出じゃないの?」

「・・・き、貴族だよ」

「ちょ、待ちなさいッッ!!」


 そうして、気がつけば二人は剣術科の棟へ辿り着いてしまっていた。


「はぁ、ぜぇ・・・ま、待ちなさい」

「アルマデルさん、しつこい・・・」

「あ、あなたねぇっ!!イ、イディアルという名前の重みを知らないんですか!?そんな、期待の込められた、名前なの、に・・・。剣術科も受講するなんて・・・」

 絶え絶えな呼吸の中、アルマデルはどうしてもそれを言いたかった。

 それがたとえ、偽りの貴族の名であっても、重みを理解するべきなのだと。

「名前は名前だよ。それ以上の以下でもないじゃん」

「──、貴女ッ!!」

 振り絞って生まれた怒号、魔法ではないのに、空気が震えた様な感覚に陥る。

「ごめん、アルマデルさんにとって、私はよく映らないよね」

「・・・ええ、とても」

 セナにとって、それはわかりきっている事だ。

 今日は改めて、それを痛感した。

 自分の魔法に対する価値観を、周りから否定されて、自分の生きてきた過去がどれだけ乖離していたかを理解した。

「でも、嬉しかったよ。アルマデルさんが、話しかけに来てくれて」

「〜っ、そ、それは!!違くて・・・、貴女が、変な人だから」

「ありがとう。お礼に、学食は私が奢ってあげるね」

 こうして、存外相性?が良いかもしれない二人は、お昼を共にするのだった。

 

 

 

 

 

 

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