添付‐第4話 誠一郎の経営改善案
品質管理部による、全社的コスト構造改善、及び、生産性向上に関する提言
提出日: 2025年6月22日
提出先: 代表取締役社長 高梨 英治 様
提出者: 取締役 品質管理担当 鈴木 誠一郎
1. 本提言の目的
本提言は、現在、弊社が直面している深刻な経営危機に対し、対症療法的なコストカットではなく、品質管理部が持つ定量的データと科学的アプローチに基づき、会社のコスト構造を根幹から見直し、生産性を劇的に向上させることで、持続可能な黒字化を達成することを目的とする。
これは、単なる「守り」のコスト削減案ではない。「品質」そのものを、弊社の最大の競争力(武器)へと転換させるための、「攻め」の経営改善計画である。
2. 現状分析:品質管理部から見た、経営危機の「真の病巣」
現在の営業赤字の主因が、原材料費の高騰にあることは、論を俟たない。しかし、それは、あくまで「症状」の一つに過ぎない。品質管理部が、長年蓄積してきたデータを分析した結果、その裏には、より深刻な、二つの「目に見えないコスト」が存在することが明らかになった。
2-1. 目に見えるコスト(製造原価の高騰)
・事実: 主力商品「福あかりまんじゅう」の製造原価率は、前期比で12ポイント悪化し、85%に達している。
・原因: 円安による、主要原材料(国産手亡豆)の仕入れ価格、約20%の上昇。
2-2. 目に見えないコスト(品質の「ばらつき」がもたらす、隠れた損失)
① 歩留まり率の悪化による、直接的損失
・データ: 原材料のロットごとの成分の「ばらつき」を放置したまま、同じ製造パラメータで生産を続けた結果、規格外品(硬さ、糖度のブレ)の発生率が、前期比で 3.2%増加 している。
・損失額試算: これにより、廃棄される製品の原材料費だけで、年間 約1,200万円 の、純粋な損失が発生している。
(製品不良率 詳細)
・前期: 1.8%
・今期: 5.0%
・悪化率: +3.2pt
・損失額(年間): 約1,200万円
② 非効率な生産工程による、労働生産性の低下
・データ: 工場作業員の動線データを分析した結果、一つのバッチ(約500個)を製造するのに、合計で約15分間の、非効率な移動(原材料の仮置き、器具の往復など)が発生している。
・損失額試算: この「無駄な時間」を、人件費に換算すると、年間 約850万円 の、労働コストの逸失に相当する。
③ 機会損失(未来への投資の、停滞)
・事実: 上記の、日々発生する品質問題への対応に、開発部および品質管理部のリソースが、過度に割かれている。
・結果: 本来、注力すべきであった、高付加価値の新商品開発や、顧客満足度向上のための施策が、完全に停滞している。これは、数値化できない、最大の「損失」である。
3. 改善提案:「品質」を武器にした、攻めのコスト構造改革
これらの「病巣」に対し、品質管理部は、以下の三つの改革を、同時に、かつ、早急に、断行することを提案する。
・提案①:原材料受け入れプロセスの超・厳格化(入り口管理の徹底)
・目的: 全ての品質問題の根源である、原材料の「ばらつき」を、工場に入れる前に、完全に、撲滅する。
・具体的施策:
・全ての納入業者に対し、弊社が定めた「品質基準適合証明書」の提出を、義務付ける。
・品質管理部の受け入れ検査において、糖度・水分量に加え、粘度・タンパク質含有量の項目を追加。基準値から±1.5%以上のブレが確認された原材料は、例外なく、全て、受け入れを拒否する。
・提案②:歩留まり率改善プロジェクト(不良品撲滅運動)
・目的: 製造工程で発生する、全ての不良品を「ゼロ」に近づけ、原材料の廃棄コストを、根絶する。
・具体的施策:
・品質管理部、製造部、開発部による、部門横断の「カイゼン・チーム」を発足する。
・全ての不良品に対し、その発生原因を、なぜなぜ分析(5 Whys)で、徹底的に、追及する。
・その原因に対し、二度と再発しないための「恒久対策」を、システムとして、現場に、実装する。
・目標: 3ヶ月以内に、製品不良率を、現在の5%から、1%以下にまで、低減させる。
・提案③:製造工程の再設計(動線分析と、作業の標準化)
・目的: 従業員の「無駄な動き」を、徹底的に排除し、労働生産性を、最大化する。
・具体的施策:
・工場レイアウトを、人間工学に基づき、再設計する。原材料の保管場所から、練り、焼成、包装、出荷までの動線を、一本化し、逆流や、交差を、完全になくす。
・全ての作業を、ビデオで撮影・分析し、最も効率的な動きを、「標準作業手順書(SOP)」として、映像と共に、マニュアル化する。
4. 期待される効果(定量的試算)
本計画の実行により、以下の財務的インパクトが見込まれる。
・直接的コスト削減
・歩留まり率改善(不良率 5% → 1%): 約 960万円 の損失圧縮
・生産性向上(非効率作業 15分/バッチ → 0分): 約 850万円 の人件費削減
・間接的効果
・原材料費の安定化(入り口管理の徹底): サプライヤーとの価格交渉力強化
・新商品開発の加速(機会損失の解消): 高付加価値商品による、売上向上
・合計(直接効果のみ): 約 1,810万円 の利益改善
5. 結論:品質こそが、最強の経営資源である
社長、繰り返しますが、これは、単なる、コスト削減案では、ありません。これは、会社の、隅々にまで巣食った「品質に対する、僅かな甘え」という名の、病巣を、完全に切除するための、大手術です。手術には、痛みが伴います。現場からは、必ず、反発の声が上がるでしょう。
しかし、この手術を成功させ、福あかり本舗が、「品質」という、揺るぎない背骨を、取り戻すことができた時、我々は、もはや、外部環境の変化に、一喜一憂するような、脆弱な組織ではなくなっているはずです。
「神は、細部に宿る」 先代社長が、口癖のようにおっしゃっていた、言葉です。
我々が、今、立ち返るべきは、この、創業の精神そのものです。品質こそが、我々の、最強の武器であり、最高の、経営資源であると、私は、確信しております。
ご決断を、お願いいたします。
以上




