小休止
森の中でも、ひときわ日差しがよく差し込む小さな空き地に出た。
木々が円を描くように開けていて、まるでそこだけが自然に守られた小さな舞台みたいだった。
エリスさんが足を止め、ふと振り返る。
「いい場所だね。ちょっとここで休憩しよっか」
湖からだいぶ歩いている。体力に自信のない僕は少し息が上がっていた。
「そうだね、休もう」
僕はただ歩いてるだけだが、エリスさんは先ほどのオーガ戦で体力をガッツリ消耗してるはずだ。しかも森の中をずっと裸足で歩いてるから足も疲れているに違いない。
それでも道中ずっと僕のことを気にかけてくれている。なんて優しくて健気な女の子だろう。
エリスさんは迷いもなく草の上に腰を下ろす。股の前後に垂れる布がたゆみ、その隙間から彼女の白くて滑らかな内ももが垣間見えた。
(うおっ……危ない……!)
座る時の挙動でも腰布が僕の意識を翻弄させてくる。
直視しないよう努めながら僕も対面に座った。
「んーっ、気持ちいいね、木漏れ日」
エリスさんは両足を揃えてまっすぐ伸ばし、両手を後ろについて上半身を反らした。
その拍子に胸の大きな膨らみがより強調され、細い胸布が今にもぺろんとズレそうになる。
(やばいやばい……! こぼれるこぼれる……!)
そして太ももに乗っかっている布の裾も上がる。本当にギリギリのところでストップし、あとは布が作る影だけが股の間を隠してるに過ぎなくなった。
(なんだこれ……! 全く休憩にならないぞ……!)
心臓バクバクでさっきよりも呼吸が荒くなりつつも、どうしても僕の目はエリスさんに吸い寄せられてしまう。
そんな僕の心境を全く察していない様子で、エリスさんはにこやかに口を開いた。
「それで、お兄さんがいた世界ってどんなところだったの?」
「え? あー……えっとー……面白くはない世界かな。大半の人が、自分がやりたいわけじゃないことを毎日やって、本当にやりたいことがあっても失敗して、気がついたら人生も終盤って感じ」
「へぇ、そうなんだ。難しそうな世界だね。じゃあこっちの世界では楽しいことがあるといいね!」
いやもう十分楽しませてもらってますけどね……!
こんな可愛い女の子、しかもこんな際どい格好をした女の子と少しの時間とはいえ行動を共にしたことなんて今までありませんでしたから……!
「そ、そうだね。元の世界では味わえない刺激的な体験をさせてもらってるよ」
「いきなりモンスターに襲われちゃったもんね」
「うん。エリスさんにとっては日常茶飯事かもしれないけど」
「日常茶飯事だけど、刺激的ではあるよ。いつも危険と隣り合わせだからね。何ていうか、負けたら終わり、みたいな?」
冗談っぽく言いながら、足の指をくねくね動かしてリラックスしているエリスさん。両足を伸ばしてこちらに向けているため、僕からは足の裏が丸見えになっている。スベスベで綺麗な足の裏は土や草で少し汚れていて、そこもまた見てはいけないものを見ているような感じでドキドキした。
いけない、ついじっと見入ってしまった。それに気づいたのかどうか定かではないが、エリスさんはさり気なく足裏の汚れを手で払った。
「……裸足ってね、最初はちょっとチクチクしてたけど、慣れるとけっこう気持ちいいんだよ。地面のぬくもりとか、草の感触とか、ちゃんと感じられるの」
「……自然と一体化してる、みたいな?」
「うん。そんな感じ。それに『身肌集中』の一環にもなるしね」
「しんき集中?」
「あ、ごめんごめん。ほら、さっきも言った、素肌をより多くさらすことで集中力とか精神力とか忍耐力とか、そういう戦闘能力を高めるってやつ。それが身肌集中っていって、踊り子独自の特殊技能なんだよ」
「ああ、なるほど」
エリスさんは地面に両膝を立ててから、今度は正座した。すると白くて肉付きのいい太ももがさらにむちっと膨らみ、なおかつ腰布が股の間に挟まったせいで、布の両サイドから太ももの根元がより一層丸見えになった。
座る姿勢を変えただけでこの破壊力。僕はいけないと分かっていてもエリスさんの体に釘付けになる。けど、エリスさんは全く気にしていない。むしろ心からくつろいでいて――それが余計に可憐で、目を逸らせない。
「たぶん、お兄さんの世界にはエリスみたいな踊り子はいないんでしょ?」
僕はしっかりと頷く。
こんな裸同然の格好で外を出歩いている踊り子少女なんて、現代社会にいるはずもない。まして身肌集中とかで強くなる人も。
「そっか。じゃあいいこと思いついた」
エリスさんは立ち上がり、膝やお尻から草を払った。腰布がふわりと舞い、僕の視界はまた見えそうで見えないぎりぎりの境界を彷徨った。
「エリスの踊り、見せてあげる」